上 下
18 / 55
4章 星夜の過去

しおりを挟む
 成瀬は実家で両親と三人で暮らしている。姉は既に結婚して家を出ていた。彰吾と同じ独身だが、長男で一人息子のため、結婚圧力は感じていて、そろそろ潮時かなと考え始めている。その点彰吾は次男で気楽だよなと、うらやむ気持ちもあった。
「ただいま、あれ、母さんこれから出かけるの」
 帰ると、母親が外出の出で立ちだ。もう既に夕方に近い。
「ええ、これから能楽鑑賞なのよ。夕食はお父さんと済ませてね」
 そう言って、これから行く能楽のパンフレットを見せる。受け取って見ると、出し物は『二人静』。演者は男性ばかり。
「そうか、能も男性ばかりか」
「女性もいるけど、少ないわね。元々男性のみの世界だから、今も男性中心ではあるわね」
 母親の言葉を聞きながら、能、歌舞伎等女性の役を男性が演じる。それがなんとなく星夜に結び付いた。彼は、単に上品なだけでなく、所作の美しさを感じた。何か、普通とは違う佇まい。
 確信は持てないが、そこに取っ掛かりがありそうだ。そんな気がする。
 親友の頼みに引き受けたものの、正直かなり難しいと思った。もしかしたらこれが糸口になりそうな勘がする。

 その後、成瀬は己の勘を信じて能役者、そして歌舞伎役者を片端から調べた。誰か、該当人物がいないか。
 結果、顔写真が公開されている役者に該当人物は見つからなかった。未だ若いから修行中の身か? それにしては、身の回りの世話係いただろう事に矛盾する。その待遇でその他大勢はないだろう。言葉は明らかに関東の言葉だった。つまり関西の人間ではない。
 俺の勘は当たらなかったか……光が見えない。
 かなりの上流階級の人間。ひょっとしたら趣味で、能楽をかじっていた……だから所作も美しい。そうだったら、探すのは物凄い困難だ。
 完全に行き詰ってしまった。彰吾のためにも何とかしてやりたいが、これは難しいなあ……。結局星夜本人に問いただす以外ないのか……。

 成瀬は今一度母に聞いてみることにする。母は能楽などの日本の伝統芸能が好きで、鑑賞することが趣味という人だ。何かヒントをくれないかと思った。
「母さん、能楽や歌舞伎以外に男性が女性役したりするものってあるかな?」
「ああ、踊りもあるわよ」
「踊り?」
「日本舞踊よ。日舞は能とか歌舞伎から派生したものだから。宗家も男性が多いわよ」
 そうか、日舞もあるのか。
「日舞って流派があるんだよね。多いのかな?」
「五大流派があって、あとその分派とか色々あるのよ。まあ、小さいところも含めればかなりの流派があるでしょうね。ただ、大きくて有名なのが五大流派よ」
「そうか、なるほど。ありがとう」
「あなたが伝統芸能に興味を持つなんて、珍しいわね。今までは私の趣味にまるで無関心だったのに」
「ちょっとクライアントがらみでね」
 そう言うと母はそれ以上追求しない。クライアントがらみなら守秘義務がある。故に追求することはご法度、それは長年弁護士の妻として身に付いているのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美春と亜樹

巴月のん
恋愛
付き合っていた二人の攻防による復縁話 美春は先輩である亜樹と付き合っていたが、度重なる浮気に限界を感じて別れた。 しかし、別れてから積極的になった彼に対して複雑な思いを抱く。 なろうにも出していた話を少し修正したものです。

【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~

ちゃっぷす
BL
Ωであることを隠して生きてきた少年薬師、エディ。 両親を亡くしてからは家業の薬屋を継ぎ、細々と生活していた。 しかしとうとう家計が回らなくなり、もっと稼げる仕事に転職することを決意する。 職探しをしていたエディは、β男性対象で募集しているメイドの求人を見つけた。 エディはβと偽り、侯爵家のメイドになったのだが、お仕えする侯爵令息が極度のΩ嫌いだった――!! ※※※※ ご注意ください。 以下のカップリングで苦手なものがある方は引き返してください。 ※※※※ 攻め主人公(α)×主人公(Ω) 執事(β)×主人公(Ω) 執事(β)×攻め主人公(α) 攻め主人公(α)×主人公(Ω)+執事(β)(愛撫のみ) モブおじ(二人)×攻め主人公(α)

すばる君♡BIIIIG LOVE!!!

