秋風の色

梅川 ノン

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6章 母への理解

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 尚希と母の関係は、良い方向に変わった。

 尚希は、母への見方が変わった。そして接し方も変わった。
 今までは、とにかく忙しく、仕事第一の母に、半ばあきらめの気持ちがあった。自分のことは何も話すことは無かった。
 故に、北畠家へ出入りしていることも話していなかった。
 けれど、色々と話すようになった。そうすると、不思議に会話も弾むようになった。自分の知らない事を知り、気づかない事を、気付いたりもする。
 母を見直す思いになることも、多かった。今更ながら、母は立派な社会人なんだと思うのだった。
 思えば、父が亡くなってから、母は一人で頑張って来たのだ。
 淋しい思いはしたが、不自由な思いはしていない。
 尚久や蒼からも、指摘されたが、女手一つで頑張る母には、感謝しないといけない。そういう思いも持った。ただ、直接口に出すことはできない。

 恵美は恵美で、過去の自分を振り返り、尚希への接し方を変えようと意識した。自分の知らないうちに、尚希が北畠家と交流していたことを初めは驚いた。正直な気持ち、尚希が他人様の家に出入りしていることが意外だった。
 しかし、尚希が受け入れられているのなら、それは嬉しいし、ありがたいことだと思った。
 しかも、尚久とは二人でも会ってもいるようだ。尚希はデートとの認識はないようだが、それは奥手だからだろう。
 もし、尚希と尚久の関係が進んだら、明らかに玉の輿だ。尚希が、やっていけるだろうかとは思うが、今からそれを考えても仕方ない。
 恵美は、若くして急に夫を亡くした。人生何があるか分からない。余り先のことを心配しても仕方ないと、そのことで学んだのだった。

「お母さんにお礼伝えてくれたか?」
「うん、言ったよ。喜んでもらえたら良かったって、安心してた」
「そうか、じゃあ私も安心した。うん、どうした?」
「いや、母さんが北畠さんは代々通し字で、それは凄い名家だって言ってた。そんなお宅に僕が出入りしてること、ほんとに驚いたって」
「名家って、そんなもんじゃないよ。単に代々医者やってるだけだよ。お前も普通に出入りしてるだろ」
「そうなんだけど。よく考えたら、恐れ多いっていうか……。母さんにも粗相の無いようにって言われた」
「粗相って、そんな気を遣わなくて大丈夫だよ。お前は今まで通りで」
「そうなの?」
「そうだよ」
 尚久には、この尚希の自然体がいいのだ。尚久を御曹司だと思って、近づいてくる人は、それこそ無数にいる。ちやほやされても、どこかに打算が見えると、ただ萎えるだけなのだ。そういうことにうんざりもしていた。尚希の一見何も考えていないところがいいのだ。
 実際は、尚希も、何も考えていないわけではないだろう。尚久もそれは、分かっていた。しかし、そう感じさせないところが、尚希の良さなのだ。
 だが、そろそろ少し意識させたいなと思う。尚希の中での、自分の位置づけ……。
 どうなのだ? まさか、春久の叔父さんじゃないよな。まあ、未だに先生と呼ぶから、主治医か……。それだと蒼と同列だな。
 実際、尚希にとっての自分は、蒼とどう違うのだろう……。確かに、二人で会うことも最近はある。しかし、だからと言って、自分が蒼よりも、尚希と親しいだろうか?
 そんなことを考えていると、自分で可笑しくなった。ちょっと翻弄されているような気分だ。笑いがこみ上げてくる。尚久はふふっ、と笑いを零す。


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