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3男装でトラブル発生

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 それと気付いたのはいつだったか。

 どこでそれに変わったのか。或いは生まれていたのか。
 クラウスは自分でもわからない。
 エマの所と領地が接していて、双方の境目に屋敷が建っていたという距離の近さもあってか彼が八歳の頃に妹共々引き合わされた当初は、妹と同い年という偶然が妹同然に面倒を見なければという年長者によくあるような義務感を抱かせたくらいだった。
 先にエマに懐いたのは妹の方だ。家ではいつも彼女を大好きだと言って憚らなかった。
 異論はなかった。真っ直ぐな性格のエマは好ましい。しかしレティシアの言葉を感情の起伏もなくただそうなのかと聞いていただけだ。その頃は。

 変化は一つだけ、エマが令嬢にしては極めて珍しく剣を嗜んでいたのは他とは違って見えていた。

 貴族としては小さな家柄のせいか、彼女は乗馬から馬の世話から剣の手入れ、そして何と野宿までと様々なワイルドな物事をこなせるようで、果ては彼女の剣の師匠と魔物退治にまで出かける始末。魔物退治など本当だったら王宮騎士が出向く案件だ。まだ小さなエマを同行させるなんてとんでもない師匠もいたもんだと子供ながらに思ったものだった。
 自分もまあ公爵家の後継者として武芸も含め色々と教養を身に付けさせられてはいたが、それとは全く素地が異なる。ただ、学ぶべき事情が違っていたとは言え彼女の向学心求道心に彼は感心したものだった。とりわけ剣に関する物事に彼女は手を一切抜かない主義だったのも眩しかった。
 魔法抜きの剣術オンリーで腕比べをすればおそらく敵わないだろうとクラウスはエマの実力を高評価していた。因みに、その評価は成長した今も変わっていない。

 どうしてエマが輝いて見えたのか。

 それはきっと彼女と知り合って間もない時分、クラウスにはまだ高い目標を持って物事に取り組んだり、彼女程熱心に何かを求めたりした経験がなかったからかもしれない。

 生き生きと自然体に。

 エマのそんな笑顔が閃くと心が和らぐようになっていた。

 そんな笑顔ができるエマが傍に居てくれるだけで彼の世界は大きく彩度を増していったのだ。目にも鮮やかにチカチカ、チカチカと。

 これも、優雅な淑女らしくあれと妹を型に押し込める公爵家の方針とは違い、エマの父親の寛容な教育の賜だろう。

『エマのおかげで、お兄様は最近もうすっかり心から笑えているわよね』

 そんなある側面から見れば憐れとも言える妹から、彼はいつだったかそう言われた。初め妹が言っている意味が理解できなかった。

『心から……?』
『ええそうよ。お兄様はいつもではないけれど作り物じゃない笑顔をするでしょう……って、あら自覚なかったの?』
『……』
『わたくしのエマをお気に入りにするなんて、少しは見る目があるじゃない。お兄様を見直したわ。単なるお綺麗な人形じゃなかったのね』

 それは今までは駄目駄目だと思っていたという意味だ。これでも一通り何でも優秀にこなせる自分への妹からの評価には少し切なくなったが、腹は立たなかった。落胆もなかった。
 どうしてか、自分でも嬉しかったのだ。

 幼馴染への親しみ。

 エマへと抱く温かなものの正体はきっとそれだと、そう彼は思っていた。

 成長するにつれエマは社交嫌いになっていったものの、妹レティシアのように一般の貴族令嬢よりも早い時期から社交界での遠慮のない衆目に晒されなくて良かったと、何故か密かに安堵していた。

 自分達だけがエマを知っているのが無性に喜ばしかった。

 エマには伸び伸びと過ごして欲しい。まあ、伸び伸びとし過ぎてレティシアと三人て遠乗りに出掛けた際のような心配は御免ではあるが。少し目を離した間に勝手に一人で随分離れた所まで駆けて行ったらしい。彼女が夕方まで戻らなかったのには彼は心底動揺したものだった。

 腹も立った。

 エマから目を離した愚かな自分自身に。

 クラウス自身、あそこまで感情的になったのは初めてだった。
 自らへの苛立ちを大人げなくもエマの無防備さに転嫁して叱った。
 最低だと自己嫌悪も甚だしかったが、彼女に自分の気持ちを知って欲しかった。

 クラウス・アドレアがエマ・ロビンズをどれだけ本気で気を揉んで心配したのかを。

 どんなに剣の扱いが上手くても、野宿だってへっちゃらでも、エマは女の子だからだ。何かあってからでは遅いのだ。
 どうしてエマの家族すら凌ぐくらいそこまで極めて強く彼女を案じたのか?
 もう一人の妹みたいな存在だから? 幼馴染の女の子だから? 友人だから?
 どれも完全にアタリではなくて、どれも完全にハズレでもない。

