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6章 母への理解
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尚希の母の態度に意外な思いを持ったのは、尚久もだった。手術前に病院であった時は、ほんの儀礼的な挨拶しか交わせなかった。寸暇を惜しんで来院したことが見て取れたからだ。
挨拶はそつなくされたが、余り愛想がいいとは感じなかった。
あの時の印象と随分違う。帰宅して、気が緩んでいたからか……。どちらにせよ、良かった。自分も好印象だったが、あちらもそうだろうと思われる。
年長者として、気になっていた挨拶を済ませられた。尚久は、そのことに安堵した。
年が離れているのは、中々大変だ。同年代だと、使わなくていい気を使う。
蒼の顔が浮かんだ。遥かに大人の蒼を一心に追いかけた兄も凄いが、蒼の方が大変だったろう。追いかける子供より、受け止める大人の方が、きついものがある。
いや、自分は追いかけられてもいないかと、自嘲気味な笑いを零す。大学生になって、時折二人で会うことを、どう認識しているのだろう。あいつのことだ。デートなんてこれっぽちも思ってないだろうな。尚久は、薄く笑うのだった。
「こんにちは、お邪魔します」
「尚希君いらっしゃい」
蒼が笑顔で迎えてくれる。尚希はほんとにこの人の笑顔は好きだなあと改めて思う。
「なっくん、おじゃましていいよ」
春久もいつもの満面の笑顔で迎えてくれる。春久の笑顔も可愛いくて、大好きだ。
「あの、これ母から……です」
尚希は、紙の包みをおずおずと差し出す。
「えっ、お母さんから? なあに?」
「お菓子です。皆さんでどうぞと……」
「まあ、そんな気を遣われなくていいのに……でも、せっかくだからありがたくいただね。お母さんにはくれぐれもよろしく伝えてね」
「おかし?」
「尚希君のお母さんに頂いたの。あとから皆でいただこうね」
「わあーいっ! おかしだあーっ!」
無邪気に喜ぶ春久が可愛い。
「何をはるは喜んでいるんだ?」
尚久も部屋から出て来た。
「あっ、なお君、尚希君のお母さんからお菓子頂いたの」
「えっ、そうなの……お母さんにはかえって気を遣わせたかな。悪いね」
実は、そういうところはあった。
あの後、尚希の母は、尚希が北畠家へ出入りしていることを、初めて知ったのだった。母にとっては、青天の霹靂とまではいかないが、かなりの驚きだった。
『どうして言わないのよ』と言われた。確かに、いつも母のいない間だったので、尚希は一度も話したことが無かったのだ。
『そんなに度々お邪魔して、ご飯までご馳走になって、なんのお礼もしてこなかったなんて……さぞ常識の無い親と思われたでしょうね……』
それを言われた時は、尚希もちょっと反省した。北畠家の人々の善意に甘えすぎていたし、母の立場も考えていなかったと。やっぱり自分は子供だなあと、改めて思った。
同時に、母への見方が少し変わった。いつも忙しくて、仕事第一の母、自分のことなど興味がない――そんなふうに思っていた。だから、母が尚久の事や、北畠家の人々の事を聞くのが意外に思った。
そして昨夜の事だった。
「尚希、明日北畠さんの所へ行くのでしょう?」
「うん、そのつもりだけど」
「これ、皆様でどうぞって、持って行ってちょうだい」
紙袋に入った品物を差し出す。
「何?」
「フルーツの入った焼き菓子よ。小さい子が食べても大丈夫なように、良い素材を使ってあるから」
確かに、包装からしてなんだか高級そうな感じがする。
「なんか、高級そうだね」
「院長先生のお宅なんだから、安物は失礼でしょ」
うん、それはそう。いつも出されるお菓子は凄く美味しい。多分高級品だと思う。これなら大丈夫かなと、尚希も思ったのだった。
そういう経緯があったので、皆の反応が良かったので、尚希もほっとするのだった。
挨拶はそつなくされたが、余り愛想がいいとは感じなかった。
あの時の印象と随分違う。帰宅して、気が緩んでいたからか……。どちらにせよ、良かった。自分も好印象だったが、あちらもそうだろうと思われる。
年長者として、気になっていた挨拶を済ませられた。尚久は、そのことに安堵した。
年が離れているのは、中々大変だ。同年代だと、使わなくていい気を使う。
蒼の顔が浮かんだ。遥かに大人の蒼を一心に追いかけた兄も凄いが、蒼の方が大変だったろう。追いかける子供より、受け止める大人の方が、きついものがある。
いや、自分は追いかけられてもいないかと、自嘲気味な笑いを零す。大学生になって、時折二人で会うことを、どう認識しているのだろう。あいつのことだ。デートなんてこれっぽちも思ってないだろうな。尚久は、薄く笑うのだった。
「こんにちは、お邪魔します」
「尚希君いらっしゃい」
蒼が笑顔で迎えてくれる。尚希はほんとにこの人の笑顔は好きだなあと改めて思う。
「なっくん、おじゃましていいよ」
春久もいつもの満面の笑顔で迎えてくれる。春久の笑顔も可愛いくて、大好きだ。
「あの、これ母から……です」
尚希は、紙の包みをおずおずと差し出す。
「えっ、お母さんから? なあに?」
「お菓子です。皆さんでどうぞと……」
「まあ、そんな気を遣われなくていいのに……でも、せっかくだからありがたくいただね。お母さんにはくれぐれもよろしく伝えてね」
「おかし?」
「尚希君のお母さんに頂いたの。あとから皆でいただこうね」
「わあーいっ! おかしだあーっ!」
無邪気に喜ぶ春久が可愛い。
「何をはるは喜んでいるんだ?」
尚久も部屋から出て来た。
「あっ、なお君、尚希君のお母さんからお菓子頂いたの」
「えっ、そうなの……お母さんにはかえって気を遣わせたかな。悪いね」
実は、そういうところはあった。
あの後、尚希の母は、尚希が北畠家へ出入りしていることを、初めて知ったのだった。母にとっては、青天の霹靂とまではいかないが、かなりの驚きだった。
『どうして言わないのよ』と言われた。確かに、いつも母のいない間だったので、尚希は一度も話したことが無かったのだ。
『そんなに度々お邪魔して、ご飯までご馳走になって、なんのお礼もしてこなかったなんて……さぞ常識の無い親と思われたでしょうね……』
それを言われた時は、尚希もちょっと反省した。北畠家の人々の善意に甘えすぎていたし、母の立場も考えていなかったと。やっぱり自分は子供だなあと、改めて思った。
同時に、母への見方が少し変わった。いつも忙しくて、仕事第一の母、自分のことなど興味がない――そんなふうに思っていた。だから、母が尚久の事や、北畠家の人々の事を聞くのが意外に思った。
そして昨夜の事だった。
「尚希、明日北畠さんの所へ行くのでしょう?」
「うん、そのつもりだけど」
「これ、皆様でどうぞって、持って行ってちょうだい」
紙袋に入った品物を差し出す。
「何?」
「フルーツの入った焼き菓子よ。小さい子が食べても大丈夫なように、良い素材を使ってあるから」
確かに、包装からしてなんだか高級そうな感じがする。
「なんか、高級そうだね」
「院長先生のお宅なんだから、安物は失礼でしょ」
うん、それはそう。いつも出されるお菓子は凄く美味しい。多分高級品だと思う。これなら大丈夫かなと、尚希も思ったのだった。
そういう経緯があったので、皆の反応が良かったので、尚希もほっとするのだった。
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