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11章 花が咲く前に
①
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尚希の母の一周忌法要が無事に執り行われた。
尚希にとっては無論、尚久にとっても一つの節目を無事済ませた思いで、安堵するのだった。
一周忌が終われば結婚式のことを考えることができる。
今までは、喪中ということもあり、水面下で進めてきたが、今からは公に進めることが出来るのだ。
「尚希、結婚式の日取りだけど十一月二十二日にしたいと思うが、お前は大丈夫か? 前日の土曜日から、次の日曜日まで結婚休暇取れると良いが」
「うん、大丈夫だと思う」
「で、旅行だけど」
「旅行?」
「どこか行きたい所はあるか?」
「僕が行くの?」
「当たり前だろ、お前が行かなくて誰が行くのか」
尚希はきょとんとする。旅行など全く考えていなかったからだ。そんな尚希に、尚久はさすがに呆れる。これは全く考えていなかった顔だと分かるからだ。
「お前なあ……結婚したら新婚旅行だろう。全く考えていなかったのか?」
「ごめんなさい……今言われて気付いた」
「ふっ、全くお前は――旅行、父さんと母さんのプレゼントなんだ。さすがにそろそろ予約しないと、と思ってな」
「そんな、いいのかなぁ……悪いよね」
「兄さんたちも新婚旅行をプレゼントされてるから、私たちも甘えて大丈夫だ。ちなみに兄さんたちはバリへ行った」
「バリかあー素敵だなあ……蒼先生の希望だったの?」
「父さんたちもバリだったんだよ。だからあお君が希望したんじゃないかな。あお君は、母さんに憧れていたから」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。あお君は母さんに憧れて、同じ小児科医になったんだよ」
そうなのか、そうだったのか。それで同じバリ。確かにバリも魅力的だけど、尚希はそれより惹かれるものがある。
考え込む尚希を見ていて尚久は思いついた。何も兄たちと同じ場所へ行くことはない。あえて、違う場所にしようと。
「バリでなくてもいいぞ。行きたい所はないか? 興味がある所とか」
「うーん……僕は海外旅行よりも国内の方がいいかなぁ。夜行列車に一度乗ってみたいんだ」
「なるほどそれはかえっていいかもしれないなあ」
尚久が同意すると、尚希の目が輝く。尚希は幼い頃から列車に興味があり、夜行列車とか観光列車には、特に乗ってみたいと思っていたのだ。
「尚さんがいいなら、夜行列車とか観光列車に乗って国内旅行にしたいなぁ」
「そうだな! よしっ! それで決まりだ」
夜行列車は、サンライズ出雲とサンライズ瀬戸しかないため、サンライズ出雲に決める。そしてそれを中心に旅のルートを決めていくことにする。
二人はネットで調べながら、おおよその日程を決めていく。その後、旅行会社へ希望を伝えて手配を依頼した。尚希は、宿への拘りはないが、尚久は新婚旅行だからだと、良い部屋を希望した。国内旅行なのだからと、和風の温泉旅館にする。
「新婚旅行はこれで決まったな。私も列車の旅は初めてだから楽しみだ」
「うん、僕も凄く楽しみ。だけどこんな贅沢な旅行もったいないね」
「まあ、新婚旅行なんて一生に一度だからな。良い思い出にしたい」
結婚式の日取りも決まり、新婚旅行も決まった。
その後も尚久は、持ち前の行動力を発揮して、着々と準備を進めるのだった。
尚希のマンションのリフォーム工事も始まり、完成は近い。完成後に搬入する家具も決めている。
尚希は、尚久の行動力に目を見張る思いになる。さすがは、これがアルファなのかな、自分とは全く違う。自分は何もしていないのに、全てが決まってくことに、少し怖さも感じるのだった。
こんなに、ボーっとしていていいのだろうか――良くはない。でも、どうすればいいのか分からない――。ただ圧倒されるだけで、何もしていない。