 ――とても大事な、自分にとってのたった一人の女の子だから。

 彼はそんな風に思った自分が不思議だったもののこれが正解だと感じた。

 その辺りからだったか、エマの心酔する武芸の師匠が高齢男性で良かったと心底思ったりもした。ついでに言えば、街中に遊びに出掛けて彼女に目を向ける男がいるとどうしてかハラハラしたし、そういう時は彼女に気取られないようにその相手を遠ざけたものだった。自分の行動の理由を自覚するまでは常に気が気ではなかったのだ。

 まあ、抱くものの正体を自覚してからこそが真に気の休まらない日々になるのだが……。

 クラウスは自分だけがエマをよく知っている親しい同年代の男だと思うと、優越に似たものさえ抱くようになっていた。

 また彼は、妹とエマの剣の鍛練を何度も見学した。
 小さな頃から剣を振る姿をずっと見てきた。

 彼女は綺麗だった。

 彼は基本魔法の専門なので剣の扱いは標準の騎士と同じくらいしか持ち得ないとそう思っている。しかし対するエマは魔法を使えないのでただひたすらに剣に打ち込み幼くして標準騎士レベルを優に超えていた。更に青天井のようにどんどん洗練されていく剣技の腕前には目を瞠るものがあった。俗に言う天才だ。
 知らない間に目を奪われて、妹から話し掛けられているのにもしばしば気付かない時が多々あった。そんな時妹はとても呆れた生温かい目をしてきたが別に気まずいとは思わなかった。彼女に心を奪われているのは妹も自分と同じだったからだ。だからいいのだ。

 しかしふとある時、同じという括りに疑問を抱いた。

 エマから笑みを向けられた時、触れられた時、名前を呼ばれた時、ざわざわと胸の内側が掻き立てられる。
 それは昔から心の中に小さな乱れとして存在していたものだったが、それまでは気付かなかったのだ。

 クラウス十六歳、エマは十三から十四歳になろうと言う時期だった。

 自分の好きはエマを女として見ている好きなのだと彼は自覚した。

 遅い初恋と言われればそうだ。それからはもう、彼女の手を握り抱き寄せて二人だけの場所に連れ込んで沢山キスしたいと、何度身勝手な衝動を堪えただろう。自分は彼女との人には言えない不埒な想像さえもするようになっていた。
 こんな劣情も愛や恋の一部なのだと思うと、どこか可笑しかった。この人生において最早彼女なしには生きられない。

 彼女の傍で、他の誰でもない自分が彼女の唯一の男でいたい。

 どうかこっちを振り向いて、自分だけを見つめてほしいと願う。
 だのに、一時期忙しさにかこつけて彼女から距離を置いた。そうでなければ無邪気な彼女といる間、想いのままに魔法で束縛してしまいたいという衝動を抑える自信がなかったからだ。
 妹が彼女と共にいてくれたのは幸いだったかもしれない。妹の口から彼女の話がもたらされて少しは満たされたから。
 しかしやっぱり会いたくて仕方がなかった。
 だから後継として忍耐も学べた頃、少しずつまた以前のように距離を縮めた。

 そんな折、彼女が妹のために男装すると聞いた時は正直言って不愉快だった。

 男装しているとは言え、社交界で多数の男の目に晒されるのを歓迎などできるわけがない。彼女を同じ男だと思って気軽に近付く輩など蹴散らしたい。

 だから、ふと我に返った時には無計画にも周囲を牽制していた。

 本当に最初はそんなつもりはなかったのだ。ジムとか言う馬の骨が彼女の手を勝手に握ったせいで頭に血が上って体が動いてしまった。

 エマは計画的だと思っているようだが、実は衝動的だったのだ。

 彼女を誰かに奪われるのだけは耐えられなかった。

 公爵令息は男が好きだなど、何とも刺激的なゴシップだ。
 しかし如何なる罵詈雑言も自分には響かないし、結果的にはイチャイチャできて良かったと彼は満足している。意思表明しただけで女除けにもなったのは全くの計算外の副産物だったが。
 それまでも、彼は彼女を手に入れるため勉学や領地経営のノウハウを叩き込んできた。スキルを高めるのも全ては彼女と生涯添い遂げるため。
 知れば病的と人は言うかもしれない。
 しかし大真面目にそれが彼の正常であり本気であり、類を見ない一途さだ。
 恵まれた容姿と彼女と幼い頃から一緒にいられたという幸運もあったとは思う。そこは天に感謝している。

「エマ……」

 一体どうしたら彼女の心が得られるだろう。
 少なくとも嫌われないようにはしてきたつもりだ。
 ただ、もしも少しでも自分と同じ気持ちに入ってくれたなら、その時はもう躊躇いに指先を引く優しさは保証できない。

