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2章 尚久と尚希
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その日の夜、十時過ぎて尚希の母は帰宅した。いつも帰宅はそんな時間、もっと遅い時もある。
「お帰り」
「ただいま、病院へは行ったの?」
「うん、手術したほうがいいって」
「新しい先生が入ったの?」
「院長先生の息子さんだって。蒼先生の旦那さんの弟」
「だったら腕は確かだよね。それだったらしたほうがいいわね」
「うん、手術したら今の症状が凄く良くなるって。それでね、僕未成年だから母さんの承諾がいるんだって。だから先生が、いつでもいいから病院へ一度来てほしいって」
「そうね……なんとかなるかな……じゃあ、行くようにするわ」
何時でもいいなら何とか都合を付けられそうだと思い、母は承諾した。
尚希の母も、日頃仕事にかまけて、尚希のことは半ばほったらかしにしているが、決して母としての愛情が無いわけではない。尚希の病状も心配はしている。手術して完治するなら、それが一番だとも思うのだった。
ただ、夫を亡くして以来、長年仕事を最優先にしてきた。今更、母親を優先させることに戸惑いもあるし、仕事の状況がそれを許さないのだった。
翌日の午後、尚希の母は、何とか仕事の都合をつけて来院した。蒼は、すぐに尚久にも連絡を取り、二人で面談する。
挨拶の後、蒼が手術の話を切り出すと、母親の方から、お願いしたいと申し出る。尚希から手術を受けたいと聞いたので、承諾書にサインするつもりで来たとのこと。
それだったら、仕事の途中で時間を取らせてもいけない。蒼は、承諾書を差し出した。母親は、さっと目を通した後、サインする。
「今日はお忙しいところご足労おかけしありがとうございました。なるだけ手術は早い方がいいので、私も安心しました。それでは、手術の日程が決まりましたら、改めてお知らせします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでなんですが、手術は立ち会わないといけませんか?」
今日は何とか時間が出来た。しかし、手術になると短時間ではすまないだろう。時間をとれるだろうかと思うのだ。
「必ずしも必要ではありませんが、立ち会っていただいた方が、尚希君は心強いかと」
「そうですか……」
立ち会うのか、立ち会わないのか、歯切れの悪い返事をした後、尚希の母は、慌ただしく帰っていった。蒼から見ても本当に忙しいのだろうと思えた。
蒼も手術を経験している。父は来てくれなかった。それが心細かったのを、今でも覚えている。通常の受診以上に手術は不安なものだ。故に、尚希には母親がついていて欲しいと思う。しかし、余り望みはかけない方がいいかなと、母親を見送ったあと思うのだった。その時は、自分がついていてやろう、雪哉がそうしてくれたように。
「お帰り」
「ただいま、病院へは行ったの?」
「うん、手術したほうがいいって」
「新しい先生が入ったの?」
「院長先生の息子さんだって。蒼先生の旦那さんの弟」
「だったら腕は確かだよね。それだったらしたほうがいいわね」
「うん、手術したら今の症状が凄く良くなるって。それでね、僕未成年だから母さんの承諾がいるんだって。だから先生が、いつでもいいから病院へ一度来てほしいって」
「そうね……なんとかなるかな……じゃあ、行くようにするわ」
何時でもいいなら何とか都合を付けられそうだと思い、母は承諾した。
尚希の母も、日頃仕事にかまけて、尚希のことは半ばほったらかしにしているが、決して母としての愛情が無いわけではない。尚希の病状も心配はしている。手術して完治するなら、それが一番だとも思うのだった。
ただ、夫を亡くして以来、長年仕事を最優先にしてきた。今更、母親を優先させることに戸惑いもあるし、仕事の状況がそれを許さないのだった。
翌日の午後、尚希の母は、何とか仕事の都合をつけて来院した。蒼は、すぐに尚久にも連絡を取り、二人で面談する。
挨拶の後、蒼が手術の話を切り出すと、母親の方から、お願いしたいと申し出る。尚希から手術を受けたいと聞いたので、承諾書にサインするつもりで来たとのこと。
それだったら、仕事の途中で時間を取らせてもいけない。蒼は、承諾書を差し出した。母親は、さっと目を通した後、サインする。
「今日はお忙しいところご足労おかけしありがとうございました。なるだけ手術は早い方がいいので、私も安心しました。それでは、手術の日程が決まりましたら、改めてお知らせします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでなんですが、手術は立ち会わないといけませんか?」
今日は何とか時間が出来た。しかし、手術になると短時間ではすまないだろう。時間をとれるだろうかと思うのだ。
「必ずしも必要ではありませんが、立ち会っていただいた方が、尚希君は心強いかと」
「そうですか……」
立ち会うのか、立ち会わないのか、歯切れの悪い返事をした後、尚希の母は、慌ただしく帰っていった。蒼から見ても本当に忙しいのだろうと思えた。
蒼も手術を経験している。父は来てくれなかった。それが心細かったのを、今でも覚えている。通常の受診以上に手術は不安なものだ。故に、尚希には母親がついていて欲しいと思う。しかし、余り望みはかけない方がいいかなと、母親を見送ったあと思うのだった。その時は、自分がついていてやろう、雪哉がそうしてくれたように。
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