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4章 北畠家
④
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「どうだい、美味しいかい?」
雪哉の問いに、尚希は大きく頷く。
「そうかい、良かったよ。沢山食べなさい」
「ほんとわね今日はハンバーグにしようかなって思ってたんだけど、お兄ちゃんがだめだって」
「ごめんね、あき君がいない時、ハンバーグにするとちょっとす拗ねるから」
「もーっ、子供っぽいよねお兄ちゃん。自分がいない時、ハンバーグにすると拗ねるなんて」
「まあ、彰久にとってハンバーグは思い出の味だからな」
なんのことだろう、尚希には話の意味が分からない。その尚希の疑問を察したのだろう、尚久が教えてくれる。
「君には意味分かんないよね。あお君が初めてここへ来た時の夕食がハンバーグだったんだ。つまり、兄さんにとってハンバーグはあお君と出会った時の思いでの味なんだ。今でもハンバーグ食べるとその時のことを思い出すんだよ。だから、自分がいない時にあお君がハンバーグ食べると、一緒に食べたかったと拗ねるんだよ」
なるほど、彰久先生って見たことないけど、結構純情な人なんかな、でも拗ねるって子供っぽいな。しかし尚希にとって彰久は、院長御曹司、つまりエリート中のエリート。そのイメージと繋がらない。
「ちなみにね、その時兄さんは三歳。以来ずーっとあお君一筋。純情だろ」
これには驚いた。三歳からずーっと一筋って……三歳、今の春久の歳だ。純情過ぎる。そして、そこまで思われる蒼先生も凄いな。まあ、確かに蒼先生はきれいだし、子供の時から可愛いかったんだろうな。尚希の中には、小さい子同志の幼い恋の姿が浮かぶ。
「すっ、凄いですね。なんだか、幼馴染の恋って感じですね」
「あお君は、その時十五歳だったけどね」
「えっ! 三歳と十五歳ですか!」
ビックリして、思わず声が大きくなる。そんなに年が離れているのか、それにしても、三歳で十五歳の人を好きになって、それ以来一筋って純情過ぎるなんてもんじゃない。一体、彰久先生ってどんな人なんだろうと、興味を持つ。
「ははっ、ビックリするだろ」
ビックリした。ここ北畠家は中々に驚きが多い。皆の呼び方も、あお君、あき君、なお君ってのも、へーっと思った。しかし、一番の驚きはそれだろう。蒼先生が結婚しているのは知っていたが、夫とそんな経緯があったとは……。
「もーっ、僕たちの話はそれくらいで……尚希君はロールキャベツ好きかな? 美味しいと思うんだけど」
自分たちの恋の話は照れるのだろう、蒼が話を変える。
「美味しいですね。ロールキャベツ多分初めて食べたかも」
「そうなんだ、じゃあ良かったよ。ロールキャベツは母さんの得意料理でね、これは僕が作ったんだけど」
「今じゃ、蒼の作る方が美味しいよ。もうおふくろの味は蒼と結惟が受け継いでくれたな」
雪哉が嬉しそうに言うのを受けて、蒼は頬を染める。その初々しい表情に、尚久の胸はつきんと痛む。この人は、未だにこの表情を見せる。自分はいつもこの表情に惹きつけられた。そして今は、尚久を物悲しくさせる。
彰久が蒼べったりなのはいい。だが、蒼の見せる恥じらいは、蒼の彰久への思いを感じられて辛い。思いを貫いたのは、彰久だけではない。蒼もそうなんだろう。ただ彰久の思いを受け入れただけではない、蒼も彰久への深い思いがあったからこそ、三十後半になるまで待ったのだろう。その現実を突きつけられる。
蒼は自分や結惟にも常に優しかった。しかし、彰久に対する愛情とは違うもの。それが、渡米する前は分からなかったが、今は分かる。兄のものという現実に漸く気付いた。気付くの遅いよ……と尚久は思う。
雪哉の問いに、尚希は大きく頷く。
「そうかい、良かったよ。沢山食べなさい」
「ほんとわね今日はハンバーグにしようかなって思ってたんだけど、お兄ちゃんがだめだって」
「ごめんね、あき君がいない時、ハンバーグにするとちょっとす拗ねるから」
「もーっ、子供っぽいよねお兄ちゃん。自分がいない時、ハンバーグにすると拗ねるなんて」
「まあ、彰久にとってハンバーグは思い出の味だからな」
なんのことだろう、尚希には話の意味が分からない。その尚希の疑問を察したのだろう、尚久が教えてくれる。
「君には意味分かんないよね。あお君が初めてここへ来た時の夕食がハンバーグだったんだ。つまり、兄さんにとってハンバーグはあお君と出会った時の思いでの味なんだ。今でもハンバーグ食べるとその時のことを思い出すんだよ。だから、自分がいない時にあお君がハンバーグ食べると、一緒に食べたかったと拗ねるんだよ」
なるほど、彰久先生って見たことないけど、結構純情な人なんかな、でも拗ねるって子供っぽいな。しかし尚希にとって彰久は、院長御曹司、つまりエリート中のエリート。そのイメージと繋がらない。
「ちなみにね、その時兄さんは三歳。以来ずーっとあお君一筋。純情だろ」
これには驚いた。三歳からずーっと一筋って……三歳、今の春久の歳だ。純情過ぎる。そして、そこまで思われる蒼先生も凄いな。まあ、確かに蒼先生はきれいだし、子供の時から可愛いかったんだろうな。尚希の中には、小さい子同志の幼い恋の姿が浮かぶ。
「すっ、凄いですね。なんだか、幼馴染の恋って感じですね」
「あお君は、その時十五歳だったけどね」
「えっ! 三歳と十五歳ですか!」
ビックリして、思わず声が大きくなる。そんなに年が離れているのか、それにしても、三歳で十五歳の人を好きになって、それ以来一筋って純情過ぎるなんてもんじゃない。一体、彰久先生ってどんな人なんだろうと、興味を持つ。
「ははっ、ビックリするだろ」
ビックリした。ここ北畠家は中々に驚きが多い。皆の呼び方も、あお君、あき君、なお君ってのも、へーっと思った。しかし、一番の驚きはそれだろう。蒼先生が結婚しているのは知っていたが、夫とそんな経緯があったとは……。
「もーっ、僕たちの話はそれくらいで……尚希君はロールキャベツ好きかな? 美味しいと思うんだけど」
自分たちの恋の話は照れるのだろう、蒼が話を変える。
「美味しいですね。ロールキャベツ多分初めて食べたかも」
「そうなんだ、じゃあ良かったよ。ロールキャベツは母さんの得意料理でね、これは僕が作ったんだけど」
「今じゃ、蒼の作る方が美味しいよ。もうおふくろの味は蒼と結惟が受け継いでくれたな」
雪哉が嬉しそうに言うのを受けて、蒼は頬を染める。その初々しい表情に、尚久の胸はつきんと痛む。この人は、未だにこの表情を見せる。自分はいつもこの表情に惹きつけられた。そして今は、尚久を物悲しくさせる。
彰久が蒼べったりなのはいい。だが、蒼の見せる恥じらいは、蒼の彰久への思いを感じられて辛い。思いを貫いたのは、彰久だけではない。蒼もそうなんだろう。ただ彰久の思いを受け入れただけではない、蒼も彰久への深い思いがあったからこそ、三十後半になるまで待ったのだろう。その現実を突きつけられる。
蒼は自分や結惟にも常に優しかった。しかし、彰久に対する愛情とは違うもの。それが、渡米する前は分からなかったが、今は分かる。兄のものという現実に漸く気付いた。気付くの遅いよ……と尚久は思う。
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