秋風の色

梅川 ノン

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10章 愛する人の支え

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「では僕から取るよ。この白いの、一番あお君のイメージだから」
 優勝した彰久がホワイトチョコレートのエクレアを取る。確かに、一番清楚な感じがする。そのチョイスは彰久らしいと皆が思う。二番目の春久は色鮮やかなベリーショコラを選ぶ。子供らしい選択だ。続いて蒼はレモンクリームを取る。
「やっぱり! さすがあお君! それ僕のイメージだよね」
 蒼が頬を染めて頷く。甘い! 食べる前から、そこだけ甘すぎる! 皆の視線。無論蒼は気付いていないが、彰久は十分承知で自慢気だ。
 その後も次々と取っていき、残ったのはコーヒークリームとピスタチオの少し地味な色合いのもの。尚希は、ピスタチオを選んだ。
「おっ、最後に残ったのはこれか。私はねこれが良いと思ってたんだよ」
 本当なのか、負け惜しみなのか高久がそう言って最後のエクレアを皿に取る。
「では、いただこうか、いただきます」
 雪哉の声掛けで皆食べ始める。飲み物は、尚希と春久がジュース、他はコーヒー。そうなのだ、相変わらず尚希は春久側なのだ。
 皆が美味しと言いながら食べる。特に春久は、両隣の両親から、一口ずつもらいニコニコ顔だ。
「尚希君ごちそうさま。美味しかったよ」
 皆にそう言われて、尚希は恥ずかし気に頷く。良かった、喜んでもらえて、そう心から思った。
 今日は、母を亡くしてから、初めて微笑むことが出来た。
 いつまでも悲しんでいてはいけない。学業、そして就活も頑張らねばと、どこか悲壮感があった。それが、少し軽くなったように感じる。

 尚希の微笑みに、本人よりも安堵したのは尚久かもしれない。
 母を亡くした尚希を、支えてやらねばならないとは思っている。元々華奢な体を益々細くした尚希。可哀そうで、愛おしくて抱きしめてやりたい。しかし、それをして良いのか――逡巡するのだった。
 今日のように自然に笑顔が出れば、大丈夫だろう。少しずつ乗り越えていけるだろう。それには、自分が一人で支えるのでなく。北畠家の家族が力になる。
 それは分かっていたが、再認識したのだった。

 尚希の応募した会社の選考は、とんとん拍子で進んだ。教授の推薦ということで、先方も採用を前提に考えていたこともある。
「尚さん、採用決定通知だよ」
「おっ! 来たか。良かったな!」
「うん、ありがとう。尚さんが買ってくれたスーツのおかげだよ」
「それはないと思うぞ。お前が頑張ったからだぞ」
「尚さんが買ってくれたスーツだから、尚さんが一緒にいてくれるって思えて、落ち着いていられた。だから尚さんのおかげだよ」
「お前は、そういう可愛いこと言うと」
 尚久は尚希を抱き寄せ、その額に口付ける。そして、唇にも――。尚希はびっくりして、目を見開くが、慌てて閉じる。
 その様が可愛くて、尚久は舌も侵入させて、尚希の口腔内を愛撫する。久しぶりに味わうそこは甘く、尚久を満足させる。
 溢れる唾液を啜ってやり唇を離すと、尚希の目はとろんとして、目じりが赤く、ひどく扇情的で誘われているように感じる。
「もっ、もう……だめ……」
「どうしてだめなんだ、うん」
「だっ、だって」
「ここは、お前と私しかいない」
「でっ、でも……」
 例え二人っきりでも、ここは北畠家の客室。それが尚希には気になるのだろう。確かに、これ以上はやばいと尚久も思う。歯止めが効かなくなる前に、理性を発動させることにする。
「そうだな、あお君にも知らせよう。あお君も、母さんたちも心配してたから、皆喜ぶよ」

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