秋風の色

梅川 ノン

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1章 風を求めて

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 初出勤の朝、尚久は両親と共に出かけ、ひとまず院長室へ入った。脳外科の師長が迎えに来て、医局へ案内することになっている。
「おはようございます。私、脳外科の師長崎山と申します。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。本日も早々とお手数をおかけし申し訳ございません」
 尚久は両親に軽く会釈をした後、崎山師長の案内で脳外科の医局へ向かう。医局では既に、部長の甲斐が待っていた。甲斐とは先週顔を合わせている。
「先生、お待ちしておりました。本日より、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。何分こちらは勿論、日本の病院が初めてですので、ご教示いただけると幸いです」
 甲斐の丁寧な挨拶に恐縮しつつ、尚久も同じように返す。その後、他の医局員に紹介され、続いてナースステーションへ行き、看護師たちにも紹介された。
 皆、想像通りのイケメンぶりに心をときめかせた。実は、崎山師長も院長室で対面した時からドキドキしていた。何とか冷静を保てたのは、長年の看護師務めで養った経験が役立ったのだ。若い看護師たちは、そうはいかない。皆、ときめきが顔に出ている。
 
 再び医局へ戻った尚久は、甲斐から最初の患者のカルテを見せられる。
「成人済みの方ですね」
「はい、一番多い症例の患者ですから、最初の手術には妥当だと」
 尚久は、甲斐の配慮に感謝する。アメリカでかなりの手術を経験したが、ここ北畠総合病院での手術は初めてだ。お互いにやり方の相違があって当然で、それを合わせながらやらねばならない。その為には、先ずは簡単な手術からということなのだ。
「ご配慮、ありがとうございます」
「正直、先生の帰国を待ちわびておりましたので、少しでも早くこちらに慣れていただければと。勿論、先生のご意見で変えるところは変えていきますので、ご要望も遠慮なく申し付けください」
 甲斐は、一流の脳外科医である。高久が心臓外科医として、北畠総合病院を支えてきたのを、脳外科医として助けてきたのだった。しかし、年には勝てない。近年そのパフォーマンスは落ちていた。
 それは、神の手と言われた高久も同じであるが、心臓外科医は彰久という立派な後継者いる。事実、今の心臓外科は彰久が、エースとして支えている。
 ならば、脳外科は尚久と考えるのは必然だ。北畠家もその思惑で、尚久は脳外科医になったと、甲斐は考えていた。
 兄への対抗心で、選択したわけだが、結果的には良かったと、尚久も思っている。あの選択時に、同じ心臓外科医になり、兄を超えたいとも思ったが、それは不毛な競争になるだろうと思った。冷静に大人の選択が出来たと、我ながら思うのだった。
 今現在は、両親が院長、副院長として病院の中心にいるが、それはいずれ兄と蒼になる。その時、自分は兄の片腕として、病院の一方の屋台骨を支えることになるのだ。意義深いし、生きる意欲が湧くだろう。
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