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2章 星夜と名付けて
④
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「えっ!」
星夜の姿に絶句する。一瞬、そこに立っているのが、本当に星夜なのか、目を疑う。その変貌ぶりに驚いたのだ。驚愕したと言っていい。長かった黒髪がバッサリと切られ、ショートカットスタイルになっている。
「えっと、お前星夜だよな……」
「きれいな黒髪でしたので、私も本当に切ってもいいのか、何度か確認しました。切るのはもったいないと思ったのですが、とてもお似合いですよね。お顔立ちがとてもきれいなので、髪が引き立て役になっていると思いますよ」
星夜を担当した美容師がにこやかに言う。
確かにそうだ。切る前よりも、より顔のきれいさが引き立っているように見える。それにしてもここまで思い切るとは……。
「ああ、そうだな。凄く似合っているぞ」
彰吾が褒めると、星夜はほっとしたようにはにかんだ笑顔を見せる。
星夜は、彰吾の反応に安心し、そして嬉しいと思う。今身近にいる人は彰吾だけ。その人が褒めてくれた。それが嬉しい。
重い髪を切り取ったからだろうか、頭がとても軽くなった。頭だけでなく、全身が軽やかになった。
星夜は晴れやかな気持ちで店を出た。
その後靴を買ってもらう。やはり彰吾の馴染みの店だった。遠慮がちな星夜に、彰吾は積極的に選んでいく。幾分強引ではあるが、その強引さを、星夜は不快に思わない。むしろ安心感を覚えるのだった。
星夜は一足でいいと言ったのに、結局二足買い、そのうちの一足を早速履くことにする。彰吾が「今日の服にはこっちが合うから、早速履け」と言ったからだ。
彰吾としては、星夜の革靴は堅苦しくて、早く履き替えさせたかったのだ。出会った日に着ていたスーツもクリーニングした後、一応保管はしているが、着せる気持ちはなかった。
星夜の過去に何があったかは、未だに分からないが、それから決別させたい。そして、星夜として生きさせたい。そう思う気持ちが強いのだった。
昼食は外でと思い、予約もしてある。星夜が気を遣わず落ち着いて食事できる店を選んだ。個室になっている、創作和食の店だ。
「どうだ、いい店だろう」
正面に座る星夜を見つめながら聞くと、「はい」と言って頷いた。まだ言葉は少ない。自分からはほとんど話さないが、随分リラックスしているのは感じる。
過去に何があったかは未だに分からない。しかし、生きる気持ちは湧いてきたのでは? それがこのヘアスタイルに現れていると彰吾は思う。少なくとも死にたい気持ちは消えているはずだ。でなければ、イメージチェンジなどしようと思わない。
「美味かったか?」
「はい、美味しかったです。ごちそうさまでした」
丁寧に頭を下げる。相変わらず礼儀正しい。
「ああ、お前にしては食べたな、偉いな」
星夜は、食べ物の好き嫌いはない。しかし、食べる意欲はあるとは言えず、食も細い。それを彰吾は、いつももっと食べさせたいと思っている。人間、生きる意欲と食欲はイコールだ。
この食事も完食は出来なかったが、星夜にしてはよく食べたのは確かだった。それは彰吾にとっても嬉しいことなのだ。少しずつでも前進しているのは確かなことと思える。
星夜の姿に絶句する。一瞬、そこに立っているのが、本当に星夜なのか、目を疑う。その変貌ぶりに驚いたのだ。驚愕したと言っていい。長かった黒髪がバッサリと切られ、ショートカットスタイルになっている。
「えっと、お前星夜だよな……」
「きれいな黒髪でしたので、私も本当に切ってもいいのか、何度か確認しました。切るのはもったいないと思ったのですが、とてもお似合いですよね。お顔立ちがとてもきれいなので、髪が引き立て役になっていると思いますよ」
星夜を担当した美容師がにこやかに言う。
確かにそうだ。切る前よりも、より顔のきれいさが引き立っているように見える。それにしてもここまで思い切るとは……。
「ああ、そうだな。凄く似合っているぞ」
彰吾が褒めると、星夜はほっとしたようにはにかんだ笑顔を見せる。
星夜は、彰吾の反応に安心し、そして嬉しいと思う。今身近にいる人は彰吾だけ。その人が褒めてくれた。それが嬉しい。
重い髪を切り取ったからだろうか、頭がとても軽くなった。頭だけでなく、全身が軽やかになった。
星夜は晴れやかな気持ちで店を出た。
その後靴を買ってもらう。やはり彰吾の馴染みの店だった。遠慮がちな星夜に、彰吾は積極的に選んでいく。幾分強引ではあるが、その強引さを、星夜は不快に思わない。むしろ安心感を覚えるのだった。
星夜は一足でいいと言ったのに、結局二足買い、そのうちの一足を早速履くことにする。彰吾が「今日の服にはこっちが合うから、早速履け」と言ったからだ。
彰吾としては、星夜の革靴は堅苦しくて、早く履き替えさせたかったのだ。出会った日に着ていたスーツもクリーニングした後、一応保管はしているが、着せる気持ちはなかった。
星夜の過去に何があったかは、未だに分からないが、それから決別させたい。そして、星夜として生きさせたい。そう思う気持ちが強いのだった。
昼食は外でと思い、予約もしてある。星夜が気を遣わず落ち着いて食事できる店を選んだ。個室になっている、創作和食の店だ。
「どうだ、いい店だろう」
正面に座る星夜を見つめながら聞くと、「はい」と言って頷いた。まだ言葉は少ない。自分からはほとんど話さないが、随分リラックスしているのは感じる。
過去に何があったかは未だに分からない。しかし、生きる気持ちは湧いてきたのでは? それがこのヘアスタイルに現れていると彰吾は思う。少なくとも死にたい気持ちは消えているはずだ。でなければ、イメージチェンジなどしようと思わない。
「美味かったか?」
「はい、美味しかったです。ごちそうさまでした」
丁寧に頭を下げる。相変わらず礼儀正しい。
「ああ、お前にしては食べたな、偉いな」
星夜は、食べ物の好き嫌いはない。しかし、食べる意欲はあるとは言えず、食も細い。それを彰吾は、いつももっと食べさせたいと思っている。人間、生きる意欲と食欲はイコールだ。
この食事も完食は出来なかったが、星夜にしてはよく食べたのは確かだった。それは彰吾にとっても嬉しいことなのだ。少しずつでも前進しているのは確かなことと思える。
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