情けなさに落ち込んでくるのだった。
尚希にとっては無論、尚久にとっても一つの節目を無事済ませた思いで、安堵するのだった。
一周忌が終われば結婚式のことを考えることができる。
今までは、喪中ということもあり、水面下で進めてきたが、今からは公に進めることが出来るのだ。
「尚希、結婚式の日取りだけど十一月二十二日にしたいと思うが、お前は大丈夫か? 前日の土曜日から、次の日曜日まで結婚休暇取れると良いが」
「うん、大丈夫だと思う」
「で、旅行だけど」
「旅行?」
「どこか行きたい所はあるか?」
「僕が行くの?」
「当たり前だろ、お前が行かなくて誰が行くのか」
尚希はきょとんとする。旅行など全く考えていなかったからだ。そんな尚希に、尚久はさすがに呆れる。これは全く考えていなかった顔だと分かるからだ。
「お前なあ……結婚したら新婚旅行だろう。全く考えていなかったのか?」
「ごめんなさい……今言われて気付いた」
「ふっ、全くお前は――旅行、父さんと母さんのプレゼントなんだ。さすがにそろそろ予約しないと、と思ってな」
「そんな、いいのかなぁ……悪いよね」
「兄さんたちも新婚旅行をプレゼントされてるから、私たちも甘えて大丈夫だ。ちなみに兄さんたちはバリへ行った」
「バリかあー素敵だなあ……蒼先生の希望だったの?」
「父さんたちもバリだったんだよ。だからあお君が希望したんじゃないかな。あお君は、母さんに憧れていたから」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。あお君は母さんに憧れて、同じ小児科医になったんだよ」
そうなのか、そうだったのか。それで同じバリ。確かにバリも魅力的だけど、尚希はそれより惹かれるものがある。
考え込む尚希を見ていて尚久は思いついた。何も兄たちと同じ場所へ行くことはない。あえて、違う場所にしようと。
「バリでなくてもいいぞ。行きたい所はないか? 興味がある所とか」
「うーん……僕は海外旅行よりも国内の方がいいかなぁ。夜行列車に一度乗ってみたいんだ」
「なるほどそれはかえっていいかもしれないなあ」
尚久が同意すると、尚希の目が輝く。尚希は幼い頃から列車に興味があり、夜行列車とか観光列車には、特に乗ってみたいと思っていたのだ。
「尚さんがいいなら、夜行列車とか観光列車に乗って国内旅行にしたいなぁ」
「そうだな! よしっ! それで決まりだ」
夜行列車は、サンライズ出雲とサンライズ瀬戸しかないため、サンライズ出雲に決める。そしてそれを中心に旅のルートを決めていくことにする。
二人はネットで調べながら、おおよその日程を決めていく。その後、旅行会社へ希望を伝えて手配を依頼した。尚希は、宿への拘りはないが、尚久は新婚旅行だからだと、良い部屋を希望した。国内旅行なのだからと、和風の温泉旅館にする。
「新婚旅行はこれで決まったな。私も列車の旅は初めてだから楽しみだ」
「うん、僕も凄く楽しみ。だけどこんな贅沢な旅行もったいないね」
「まあ、新婚旅行なんて一生に一度だからな。良い思い出にしたい」
結婚式の日取りも決まり、新婚旅行も決まった。
その後も尚久は、持ち前の行動力を発揮して、着々と準備を進めるのだった。
尚希のマンションのリフォーム工事も始まり、完成は近い。完成後に搬入する家具も決めている。
尚希は、尚久の行動力に目を見張る思いになる。さすがは、これがアルファなのかな、自分とは全く違う。自分は何もしていないのに、全てが決まってくことに、少し怖さも感じるのだった。
こんなに、ボーっとしていていいのだろうか――良くはない。でも、どうすればいいのか分からない――。ただ圧倒されるだけで、何もしていない。
情けなさに落ち込んでくるのだった。
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