秋風の色

梅川 ノン

文字の大きさ
上 下
45 / 78
7章 初めての恋心

しおりを挟む
 誰もいない家に帰り付いて、ソファーに崩れ落ちるように体を横たえる。
 そのまま、暫くぼーっとしていた。
 気づいたら部屋は真っ暗だった。日が落ちたのも気づかずにいた。
 尚希は、よろっと起き上がり照明を付ける。
 部屋は明るくなったが、心は暗いままだ。

 先生に会いたい……せめて、声が聞きたい……。

 悶々と考えていると、スマホが鳴る。先生だ! 

「せっ、先生!」
『ああ、私だよ。どうした? そんなに慌てて』
「あっ、いや、別に」
『そうか、明日定時なんだ。大学へ迎えに行くよ』
 尚久が、定時に終業出来る時は、大学まで迎えに来てくれる時が多い。女学生に見られたのもその時だったのだろう。
「えっと、明日は家の方が」
『――? 家の方がいいのか。それじゃあ、六時くらいかな、着いたら電話するよ』
「はい、分かりました」
 短い会話だった。何故、家の方がいいいのか、聞かれることも無かった。しかし、尚久には尚希の常とは違う様子は、しっかりと伝わっていた。

「何があった?」
 食事をして、帰りの車の中で聞かれる。食事の間は、とりとめのない会話だった。だから油断した。尚希は慌てた。
「なっ、何って」
「何かあったんだろう。お前から言わないかと思ってたが、どうやら言いそうにない。何があった? 思ってる事は言わないと、ため込むと落ち込むぞ」
 な、なんで先生には分かるんだろう……。尚希は、うつむいたまま言葉が出ない。
「話して見ろ」
 目立たぬ場所で車を止めて、尚久は、覗き込むようにして問う。言わないと、許されそうにない。尚希は観念した。
「えっと、……大学の女の子たちが、先生を紹介して欲しいって」
「紹介って」
「先生がハイスペックだから、お近づきになりたいって。玉の輿にのりたいみたいな」
「なんだよ、それ。断れよ」
「断った。断ったけど……」
「なんだ、まだなんか言われたのか?」
「僕も玉の輿狙っているのかだって。でも、地味なベータが相手にされるわけないって」
「相手にしてるじゃないか」
「わ、若い体だけが目当てで……いっ、一回寝たら捨てられるって……」
「お前も、私のことそういうふうに思ってるのか」
 尚希は慌てて顔を、横に振る。
「そっ、そんなこと思ってない」
「だったらいいじゃないか。そんな女の子たちの言う事、無視してればいい」

 尚久の力強い言葉に安堵する思いもあるが、尚希にはまだ、心に引っかかることがある。
「うん……」
「なんだ? まだ何か言われたのか?」
「言われたっていうか……先生は僕の何かな……って思って。その子たちに、最初先生の事彼氏かって聞かれたから」
「肯定しなかったのか?」
「う、うん」
「ふっ、だから紹介しろって言われたんだよ。彼氏だって言ってれば、それで終わってたろ。その子たちも、諦めたんじゃないのか」
「でっ、でも……かっ、彼氏なの……」
「そうだろ。こうして時々デートしてるだろ。そういう相手の事を普通は彼氏って言うんじゃないのか」
「デっ、デートなの!?」
「お前、なんて思ってたんだよ」
 なんてって……何も思ってなかった。デートだったのか――尚希は混乱して、言葉が出ない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい

海野幻創
BL
「その溺愛は伝わりづらい」の続編です。 久世透(くぜとおる)は、国会議員の秘書官として働く御曹司。 ノンケの生田雅紀(いくたまさき)に出会って両想いになれたはずが、同棲して三ヶ月後に解消せざるを得なくなる。 時を同じくして、首相である祖父と、秘書官としてついている西園寺議員から、久世は政略結婚の話を持ちかけられた。 前作→【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

処理中です...