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3章 手術
①
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「尚久先生の二例目の手術が決まったわね」
「小児科の患者さん、蒼先生が気にされてたから良かったわね」
「でもさすがよね、甲斐先生では無理な手術をね、期待通りよね」
「そう! 期待通りの超絶イケメンだし!」
「お相手の話は無いの? 彰久先生の時みたいに、あっという間にがっかりさせられるみたいな」
「今のところ無いみたいね」
「うわーっ」と、そこにいた何人もの看護師の目がハートになる。皆、アメリカ帰りの院長御曹司に憧れているのだ。
「でも、私らみたいな平凡なベータは相手にされないって」
「そうだよね、お相手はアルファかそれともオメガよね。副院長も、蒼先生もオメガだし」
「そうよ、出番なし。それは分かっているけど、夢くらいみたいわよね」
「そうだよね……お相手アルファの令嬢だと思うな」
「私は、やっぱりオメガ男性だと思うな」
勝手な想像で盛り上がっていると、師長が現れたので、皆ぴたりと口を閉じる。
「今日入院の尚久先生が執刀される患者さん、受け入れ準備は大丈夫ですか?」
尚希は、明日の手術のため、今日朝から入院することになっている。その後、検査など済ませて明日に備えるのだ。おしゃべりに講じていた看護師たちは皆、そそくさとその場を立ち去った。
不安を胸に、尚希は病院へ来た。今日から八日間の入院になる。期待はしていなかったけど、一人での入院に不安はある。修学旅行以外で何日も他所で泊まるのは初めて。ましてや、病院、不安になるのは当然だろう。
不安気な尚希を、蒼は笑顔で迎え、尚希の荷物を引き取って持つ。荷物といっても、教科書の入った学生カバンと、トートバッグだけの身軽さではある。蒼の案内で病室に入ると、こじんまりとした個室だった。
尚希は、枕の横に置いてある、ぬいぐるみを手に取る。手作り感のある熊のぬいぐるみ。――可愛いなあと思う。
「可愛いだろう? 病室のお供だよ。気に入ったら家に連れ帰ってもいいよ」
連れ帰るって……でも可愛いな。尚希は頷いた。そして病衣に着替える。北畠病院は、自分の寝間着を持ち込んでもいいし、病院からレンタルしても良かった。その他の物も同じシステム。尚希は全てレンタルを選択した。手間のかかることは回避したい母の意向でもあった。
着替えてベッドに腰掛けると、尚久が看護師と共に入ってくる。尚希は、立って挨拶しようとしたが、尚久に制される。
「こちら、入院中の担当看護師の花山さん」
蒼が、看護師を紹介する。尚希は「よろしくお願いします」と小さく挨拶する。コミュ障気味だが、礼儀正しい。
「こちらこそ、よろしくお願いします。初めての入院で不安な事もあるかもですが、何かあったら遠慮なく言ってくださいね」
花山が笑顔で言うと、尚希は頷いた。優しそうな花山に、安心する。最初の蒼の笑顔と、花山の笑顔で、少し不安の和らぐのを感じる。ぬいぐるみも可愛いし、と思う。
「あれっ、ぬいぐるみ持ってきたの?」
尚久が、にこやかに聞く。えっと……言葉の詰まった尚希の代わりに蒼が答える。
「病院からのプレゼント、病室のお供にね」
「そうか、いきな計らいだね。良かったな」
そう言って、尚久は尚希の頭を撫でる。尚希は少しドキッとしたが、頭に感じた尚久の温もりが心地よい。
「それじゃあ、午前中は検査とか色々あるけど、午後はゆっくりできるからね。明日に備えて体を休めるんだよ。また午後にも顔を出すから」
「私も、午後また来る。いい子にしてるんだぞ」
蒼に続いて、尚久も病室を出て行った。いい子にしてるんだぞって、まるっきり子供扱いだな。まあ、先生からしたら、高校生なんて子共だよね。尚希は、撫でられた頭に手を置く。まだほんのり、尚久の感触が残っている。また、撫でてくれるかな……撫でて欲しいと思った。
