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7章 初めての恋心
⑥
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尚久には、尚希の戸惑いが手に取るようにして分かる。
この間の今日、意識しているんだろう。
そこが、初々しくて、可愛い。苦笑しながらも、少し、からかいたくなる。
尚希の肩に触れると、びくっと反応する。
「そうか、何かお祝いしてやらないとな」
「そっ、そんな大げさな。定期テストで点が良かっただけだから」
「でも、頑張ったじゃないか」
蒼にまで言われ、尚希は焦った。実際、そこまで嬉しいことではない。ちょっと言い訳で言っただけだから。それなのに、かえって窮地に陥っているような……。
「ほんと、そこまで大したことではないから。あっ、あのいつもご飯いただいて、僕にはお祝いみたいな感じなので」
「こちらこそ、いつものご飯、そこまでのものじゃないけど」
そう言って、蒼は納得してくれたみたで、尚希はほっとする。
尚久を見ると、にやっとされる。もっ、もう……なっ、なに……。焦る尚希に、尚久は内心おかしくてたまらない。
でも、これ以上からかうと、さすがに可哀想か――嫌われても困るかと、自制も働く。
「じゃあ、今日もうちの美味い飯、食ってけよ。あお君、今日は何ですか?」
「今日は、エビフライなんだ」
「手作りのタルタルソースだよね」
「そうだよ、それが美味しいからね」
「わーい! やったー! うれしいなあ!」
春久ももろ手を挙げて喜んでいる。
「あお君手作りのタルタルソース付きのエビフライならご馳走だ。お祝いになるな、良かったな尚希」
お祝いの言葉に面映ゆいが、尚希は素直に頷く。
実際、尚希も以前ご馳走になったことがあるが、本当に美味しかった。
からっと揚がったエビフライは、プリプリしていた。そして、添えられたタルタルソースは絶品だった。エビフライを倍以上引き立てていた。
尚希は、こんな美味しいエビフライとタルタルソースは初めて食べると思った。それくらい美味しかった。
だから、今晩エビフライをご馳走になるのは、素直に嬉しい。
美味しいものがあれば、尚久に対する照れと、恥ずかしさは何とかなるかもしれないと思った。
期待通りその晩、北畠家の夕食は凄く美味しかった。
「このタルタルソースが絶品だよね。エビフライの引き立て役以上っていうか」
「そうだね、みんなに褒めてもらうと作った甲斐があるよ」
「蒼の料理は、なんでも美味いけど、これは中でも絶品だよ」
「少し手がかかるから、休日じゃないと出来ないのが難点だけど」
「そう言って、休日だって色々忙しいのに、こんな手の込んだ料理作ってくれて、僕は幸せだよ。大好きだよあお君」
料理を褒めながら、愛の告白までする彰久。
「あっ、あき君……」
「お父様は、お母様が大好きなんだから、幸せなんだよね」
「そうだ、僕はあお君と暮らせるから幸せなんだ。そのおかげではるも産まれたんだしな」
「ぼくが産まれたのは、お母様のおかげなの?」
「そうだよ。あお君が僕と結婚してくれて、だからはるが産まれたんだよ」
「よかった! お母様! お父様と結婚してくれてありがとう!」
「僕も、あき君と結婚出来て幸せだよ」
いつも、彰久があからさまに愛を告げるのを、恥じ入る蒼には珍しく、はっきりとした愛の言葉だった。
普段は、彰久からの一方的な愛情のように見えるが、蒼の彰久への愛もそれ以上に深い。
決して一方通行ではない、お互いの強い絆を感じさせられる。二十年以上の思いを貫いて結婚しただけのことはある。
どちらかの片側通行なら、成就しなかっただろうと思われるのだ。
尚希は、幸せな二人の姿が、心から羨ましいと思う。理想的な、夫夫だと思う。
妬ましいとは思わない。自分もそんな恋がしたいか……それは分からない。いや、もっと、平凡な恋でいい。自分は、平凡なベータなんだから。
