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6章 母への理解
①
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「ちょっと遅くなったなあ」
二人で外食をした帰り、十時を過ぎていた。さすがに尚希の母も帰宅しているかと思った。
「お母さん帰ってるんじゃないか?」
「うん、どうかな? でも別に大丈夫だよ」
「いや、もし帰宅されているなら、一度挨拶したい」
「別にいいのに」
「そういうわけにはいかない」
尚希は十八歳を過ぎ成人とは言え、いまだ学生だ。十二歳も年上の男性として、一度親御さんに挨拶したい、そう思っていたが、中々機会が無かった。それが、尚久は気にはなっていたのだ。
マンションの前で、尚希が母に電話を掛けると、帰宅していた。まだ帰宅したばかりだと言う。それで尚久が挨拶したい旨を話すと承諾された。
尚希は何となく緊張した。先生は母に何を話すのだろう……。
「北畠尚久です。一度病院ではお会いしていますが」
「ええ、覚えております。その節は大変お世話になりました。おかげさまで尚希も元気になったようで喜んでおります」
「はい、手術は成功しましたので、私も良かったと思っています。尚希君も大学生になったので、今日のように時折外食へ誘ったりしています。それでお母様にご挨拶をと思いまして」
「まあ! そうなんですか! それはご丁寧にありがとうございます。先生のような立派な方に誘っていただくなんて嬉しいですわ。どうか、尚希をよろしくお願いします」
二人の玄関先での会話。母は、中へどうぞと誘ったが、尚久が夜も遅いからと固辞したのだ。
いつになく、ニコニコ顔の母を、尚希は驚きを持って見る。こんな、笑顔の母さんの顔久しぶりっていうか、初めて見たかもと思った。それくらい、普段の母は笑顔が無い。
母さんこんな顔もするのだと、母の笑顔を見て思った。それくらい意外だった。
終始笑顔で愛想がいい尚希の母に、尚久も安心したようで、こちらも終始愛想がいい。
「それでは、今日はこれで失礼します。夜分に申し訳ございませんでした」と深く礼をして、尚希には目配せをして辞去していった。
「尚希! なあに、北畠先生とお付き合いしてたのね! もうビックリしたけど、良かったじゃない!」
なんだかいつになく、テンションまで高い。
「お付き合いって、そんなんじゃないよ。たまに、ご飯ご馳走になっているだけだよ」
「あのね、時々外食するって、それがお付き合いしているってことじゃない」
「もう、何言ってんの。先生からしたら、僕なんて子供なんだから、美味いご飯食べさしてやるって、それだけだよ」
「確かに子供だけど、ちゃんと親にも挨拶したいって、きちんと考えてくださってるのよ。ほんとに、しっかりした素敵な方ね」
そう言う母の目が、気のせいかハート型になっているようにも見える。何、舞い上がってるの! と言いたい。
「尚希、くれぐれも粗相の無いようにしなさいよ」
「粗相の無いって、どういう事だよ」
「そのままよ、あんなに素敵な方なんだから、嫌われないようにしなさい」
それは僕だって、先生に嫌われたくはない。誘ってもらえるのは嬉しい。だけど、母さんの認識とは違う気がする。
大体なんで、こんなに喜んでいるんだ。先生が素敵だから? そうなんだろうな。まあいいか、嫌って会うなって言われるよりも……尚希はそう思った。
二人で外食をした帰り、十時を過ぎていた。さすがに尚希の母も帰宅しているかと思った。
「お母さん帰ってるんじゃないか?」
「うん、どうかな? でも別に大丈夫だよ」
「いや、もし帰宅されているなら、一度挨拶したい」
「別にいいのに」
「そういうわけにはいかない」
尚希は十八歳を過ぎ成人とは言え、いまだ学生だ。十二歳も年上の男性として、一度親御さんに挨拶したい、そう思っていたが、中々機会が無かった。それが、尚久は気にはなっていたのだ。
マンションの前で、尚希が母に電話を掛けると、帰宅していた。まだ帰宅したばかりだと言う。それで尚久が挨拶したい旨を話すと承諾された。
尚希は何となく緊張した。先生は母に何を話すのだろう……。
「北畠尚久です。一度病院ではお会いしていますが」
「ええ、覚えております。その節は大変お世話になりました。おかげさまで尚希も元気になったようで喜んでおります」
「はい、手術は成功しましたので、私も良かったと思っています。尚希君も大学生になったので、今日のように時折外食へ誘ったりしています。それでお母様にご挨拶をと思いまして」
「まあ! そうなんですか! それはご丁寧にありがとうございます。先生のような立派な方に誘っていただくなんて嬉しいですわ。どうか、尚希をよろしくお願いします」
二人の玄関先での会話。母は、中へどうぞと誘ったが、尚久が夜も遅いからと固辞したのだ。
いつになく、ニコニコ顔の母を、尚希は驚きを持って見る。こんな、笑顔の母さんの顔久しぶりっていうか、初めて見たかもと思った。それくらい、普段の母は笑顔が無い。
母さんこんな顔もするのだと、母の笑顔を見て思った。それくらい意外だった。
終始笑顔で愛想がいい尚希の母に、尚久も安心したようで、こちらも終始愛想がいい。
「それでは、今日はこれで失礼します。夜分に申し訳ございませんでした」と深く礼をして、尚希には目配せをして辞去していった。
「尚希! なあに、北畠先生とお付き合いしてたのね! もうビックリしたけど、良かったじゃない!」
なんだかいつになく、テンションまで高い。
「お付き合いって、そんなんじゃないよ。たまに、ご飯ご馳走になっているだけだよ」
「あのね、時々外食するって、それがお付き合いしているってことじゃない」
「もう、何言ってんの。先生からしたら、僕なんて子供なんだから、美味いご飯食べさしてやるって、それだけだよ」
「確かに子供だけど、ちゃんと親にも挨拶したいって、きちんと考えてくださってるのよ。ほんとに、しっかりした素敵な方ね」
そう言う母の目が、気のせいかハート型になっているようにも見える。何、舞い上がってるの! と言いたい。
「尚希、くれぐれも粗相の無いようにしなさいよ」
「粗相の無いって、どういう事だよ」
「そのままよ、あんなに素敵な方なんだから、嫌われないようにしなさい」
それは僕だって、先生に嫌われたくはない。誘ってもらえるのは嬉しい。だけど、母さんの認識とは違う気がする。
大体なんで、こんなに喜んでいるんだ。先生が素敵だから? そうなんだろうな。まあいいか、嫌って会うなって言われるよりも……尚希はそう思った。
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