秋風の色

梅川 ノン

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4章 北畠家

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 明日は土曜日。尚久から北畠家へおいでと誘われている。でも尚希は迷っていた。本当に行ってもいいのだろうか……。
 退院する時、蒼からも「遊びにおいでよ」と誘われた。それでも迷うのだ。蒼は安心できる。尚久と会えるのは嬉しい。けれど、北畠家はその二人だけではない。人見知りで、コミュ障気味の尚希には荷が重い。
 悶々と悩んでいると、メールの着信音がして、ドッキリする。尚久からだ。明日、迎えに行くとある。えっ! ど、どうしよう……。尚希は、スマホを持ったまま固まった。すると、そこへ電話の呼び出し音。えっ! 尚希は焦って、相手を確認せず通話を押す。
『おお、私だよ。メール見ただろ。明日迎えに行くよ』
 尚久の声。どう返事したらいいのか分からない。戸惑う尚希に、尚久は続けて言う。
『初めてだから迷うと困るだろ。あお君もそうしてくれって言ってる』
 あお君……蒼先生のことか、だったら、行かないほうが失礼かなと、尚希は思う。ドギマギしながら「は、はい」とだけ言う。その後、待ち合わせ場所と時間を決めてから電話を切る。切った後も尚希の胸はドキドキとしてしばらく収まらなかった。

 尚希が退院した日、尚久は蒼に尚希を誘ったことを告げる。
「そうか、なお君が誘ったんだ。僕も誘うかなと、ちょっと迷ったから良かった。来てくれるといいね」
 蒼は、自分の思いを行動に移した尚久が嬉しいのだろう、優しい微笑みで言う。
 そうか、蒼も誘いたかったのか、優しいんだ、この人は。この優しさが、昔から好きだった。蒼の優しさに触れると、心が温かく、心地よい。
 そして前日、迷うと可哀想だから迎えに行ってくれと頼まれた。その懸念は尚久にもあるので、了解した。そもそも尚希のタイプでは、自分でここまで来れないだろうとも思う。道に迷うだけでなく、来ることを迷う、そんな気がするのだ。
 尚希との電話を切った後、尚久は考えた。
 何故、誘ったのだろう……自分でも少し不思議だ。尚希の境遇に同情したのもある。蒼が誘ったのはそれが理由だろう。しかし自分は、それだけだろうか……尚希に対して、どこかほっとけないものがある。

 待ち合わせ場所に向かうと、既に尚久が立っているのが見える。尚希が急いで近づくと、気付いた尚久が手を上げる。
「すみません、おそくなりました」
「いや、君は時間通り。私が少し早く着いたんだ。じゃあ、行こうか。ここから数分だから」
 にこやかに言う尚久は、当たり前だが私服で、それが凄く新鮮に映る。最初の出会いでぶつかった時は、白衣ではなかったが、それ以降はいつも白衣だった。
「うん、どうかしたか」
「白衣じゃないと思って」
「当たり前だろ。白衣は病院でしか着ないよ」
 そうだよな、当たり前だよなと思いながら歩いていると、「見えてきた、あの家だよ」尚久の指さす方を見る。とても立派な家が見えてきた。
 尚希は少し怯んだ。こんな立派な家……場違いだよ。考えたら、あんな大きな病院の院長先生のお宅なんだから、当たり前か。なんで、それに早く気がつかないんだ。自分で、自分を呪いたくなる。
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