そう思った時、尚久の方を見る。尚希は、見つめられてドキッとする。慌てて、眼を逸らした。
この間の今日、意識しているんだろう。
そこが、初々しくて、可愛い。苦笑しながらも、少し、からかいたくなる。
尚希の肩に触れると、びくっと反応する。
「そうか、何かお祝いしてやらないとな」
「そっ、そんな大げさな。定期テストで点が良かっただけだから」
「でも、頑張ったじゃないか」
蒼にまで言われ、尚希は焦った。実際、そこまで嬉しいことではない。ちょっと言い訳で言っただけだから。それなのに、かえって窮地に陥っているような……。
「ほんと、そこまで大したことではないから。あっ、あのいつもご飯いただいて、僕にはお祝いみたいな感じなので」
「こちらこそ、いつものご飯、そこまでのものじゃないけど」
そう言って、蒼は納得してくれたみたで、尚希はほっとする。
尚久を見ると、にやっとされる。もっ、もう……なっ、なに……。焦る尚希に、尚久は内心おかしくてたまらない。
でも、これ以上からかうと、さすがに可哀想か――嫌われても困るかと、自制も働く。
「じゃあ、今日もうちの美味い飯、食ってけよ。あお君、今日は何ですか?」
「今日は、エビフライなんだ」
「手作りのタルタルソースだよね」
「そうだよ、それが美味しいからね」
「わーい! やったー! うれしいなあ!」
春久ももろ手を挙げて喜んでいる。
「あお君手作りのタルタルソース付きのエビフライならご馳走だ。お祝いになるな、良かったな尚希」
お祝いの言葉に面映ゆいが、尚希は素直に頷く。
実際、尚希も以前ご馳走になったことがあるが、本当に美味しかった。
からっと揚がったエビフライは、プリプリしていた。そして、添えられたタルタルソースは絶品だった。エビフライを倍以上引き立てていた。
尚希は、こんな美味しいエビフライとタルタルソースは初めて食べると思った。それくらい美味しかった。
だから、今晩エビフライをご馳走になるのは、素直に嬉しい。
美味しいものがあれば、尚久に対する照れと、恥ずかしさは何とかなるかもしれないと思った。
期待通りその晩、北畠家の夕食は凄く美味しかった。
「このタルタルソースが絶品だよね。エビフライの引き立て役以上っていうか」
「そうだね、みんなに褒めてもらうと作った甲斐があるよ」
「蒼の料理は、なんでも美味いけど、これは中でも絶品だよ」
「少し手がかかるから、休日じゃないと出来ないのが難点だけど」
「そう言って、休日だって色々忙しいのに、こんな手の込んだ料理作ってくれて、僕は幸せだよ。大好きだよあお君」
料理を褒めながら、愛の告白までする彰久。
「あっ、あき君……」
「お父様は、お母様が大好きなんだから、幸せなんだよね」
「そうだ、僕はあお君と暮らせるから幸せなんだ。そのおかげではるも産まれたんだしな」
「ぼくが産まれたのは、お母様のおかげなの?」
「そうだよ。あお君が僕と結婚してくれて、だからはるが産まれたんだよ」
「よかった! お母様! お父様と結婚してくれてありがとう!」
「僕も、あき君と結婚出来て幸せだよ」
いつも、彰久があからさまに愛を告げるのを、恥じ入る蒼には珍しく、はっきりとした愛の言葉だった。
普段は、彰久からの一方的な愛情のように見えるが、蒼の彰久への愛もそれ以上に深い。
決して一方通行ではない、お互いの強い絆を感じさせられる。二十年以上の思いを貫いて結婚しただけのことはある。
どちらかの片側通行なら、成就しなかっただろうと思われるのだ。
尚希は、幸せな二人の姿が、心から羨ましいと思う。理想的な、夫夫だと思う。
妬ましいとは思わない。自分もそんな恋がしたいか……それは分からない。いや、もっと、平凡な恋でいい。自分は、平凡なベータなんだから。
そう思った時、尚久の方を見る。尚希は、見つめられてドキッとする。慌てて、眼を逸らした。
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