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1章 美しい青年の秘密

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 管理人から連絡を受けた彰吾は、青年は病み上がりのため、意識が朦朧とするところがあるのかもしれない。迷惑かけて申し訳ないが、よろしくお願いすると応えた。事情があって知人をしばらく同居させることは、コンシェルジに知らせてあるため、そこはスムーズに理解された。入居時にしっかり身元は確認されているので、信用されているのだ。

 慌てて部屋へ戻った青年は、暫く心臓の動悸が止まらない。いきなり声を掛けられて心底驚いた。これはだめだ。あれで、警察に通報されたら終わりだ。
 バスローブ姿にスリッパ……外へ出るのはあきらめよう。クリーニングに出された服が戻れば何とかなる。服さえ着ていれば足元はスリッパでも目立たないかも……。それまで待つか、それとも手首でも切るか……。手首を切って死ねるかな。もし死に損なって、あの人帰ってきたら、確実に助けられるよな、外科医って言ってたし……。
 しばらく考えた末、服が戻るまで待つことにする。今朝までの様子で、柏木が悪い人でないことは感じる。とりあえず服が戻るまでここにいても身に危険が及ぶことはないだろう。
 死にたい人間が身の危険の心配か……別に矛盾していない。自分は、死にたいけど乱暴されたいわけじゃない。そして、警察へ通報されることも、今のところ心配なさそうだ。

 リビングのソファーに座り、眼を閉じる。過去の出来事が脳裏に浮かぶ。思い出したくない。テレビに目が行くが、見たいとは思わない。今までもテレビを見ることはほとんどなかった。それより、何か読んだほうがいい。そうすれば、一時忘れられるかもしれない。
 幸い柏木が、今朝出かける前に書斎の本は自由に読んでいいと言ってくれた。何があるかなと書斎へ行こうと立ち上がる。何となしに、他の部屋も見たくなり、全部見て回る。
 それで気が付いた。ベッドが一つしかない。自分はてっきり客室で寝ていると思っていたが、ここに客室はないのか? つまり、自分が二晩寝た部屋は、柏木の部屋なのだろうか? 急に柏木に対して申し訳ない気持ちになる。
 確か、帰国後実家には戻らず、ここで一人暮らしをしていると言った。一人暮らしの部屋に客室などないのか? それは、至極当たり前の事だが、世間とは隔絶した世界で生きてきた青年には分からない事だった。

 書斎に入り、本棚に並ぶ本を見る。かなりの量の本がある。明らかに医学書系の本は見過ごし、読めそうな本を探す。歴史関係の本に興味を引かれた。そのうちの一冊を手に取り、パラパラとめくる。自分でも読めそうだ。そう思いリビングへ戻りソファーに座って読み始める。
 思えばこんなふうに、のんびり本を読むことなんてなかった。そう思って読み進めると、中々に面白くそのまま読み進める。

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