「小児科の患者さん、蒼先生が気にされてたから良かったわね」
「でもさすがよね、甲斐先生では無理な手術をね、期待通りよね」
「そう! 期待通りの超絶イケメンだし!」
「お相手の話は無いの? 彰久先生の時みたいに、あっという間にがっかりさせられるみたいな」
「今のところ無いみたいね」
「うわーっ」と、そこにいた何人もの看護師の目がハートになる。皆、アメリカ帰りの院長御曹司に憧れているのだ。
「でも、私らみたいな平凡なベータは相手にされないって」
「そうだよね、お相手はアルファかそれともオメガよね。副院長も、蒼先生もオメガだし」
「そうよ、出番なし。それは分かっているけど、夢くらいみたいわよね」
「そうだよね……お相手アルファの令嬢だと思うな」
「私は、やっぱりオメガ男性だと思うな」
勝手な想像で盛り上がっていると、師長が現れたので、皆ぴたりと口を閉じる。
「今日入院の尚久先生が執刀される患者さん、受け入れ準備は大丈夫ですか?」
尚希は、明日の手術のため、今日朝から入院することになっている。その後、検査など済ませて明日に備えるのだ。おしゃべりに講じていた看護師たちは皆、そそくさとその場を立ち去った。
不安を胸に、尚希は病院へ来た。今日から八日間の入院になる。期待はしていなかったけど、一人での入院に不安はある。修学旅行以外で何日も他所で泊まるのは初めて。ましてや、病院、不安になるのは当然だろう。
不安気な尚希を、蒼は笑顔で迎え、尚希の荷物を引き取って持つ。荷物といっても、教科書の入った学生カバンと、トートバッグだけの身軽さではある。蒼の案内で病室に入ると、こじんまりとした個室だった。
尚希は、枕の横に置いてある、ぬいぐるみを手に取る。手作り感のある熊のぬいぐるみ。――可愛いなあと思う。
「可愛いだろう? 病室のお供だよ。気に入ったら家に連れ帰ってもいいよ」
連れ帰るって……でも可愛いな。尚希は頷いた。そして病衣に着替える。北畠病院は、自分の寝間着を持ち込んでもいいし、病院からレンタルしても良かった。その他の物も同じシステム。尚希は全てレンタルを選択した。手間のかかることは回避したい母の意向でもあった。
着替えてベッドに腰掛けると、尚久が看護師と共に入ってくる。尚希は、立って挨拶しようとしたが、尚久に制される。
「こちら、入院中の担当看護師の花山さん」
蒼が、看護師を紹介する。尚希は「よろしくお願いします」と小さく挨拶する。コミュ障気味だが、礼儀正しい。
「こちらこそ、よろしくお願いします。初めての入院で不安な事もあるかもですが、何かあったら遠慮なく言ってくださいね」
花山が笑顔で言うと、尚希は頷いた。優しそうな花山に、安心する。最初の蒼の笑顔と、花山の笑顔で、少し不安の和らぐのを感じる。ぬいぐるみも可愛いし、と思う。
「あれっ、ぬいぐるみ持ってきたの?」
尚久が、にこやかに聞く。えっと……言葉の詰まった尚希の代わりに蒼が答える。
「病院からのプレゼント、病室のお供にね」
「そうか、いきな計らいだね。良かったな」
そう言って、尚久は尚希の頭を撫でる。尚希は少しドキッとしたが、頭に感じた尚久の温もりが心地よい。
「それじゃあ、午前中は検査とか色々あるけど、午後はゆっくりできるからね。明日に備えて体を休めるんだよ。また午後にも顔を出すから」
「私も、午後また来る。いい子にしてるんだぞ」
蒼に続いて、尚久も病室を出て行った。いい子にしてるんだぞって、まるっきり子供扱いだな。まあ、先生からしたら、高校生なんて子共だよね。尚希は、撫でられた頭に手を置く。まだほんのり、尚久の感触が残っている。また、撫でてくれるかな……撫でて欲しいと思った。
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