野中にんぎょ
BL
 矢部睦月(31歳・昴を愛するがゆえ暴走気味な喫茶店店主)は、五年付き合っている年下の恋人・奥泉昴(27歳・愛情表現下手な美容師)に夢中。睦月は昴を全力で愛し全力でやきもちを焼き全力でサポートしてきたが、昴とヘアサロンの顧客の間に起きたトラブルに割って入ってしまい、昴から「次に同じようなことがあったら別れる」と宣告されてしまう。昴との別れに怯え本音を隠すようになる睦月だったが……?  愛なら、なんでもアリですか?エロス(恋愛)、ストルゲ(友愛)、マニア(偏執的な愛)、アガペー(無償の愛)。四つの愛が入り乱れる、すったもんだラブ!!

婚約破棄!? ならわかっているよね?

Giovenassi
恋愛
突然の理不尽な婚約破棄などゆるされるわけがないっ!

真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

ともどーも
恋愛
 その昔、精霊女王の加護を賜った少女がプルメリア王国を建国した。 彼女は精霊達と対話し、その力を借りて魔物の来ない《聖域》を作り出した。  人々は『精霊姫』と彼女を尊敬し、崇めたーーーーーーーーーーープルメリア建国物語。  今では誰も信じていないおとぎ話だ。  近代では『精霊』を『見れる人』は居なくなってしまった。  そんなある日、精霊女王から神託が下った。 《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》  その日エルメリーズ侯爵家に双子が産まれた。  姉アンリーナは精霊姫として厳しく育てられ、妹ローズは溺愛されて育った。  貴族学園の卒業パーティーで、突然アンリーナは婚約者の王太子フレデリックに婚約破棄を言い渡された。  神託の《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》は《長女》ではなく《少女》だったのでないか。  現にローズに神聖力がある。  本物の精霊姫はローズだったのだとフレデリックは宣言した。  偽物扱いされたアンリーナを自ら国外に出ていこうとした、その時ーーー。  精霊姫を愚かにも追い出した王国の物語です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初心者のフワフワ設定です。 温かく見守っていただけると嬉しいです。

お助けキャラに転生したのに主人公に嫌われているのはなんで!?

菟圃(うさぎはたけ)
BL
事故で死んで気がつけば俺はよく遊んでいた18禁BLゲームのお助けキャラに転生していた! 主人公の幼馴染で主人公に必要なものがあればお助けアイテムをくれたり、テストの範囲を教えてくれたりする何でも屋みたいなお助けキャラだ。 お助けキャラだから最後までストーリーを楽しめると思っていたのに…。 優しい主人公が悪役みたいになっていたり!? なんでみんなストーリー通りに動いてくれないの!? 残酷な描写や、無理矢理の表現があります。 苦手な方はご注意ください。 偶に寝ぼけて2話同じ時間帯に投稿してる時があります。 その時は寝惚けてるんだと思って生暖かく見守ってください…

溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル
BL
運命を受け入れたスパダリα(30)×運命の恋に拾われたΩ(27) ──愛してる。俺だけの運命。 婚約者に捨てられたオメガの千歳は、オメガ嫌いであるアルファのレグルシュの元で、一時期居候の身となる。そこでレグルシュの甥である、ユキのシッターとして働いていた。 ユキとの別れ、そして、レグルシュと運命の恋で結ばれ、千歳は子供を身籠った。 新しい家族の誕生。初めての育児に、甘い新婚生活。さらには、二人の仲にヤキモチを焼いたユキに──!? ※こちらは「愛人オメガは運命の恋に拾われる」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/590151775/674683785)の続編になります。

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

処理中です...