 明かりを落とした寝室で、彼は一人窓辺の椅子に腰かけたまま腕を伸ばす。

 昼間、彼女の頬に触れた感触をまだ鮮明に思い出せる。

 柔らかいけれど少し日に焼けて健康的な弾力があった。その頬に手を滑らせて唇をなぞって僅かに開かせたそれに深く口付けたい。もしもそうできたならどれ程至福だろうか……。
 そこまで想像して、ぎゅうと指先を握り込む。

「はあー。そもそも男装って何だ。ドレスから着替えたくらいでエマのどこが男に見えるって言うんだよホント。……エマもエマで全然そこの自覚ないし。綺麗で可愛いの自覚もない」

 煩悩への自戒もあって困ったなあと呟く彼はごつっと拳を額にぶつけた。

「本当に目を離せない……」

 離すつもりもない。恋煩う男の悩ましい夜は過ぎていく。




 ぎっくり腰になった師匠には手紙を出した。
 家族との時間を優先してほしいと。だけど私としてはまだ学ぶ事が山積みで弟子を卒業したくないって意思もハッキリ綴った。便箋二十枚になった。必要なら私から師匠のお家に教えを乞いに出向くとも書いてある。
 彼の孫からは家族で世話をするので見舞いは遠慮してくれと言われたから顔を見には行けてない。後で届いた師匠からの返書にも同じ趣旨の内容が書かれていた。それから私の言葉に甘えて家族としばらく過ごすとも。だけどくれぐれも自主練はサボるなよって文章の中に五回は書いてあったっけ。ははっ武芸には厳格な師匠らしい。
 何か緊急の事態があれば報せてくれるようだから、何の便りもないのが良い便りって思っていいんだろう。だから私は腰の回復が順調だといいと願いながら日々を過ごしていた。

 心配事があれ時間は流れるわけで、私は今日も男装で友人レティシアに付き添っている。

 煌びやかなこの日の夜会には例に漏れずクラウスさんも一緒だ。

 レティシアに影のように付き従いながら、我ながらだいぶ専属騎士エドウィンが板に付いたなあなんて思う。
 誰も私が女だなんて気付いちゃいない。
 この場のレティシアとクラウスさんの二人だけが真実を知っていた。
 今夜は幸い意地悪令嬢セーラもいないから、きっと無難に過ぎるだろう。

 必要な挨拶とアピールは済んだので、さていつ帰ろうかとレティシアと小声で相談をしていると、会場が少しざわついた。

「何かしら?」
「大方、クラウス様がモテてるんじゃないですか?」
「あら、エドだって負けてないわよ?」
「それはレティシア様も」

 くすくすくすと二人で笑っていると傍に誰か立った。

「おそらく予期せぬゲストが現れたんじゃないか?」

 ……っくりした。

「あらお兄様。こちらにお兄様がいると言うことは、では向こうには誰が?」
「俺も知りたい。俺はまたレティかエドがきゃあきゃあ言われているのかと思ったんだけど」

 彼クラウスさんも挨拶回りを終えたのか上げて後ろに撫で付けた前髪を撫でるようにして向こうへと目を凝らす。
 私は態度を変えないように極力努力した。
 急に近くで彼の声が聞こえて心臓が跳ねたからだ。

 私はここのところ彼の姿を見る度に気を張らないといけなくなった。

 こういう場所じゃカップルなのを見せつけるスキンシップをするから余計に気持ちを強く持つ必要もある。そういえばいつの間にかBLカプ設定になっていた。

「ええと、今日はもうベタベタしなくていいんですか?」

 私にとっては会場にどんなVIPが来てもどうせ関係ないし興味もない。こっちの方が重要だ。周囲に聞こえないようにこそっと確認も兼ねて問えばクラウスさんはにこりと笑んだ。

「じゃあ最後にもう少し」
「わ、わかりました」

 意気込んで不自然に力む私をレティシアが不思議そうに見つめる。
 麗しの兄妹プラスイケメン騎士が揃った事でこれまた注目を浴びている今がアピールのチャンスだからと、クラウスさんから肩を抱かれた。

 密着して緊張して脈拍が上がる~っ。

 彼もこの演技にドキドキしながらだろうけど、私もだってバレるのは何となく恥ずかしい気がするっ。だからバレないようにくっ付く体勢も注意しないと駄目だよね。

 彼のドキドキは私が苦手で緊張しているからじゃないとはわかった。

 じゃあ何でかって訊かれれば、きっと皆の前で論文を発表する時のようなものだろう。誰だって晴れの舞台じゃ緊張で心拍数が上がるもの。
 皆の前でBL演技が嘘だとバレないかって懸念も動悸の原因の一つだと推測している。

「エマ……? あなたやけに顔が赤いけど…」

 レティシアが更に言葉を続ける前に、会場のざわめきが邪魔をした。

 その囁き達を聞くに予想通りVIPなゲストがこの場に到着したようだった。

「どうやら第二王子殿下が来たらしい」

 クラウスさんが少し声のトーンを落とした。私から手を離して何故か嘆息する。

「彼とは馬が合わないんだよなあ」
「わたくしもよ。顔を合わせると言い寄ってくるんだもの。あの女好きは」

 本音じゃ無視したい。でも相手は曲がりなりにも王族なので挨拶をしておかないと後々面倒を被るかもしれないからと、二人はげんなりした様子だ。
 挨拶をする二人に付いて私も第二王子一行の近くまで行った。王子はまあそれなりな美形だった。なるほど確かに女好きの相をしていると思う。
 金髪に赤い瞳って王家特有の特徴を有してもいた。前に他の王族達も皆ほとんど金髪赤眼なんだって聞いたっけ。

 男性護衛には微塵も興味がないのか第二王子フレデリックはこっちには目もくれずにレティシアを誉めそやしていたけど、姿勢よく直立する私はどこからか視線を感じた。

 妙に存在を主張するようなそれを。

 クラウスさんは感情を読ませないダルい顔で挨拶しているから彼じゃない。

 何だろうと疑問と共に視線を向けて、危うくびっくり声を出す所だった。

 第二王子には当然王宮からの護衛が付いて歩く。それもぞろぞろと。
 騎士の中でも「王宮騎士」と呼ばれる者達だ。名称の通り王宮に属しているからまんま王宮騎士。要は国のエリート軍人だ。

 今も王子が連れてきた王宮騎士達が十人くらい傍に控えるように整列しているけど、その中の一人が驚いたような表情で私を凝視していた。

 げっ、あの人は……!

 さーっと一気に血の気が引く。

 赤毛の若い青年騎士は、公爵家の兄妹の他に私の真の素性を知っている人間だった。

 師匠の孫――ステファン・コンラート。

 年齢は知らないけど多分三つか四つは上だと思う。
 先日家に来て師匠のぎっくり腰を報せてくれたのがまさに目の前の彼だった。
 騎士だとは言っていたけどよもや王宮騎士だったとは知らなかったよ~っ。しししかも第二王子の護衛で来たなんてうわああ~何って運のないっ。巡り合わせが最悪っ。

 慌てて顔を逸らしてレティシアとクラウスさんの陰に隠れるように横歩きで微妙に移動する。

 だけどステファンさんも私が見えるように体をずらして凝視を続けてきた。

 どう見ても唖然としているから、女の私が男装してるって完全に気付いている。

 こ、ここで暴露されたらヤバい! レティシアの嘘がバレるし、クラウスさんとの演技も水の泡になる。二人の評判に関わる!
 今にも彼の口からあいつは男爵令嬢のエマだという台詞が放たれそうでひやひやだ。
 クラウスさんに感じるのとは全く別の極限の緊張が訪れ潜在的な視力さえ引き出したのかもしれない。とうとう彼の上と下の唇が分かたれたのがスローで見えて、奥の声帯から声という名の音波が出てこようとしているのだと予見した。

 こっここは逃げるが勝ちいいい!

 彼が明確な非難を何かしら発する前に、私はなるべく気配を殺して回れ右をしてさりげなーくじりじりとその場から距離を取る。そうして王子に群がる集団からやや離れた所でやっと脱兎の如く駆け出した。
 最初から走って逃げると不審者として目につくからこうしたわけだけど、この作戦は追っ手からの完全逃避を成功させなかった。

 会場を抜けて廊下に出て大きく息をついた所で、出てきたばかりの扉が大きく開け放たれてステファンさんが姿を現したからだ。

 ひいいいーっ、つ、詰んだ……!

 絶望の面持ちでごくりと唾を飲み込んで、でも私はまだ諦めないと強く誓う。
 現行犯で捕まらなければ後で何かを訊かれてもそっくりさんですよって言い張れる。即座に踵を返して廊下の奥を目指した。

「待て! エマ・ロビンズ男爵令嬢!」

 あああ案の定ばっちり正体がバレてるううう~!

 足のリーチの差なのか追い付かれて肩を掴まれて壁に背中を押し付けられた。

「いたっ……い、ですっ」

 抗議すればハッとした彼は手を離したけど、そのどこか師匠に似た造りの顔には憤りが滲んでいる。男装して身分を偽装したのは良くないだろうけど、どうして彼がここまで不愉快になるの? 挨拶もなしに無視したから? だけどそうならそうした理由を彼だってわかっているはずだ。わざわざ追いかけて来たんだしね。

「ロビンズ嬢、あなたは一体何をやっているんだ? 男のふりをして令嬢達をからかって遊んでいるのか?」
「そっそんなつもりはないです! こっちにも事情があるんですよ。だからこの事は黙っていて下さいよ?」

 うわーん、やっぱり男装に怒ってる。しかも咄嗟とは言えこんな間抜けな言い方をしてそれじゃあ口止め料を頂こうかなんて逆に脅されたらどうしよう!?

「安心してくれ。こんな事を誰にも言えるわけがない」

 顔を歪めるステファンさんの師匠と同じ琥珀色の瞳には苦々しさと忌々しさが混在しているようだった。でもこれはあたしには得な流れだ。

「えっ本当に黙っててくれるんですか?」
「当然だ。栄光の王宮騎士である祖父の弟子がこんな女だと世間に知られるなど、不名誉以外の何物でもないからな」
「あ……」

 悟った。
 ステファンさんが心底私を軽蔑しているって。

 彼は、彼の祖父をとてもリスペクトしているんだって。

 だからこそこんな端から見たらおふざけにしか見えない男装なんてして、しかも貴族の専属だろうと騎士を名乗っている私を見て怒ったんだって。

 反論はできない。偉大なる生きる伝説の王宮騎士キリアン・ジークウルフ、そんな彼の唯一の弟子がこんなじゃ折角の名声だって地に落ちる。
 師匠もレティシアとの事情は知っていて特に何も言ってこないから、こんな簡単な話も失念していた。カッと最大級の羞恥に顔に血が集まってくる。

「私……その……ごめんなさい」
「謝罪なら祖父にしてくれ。それ以前に謝るならするな」

 不愉快全開なステファンさんから吐き捨てるように言われてしまい身がすくむ。

「どうせならそうだな、今限りで祖父の弟子を辞めて金輪際関わってくれるな。祖父にはそう言っておく。故に直前の謝罪云々と言ったのは忘れてくれ」
「なっ!」
「一説には凄腕だとか囁かれているようたが、所詮はゴシップの類いか。あなたは単に興味本意でちゃんばらごっこがしたいだけだろう? その延長がその男装なのか? 何にせよ、剣よりもドレスを着てお茶を楽しんだ方があなたのためにもなるのではないか?」

 不思議と彼の言葉には諭す響きはあっても皮肉や揶揄の色は感じなかったけど、そう言われてハイとすんなり頷けるわけがない。

「嫌です。こんな風に師匠の弟子を辞退はしません! 大体、貴族令嬢が剣を握るのが駄目だなんて明確な規定はないはずです。周囲を騙す男装はともかく女だからと非難されるのは心外です」

 敵と対峙するように両目をしかと見開いて主張してやる。
 師匠から勝ち取った弟子の座を手放す日があるとすれば、それは師匠が武芸を引退する時か理由は何であれ師匠本人から破門された時以外にはない。

「私からは絶対に離れません!」
「ロビンズ嬢は頑迷と見える」

 剣呑な目とは裏腹に、声を荒らげない低い声が彼の本気の怒りを表していて少し怖い。叩かれたりする? それとも腰の剣で斬り付けられる?
 こっちも帯剣しているから応戦はできるけど、師匠の孫と戦いたくなんてない。ここで刃傷沙汰を起こせばレティシア達にも迷惑を掛けるし王子殿下の護衛と争うなんてそれ自体罰せられる可能性だってある。

「剣の道はお嬢様のお遊びではない」
「それくらいわかってますよ!」

 勝手な思い込みで物を言われ少々カチンときて食って掛かる口調になったけど、苛立ちを浮かべていたステファンさんの眉が微かに痙攣した。

「わかっていると? あなたが? それならば……」

 彼は嵌めていた手袋を片方外した。

 両方とも外す時間も惜しいのか、それを私に投げて寄越す。

 パシリと肩辺りに当たったそれはポトリと足元に落ちた。

「え……」

 相手に手袋を投げつける行為、これは……。

「あなたに個人的な決闘を申し込む。私が勝ったら祖父とは縁を切ってもらいたい」
「そ、そんなっ、ご冗談ですよね?」

 ステファンさんはもう片方の手袋もこっちの足元に投げ捨てた。

「私の決意は変わらない。何度渋られようと何度でも手袋を投げる心積もりだ。あなたも剣士の端くれだと言うのなら、この挑戦を断るのは剣士の流儀に反するとは思わないか?」
「……っ」

 その通りだ。レティシアの専属騎士を名乗ってここに来ているからには尚更に。ああ回避策が浮かばない。
 ぐっと観念するように両目を瞑ると、自らの胸中を宥めるつもりでゆっくりと手袋を拾う。

「わ、かりました。お受けします」

 こんな展開、想定外も甚だしい。
 だけど全ては私が私の意思で最終的には決断して始めた男装だ。
 悪意は介在しないけど、軽はずみだったと言われれば否定はできない。
 レティシアもクラウスさんも彼らの事情はもう目論見がほぼ達成されていると言えなくもない。この男装はそろそろ潮時かもしれなかった。
 彼へと手袋を突き返して真っ直ぐひたと見据える。

「それじゃあステファンさん、私が勝ったら師匠の弟子と認めて下さい」
「……王宮騎士に本気で勝てると思っているのか?」

 彼の矜持を害したのか憎むみたいに見下ろされて逆にムッとする。だからこっちもわざとらしく語尾を上げて挑発してやる。

「ステファンさんは凄腕騎士エドウィンの噂を知らないんですか~?」
「無論知っている。非番だったのを代わってもらってわざわざ今夜ここに来たのも、レティシア・アドレア公爵令嬢がその評判の専属騎士と参加すると俄かに聞いてどんな男か気になったからだ。だが来てみればとんだ期待外れときた」
「期待外れかどうかはわかりませんよ。師匠からだって誉めてもらいましたし」

 手袋を受け取ろうとしていた彼がくわっと目を見開いて私の手首を掴んだ。

「……っ」

 力任せにきつく絞められて手袋を落としてしまう。

「そんなものは単なるご機嫌取りに決まっている!」
「痛いですステファンさん……っ」
「あなたの貴族という身分があの人に世辞を言わせたのだ!」

 師匠は平民の出で、功績によって賜った爵位は準男爵位。彼一代限りのものだ。貴族社会じゃ世襲じゃない爵位持ちは貴族じゃないって認識がまだ強くて、師匠も王宮騎士現役時代は苦労したんだろう。家族を秘密にしていたのもその辺の事情もあるのかもしれない。
 ただ王宮騎士は縁故も皆無ではないけどその性質上実力が重視される。
 実力社会なのは国同士の衝突の他にも都市への魔物の出現が皆無ではないこのご時世において、いざという時に使い物になりませんでしたでは済まされないからだ。単なる責任問題ではなく国の存亡に関わるもんね。

 この物言いからするとおそらくステファンさんも平民出身なんだろう。

 貴族に思うところもありそうだし。でも彼に何があるにせよ今はどうでもいい。

「あなたは、師匠がおべんちゃらを言う人だって言うんですか?」

 放してくれないし痛いし孫の癖に師匠の何を見てきたんだって怒りが湧いて、声を荒らげた。

 彼が私の言葉にハッとして力を緩めた刹那。

「――そこで何をやっているんだ!」

 私よりも大きな声が響いて、私達は二人して凍り付いたように息を詰めた。

 ほとんど同時に首を巡らせば、そこには険しい顔をしたクラウスさんが立っている。

 いつもと違う醸す様子の鋭さに暗黒オーラが見えそうで固まっていると、彼は怖い顔のままこっちにズカズカと歩いてきた。

「手を放せ」

 クラウスさんは低く言って私の腕を引っ張ってステファンさんから強引に引き離すと背中に庇うようにした。強引にって言っても加減が絶妙だったおかげで痛くはなかった。
 彼は目敏くも落ちている手袋にも気付いて怪訝に眉をひそめる。

「クラウス様。急に出てきてしまって申し訳ありません。ええと何かレティシア様の急ぎの御用でしたか?」
「クラウス・アドレア公爵令息……?」

 ステファンさんは困惑気味にどうして公爵子息が社交を中断して廊下にまで出て来たのか純粋に疑問に思っているみたい。かく言う私も結構驚いていた。

「こんなひと気のない場所で二人きりで何を?」

 声も態度も険悪とさえ言えるクラウスさんを前にどこか気まずい空気になる中で、ステファンさんが小さく溜息をつく。

「個人的な話をしていただけなのでお気になさらず」
「……は?」

 いつもはニコニコしているクラウスさんがいつになく気色ばむ様子にさすがの私も動揺して慌てた。彼がこんな風にキレそうに見えた事なんてあっただろうかと記憶を手繰るけど思い当たる過去はなかった。遠乗りで心配を掛けた時でもここまでの怖い鋭利さはなかったと思う。

「あのっ、ええとクラウス様そうです、ステファンさんの言う通りに個人的なものなので大丈夫ですから。少し誤解があって揉めただけでご心配には及びません。レティシア様にだって迷惑は掛けません! もちろんクラウス様にも!」
「君はまたそんな風に……!」

 彼の怒気が増して火に油を注いだような気分になったけど、どうしてこんなに怒ってるの?
 ここは早々に話を着けてステファンさんと別れた方がいいかもしれない。

「ステファンさん例のあれいつにします何なら明後日うちでどうですかっ!?」

 私は早口で一息に言って即時返答をと念じる眼差しを送る。理由はわからないけどクラウスさんがステファンさんを殴り付けたりする前にこの対峙を終了しないといけないって思う。

「明後日か、わかったそれでいい」
「じゃあ午後ならいつでもいいですからその時にまた!」
「……ああ。また」

 これも一気に告げてクラウスさんの手を引いてそそくさと歩き出す。ステファンさんは矢継ぎ早の返答催促にやや呆気としていたものの、私達を引き止めたりはしなかった。
 クラウスさんも抵抗なく付いてきてくれたのでこちらもホッとした。
 私達は会場には戻らずに無駄に長い廊下を進んだ。
 背後でステファンさんが会場に戻ったのを察してようやく足を止める。彼も第二王子の護衛の任についているので長く不在にするのもよろしくないに違いないのだ。
 内心じゃ天を仰ぎたかった。

 何でこうなるのー……。

 師匠の身内と知り親しくしたいと思っていた相手なだけに、正直言って敵意が痛い。

 大きく嘆息しそうになっていると、手を放し忘れていたクラウスさんから後ろに手を引かれておっとっととよろける。背中がトンと彼の胸に当たって止まった。

「あ、ごめんなさ、い……?」

 彼の行動に困惑して眉を下げて肩越しに上目遣いになれば、無言のままの彼は寄せていた眉根をもっと寄せた。何かを堪えているみたいに見える。

 ……って怒りたいのを我慢してるんだよねこれ。

 さっきは思い至らなかったけど怒りの理由なんて明白だ。

 私が彼にもレティシアにも許可を得ず勝手に会場を抜け出したからだろう。専属護衛が聞いて呆れる行動だ。

「あの…」
「エマ、君は無防備過ぎないか?」
「え?」

 きちんと振り返って向き合えば、彼はいやに真剣な目をしている。

「あの男は君の素性を知っている、そうだろう?」
「あ、はい」
「そんな男を前に壁を背にしてすぐには逃げられない状況を作らせるなんて、油断も甚だしい」
「あー、そうですね、反省してます。さっきみたいに壁ドンされる前に何とかすべきでした」
「壁ドン、された? 迫られたのか!?」
「ああいえ、それだと語弊がありますね。壁に押し付けられたんです」
「おっ押し付けられた!? エマ、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ! あのまま俺が見つけなかったら襲われていたんじゃないか! あんの狼藉野郎っ!」

 へ? 狼藉? この人は急に何を言い出すの?

「えっと誤解ですよ。ステファンさんは…」
「わざわざ手袋を外して素手でエマに触れようと、いや触れていたんだ。君をたぶらかす以外他に何の目的がある!? エマも実家に招待なんてして一体この短い間に二人に何があった!?」
「決闘の申し込みです」
「そんなわけあるか」
「決闘の申し込みですっ」

 表情を変えずに語気を強くした。クラウスさんはまだ根拠なく否定したそうにしたけど、真偽を確かめるように口を閉じてじっと私を見つめる。

「……本当にそうなのか?」
「はあもう、嘘ついてどうするんですか」

 幾分拗ねた心地でいると彼はやっと信じたようで、直前までの興奮を静めるように銀髪を掻き上げた。すっかり夜会のために整えた頭髪は乱れている。だけど前髪が下りていた方がいつもの見慣れた姿だからなのか落ち着くかも。
 すると彼ははああ~と安堵のような溜息を吐き出してあたかも寄り掛かるような自然さで抱き締めてきた。

「ククククラウスさん!? ここには誰もいませんしベタベタする必要はないですよ!」
「……壁に目があるかもしれない」
「どういう理屈で――痛っ」
「エマ……?」

 駄々を捏ねるように抱き締める力を強められ、ちょうどステファンさんから押さえられた時に壁でぶつけた肩が圧迫されて微かな痛みが走った。
 クラウスさんが驚きと慌てふためいた顔で両腕を広げで一歩下がる。

「ど、どこか痛かったのか? 悪いっ、強かったかも!」
「あ、違います違いますこれはさっきステファンさんに…」

 ここまで言ってから犯人を暴露する必要はなかったと気付いたけど、遅かった。
 表情を消したクラウスさんが殺気を放出するみたいに気配を尖らせた。

「……何だって? あの王宮騎士に怪我までさせられたのか?」
「え、いやそうじゃないです。たまたま勢い余って肩を角度悪くぶつけただけって言うか……。だから怒らないで下さい」
「……。何で。どうしてエマは俺が怒らないでいられると思うんだ。君を傷付けられたのに?」

 理不尽を責めるような眼差しが向けられた反面、そんな憮然としたクラウスさんは今にも座り込んで消沈しそうな気配を滲ませてもいる。
 何だかあなたって酷い人って詰られている男の気分になった。

「ええと、本当にクラウスさんが心配するような怪我じゃないですし、何でもないんですよ? ね?」

 彼は黙り込んだまま今度は私の手を取ると、服の袖を少し引き上げた。

「じゃあこっちは? 赤くなってるのに何でもないなんて言うのか?」

 ステファンさんに強く掴まれていた手首だ。観察上手なレティシア同様クラウスさんも人をよく見ている。

「これは……向こうも興奮していて、加減をできなかったんだと思います」
「……あのくそ野郎」
「え?」
「いや。ところでどうして彼と決闘なんてする羽目に? 彼は明らかにエマを追いかけて会場を出て行っただろう。初めからそれが狙いで? 全く、殿下なんかに挨拶をしていたせいですぐに追いかけられなくてごめんな」

 うわー、殿下なんかって言った、なんかって。やっぱり微妙な関係なのかもしれない。それはともかく、彼が謝るのは違う。

「決闘は向こうが思いついたって感じでした。あとですねえ、クラウスさんは何も悪くないんですから謝らないで下さい。手も肩も大したことないですから。でも気に掛けて下さってありがとうございます」

 そこは素直に嬉しくて「嬉しいです」って付け足して笑ってみせた。

「あ、ところでレティは? 一人にして大丈夫ですか?」
「エマは、……ホント嫌になる」
「えっ」

 嫌われた!?
 そうなら切ない。

「話を逸らすし、そうやって他の人間の心配ばかりだ」

 片手ではやれやれと自らの額を覆い、もう片手ではまだ私の手を繋ぎ止めている彼がその指先を絡めるようにぎゅっと握ってくる。

「エマ」

 眼差しは懇願する人のそれだ。
 動揺するかしないかという間合いで近付いた彼からまた抱き締められた。ふざけても演技でもない抱擁にどうしていいかわからない。

「頼むから決闘なんてやめるんだ。俺の知らない所で傷付かないでくれ」

 回してくる腕は私の肩を気遣ってふわりと極めて緩い。彼は私を案じ我が事のように辛いと思ってくれている。
 その寄り添ってくれる思いやりがいつも私に自信と勇敢と温かさをくれる。
 他の貴族令嬢のようにおしとやかに微笑んでいなくても、凛として剣を握っていても、社交界に出ない面倒臭がりでも、別に素の私のままいいんだと思えているのは決して自分の性格的なものだけじゃない。

 レティシアと、そしてこの人が傍で味方をしてくれるからだ。

「クラウスさん、ごめんなさい。この件は私が自分で解決しないと駄目なんです」
「エマ!」
「師匠の名において、私は彼には負けません。だから、信頼してくれませんか?」
「ジークウルフ殿の……?」

 私が大好きな師匠の名を出して誓ったからか、彼は暫し考え込むようにじっとしていたけど、徐に私から離れた。
 その顔にはまだ難色が残っている。

「言っておくけど今回だけだぞ。君は本職の騎士じゃないんだから、この次はないよ、わかった?」

 長年の付き合いで顔付きからわかる。彼にとっては大変な譲歩だった。

「あと、決闘には俺も立ち合う」
「でも忙しいんじゃ?」
「調整するから全然平気。だからエマ、必ず無傷で勝つんだ。君にはその実力があるだろ」

 相手は王宮騎士。
 普通なら怯んでもおかしくはない。でも私の中に敗北の文字は微塵もない。

「もちろんです。しかと見ていて下さいね?」
「ああ、見守ってる」

 クラウスさんはまだどこか困ったように微笑んでもう一度抱き締めてきた。

「ク、クラウスさん?」

 大人しくしていた心臓が再びドキドキと騒ぎ始める。
 ヤバい、悟られる!?
 何か適当な口実で離れようとした矢先、放してくれた。

「そろそろ帰ろうか。レティを呼んでくるから、ここで待っていてくれ」
「え、あ、はい」
「くれぐれも、誰かに誘われても絶対ここから動かないように」

 彼は過保護にもそんな台詞を置いて急ぐように踵を返した。

 その耳がいつになくとても赤い気がした。




 会場に戻り足早に妹の所へと向かうクラウスは、自分でも信じられない心地だった。

「……エマも、ドキドキしてた……よな」

 自分と同じようだった彼女の鼓動の速さと強さを思い出せば、冷静ではいられなくなる。確かに感じた彼女の側の変化に舞い上がりそうになる。
 しかし勘違いかもしれないと、慎重になっているのは否めない。
 けれどもしも本当に自分達の心が近付いているのだとすれば、ここで攻めの手を緩めるべきではない。

「もっとアピールして、彼女が俺の事をしょっちゅう考えるように仕向けられればなあ」

 思わず口に出して自分で照れた。
 とりあえずは明後日だと言う決闘を見届けてからだ、と結論を出す。

 そうしているうちに、妹の姿を見つけた。

「お兄様……一体何があったの?」

 妹からは頗る呆れ目で「浮かれて顔が崩れ過ぎ、それじゃあ不審者よ」と言われた。
 
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