12 / 78
2章 尚久と尚希
⑤
しおりを挟む
「おじちゃま、おかえりなしゃい」
「ただいま」
尚久が帰宅すると、春久が出迎えてくれる。春久は、誰が帰ってきた時でも、必ずそうるのだ。そんな可愛い甥っ子の頭を撫でてからリビングへ入ると、既に全員帰宅していた。兄たちも、いつも先ずは母屋にきて、夕食の後、離れへ行くのが日課になっている。
「今日は、次の手術が決まったようだな」
蒼から報告を受けていた雪哉の言葉に、尚久は頷く。
「はい、母親が来院して承諾をもらいました。日程も調整出来たので、来週火曜に決まりました」
「ああ、甲斐先生も安堵されていた。本当に安堵するのは手術後だが、お前なら大丈夫だろう」
尚久は深く頷いた。他の皆も頷いている。皆の信頼と、期待を感じる。勿論、それを裏切ることはないという、強い自信もある。
「それにしても、相変わらず母親は忙しい方のようだな」
「そうなんですよね、今日も慌ただしく来て、帰って行ったという感じでした。でも、その中で来たのは、やはり母親としての愛情があるのだろうと感じました」
蒼は、尚希の身の上に同情はしているが、母親に批判的な思いはない。むしろ、女手一つで大変だろうと、同情的な思いがある。
「仕事は編集者だったか、編集者とはそんなに忙しいものなのか?」
雪哉には全く未知な世界ではある。読書は好きだが、その裏の世界は知らない。
「そうよ、出版社は皆激務なのよ。特に編集は、担当の作家の都合もあるから、定時なんて存在しないって、出版社に勤めている人から聞くわよ」
史学科の大学院生の結惟が、雪哉の疑問に答える。結惟は、北畠家で唯一医師ではなく、文系の世界に進んだ。
「そうか、だとしたら手術の立ち会いもあんまり期待はできないな」
「それは、今日の面談で感じました。その時は、僕が立ち会います」
ああそうだろう、お前ならそうするだろうと思い、雪哉はねぎらうように蒼の肩に手を置く。こんなところも、蒼は自分と同じだと、愛情が湧くのだ。今や、本当の息子のように思っている。いや、むしろ実の息子たち以上の思いがあるかもしれない。
雪哉の人生にとって、一番の幸せは高久と出会い、結婚したこと。それは間違いないが、次は蒼と彰久の結婚だ。二人が、運命の仲で結婚まで導かれたのは、本当に宝幸だったと思っている。
蒼も彰久と結婚するはるか前から雪哉を慕い、憧れ、その後に続こうと付いてきた。だからこそ、雪哉は二人の結婚を心から喜んだ。自分の後継者は蒼だと思っているし、蒼もその期待に応えている。
同じオメガとして、アルファである息子たちに対するものとは違う思いというか、愛情があるのだった。
「ただいま」
尚久が帰宅すると、春久が出迎えてくれる。春久は、誰が帰ってきた時でも、必ずそうるのだ。そんな可愛い甥っ子の頭を撫でてからリビングへ入ると、既に全員帰宅していた。兄たちも、いつも先ずは母屋にきて、夕食の後、離れへ行くのが日課になっている。
「今日は、次の手術が決まったようだな」
蒼から報告を受けていた雪哉の言葉に、尚久は頷く。
「はい、母親が来院して承諾をもらいました。日程も調整出来たので、来週火曜に決まりました」
「ああ、甲斐先生も安堵されていた。本当に安堵するのは手術後だが、お前なら大丈夫だろう」
尚久は深く頷いた。他の皆も頷いている。皆の信頼と、期待を感じる。勿論、それを裏切ることはないという、強い自信もある。
「それにしても、相変わらず母親は忙しい方のようだな」
「そうなんですよね、今日も慌ただしく来て、帰って行ったという感じでした。でも、その中で来たのは、やはり母親としての愛情があるのだろうと感じました」
蒼は、尚希の身の上に同情はしているが、母親に批判的な思いはない。むしろ、女手一つで大変だろうと、同情的な思いがある。
「仕事は編集者だったか、編集者とはそんなに忙しいものなのか?」
雪哉には全く未知な世界ではある。読書は好きだが、その裏の世界は知らない。
「そうよ、出版社は皆激務なのよ。特に編集は、担当の作家の都合もあるから、定時なんて存在しないって、出版社に勤めている人から聞くわよ」
史学科の大学院生の結惟が、雪哉の疑問に答える。結惟は、北畠家で唯一医師ではなく、文系の世界に進んだ。
「そうか、だとしたら手術の立ち会いもあんまり期待はできないな」
「それは、今日の面談で感じました。その時は、僕が立ち会います」
ああそうだろう、お前ならそうするだろうと思い、雪哉はねぎらうように蒼の肩に手を置く。こんなところも、蒼は自分と同じだと、愛情が湧くのだ。今や、本当の息子のように思っている。いや、むしろ実の息子たち以上の思いがあるかもしれない。
雪哉の人生にとって、一番の幸せは高久と出会い、結婚したこと。それは間違いないが、次は蒼と彰久の結婚だ。二人が、運命の仲で結婚まで導かれたのは、本当に宝幸だったと思っている。
蒼も彰久と結婚するはるか前から雪哉を慕い、憧れ、その後に続こうと付いてきた。だからこそ、雪哉は二人の結婚を心から喜んだ。自分の後継者は蒼だと思っているし、蒼もその期待に応えている。
同じオメガとして、アルファである息子たちに対するものとは違う思いというか、愛情があるのだった。
4
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
孤独な青年はひだまりの愛に包まれる
ミヅハ
BL
幼い頃に事故で両親を亡くした遥斗(はると)は、現在バイトと大学を両立しながら一人暮らしをしている。
人と接する事が苦手で引っ込み思案ながらも、尊敬するマスターの下で懸命に働いていたある日、二ヶ月前から店に来るようになったイケメンのお兄さんから告白された。
戸惑っている間に気付けば恋人になっていて、その日から彼-鷹臣(たかおみ)に甘く愛されるようになり━。
イケメンスパダリ社長(攻)×天涯孤独の純朴青年(受)
※印は性的描写あり
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
オレと君以外
泉花凜 いずみ かりん
BL
『今この時の愛しさも、痛みも、一瞬であって永遠なんだ。』
京橋幸介(きょうばし こうすけ)は、入学式の通学バスで偶然目にした美貌の男子生徒、音羽千晃(おとわ ちあき)に一目惚れしてしまう。彼の制服は向かい側の名門私立男子校、水ノ宮(みずのみや)学園だった。
底辺私立の男子校、山吹(やまぶき)高校はヤンキーしかいない不良校だが、幸介と千晃は、互いの性的指向の違いを乗り越え、相手の思いに少しずつ応えていく――。
1日おきに夜6時~夜8時ごろに更新いたします。応援よろしくお願いします! どうぞお楽しみくださいませ!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
きっと世界は美しい
木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちが初めての恋に四苦八苦する話です。
**
本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。
それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。
大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。
「好きになれない」のスピンオフですが、話自体は繋がっていないので、この話単独でも問題なく読めると思います。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる