逆行転生の大誤算~英雄になったら背中から刺され能力を捨てたら雑魚扱いで処刑されたので、三度目は皆と関わらないようにしようと思った結果~

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2 早速狂った人生三度目

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 目覚めたその日は本当にこれは現実かって何度も確認した。
 何度も頬をつねってほしいってお願いしたから、当然だけど両親は変な顔をしていたっけ。
 因みに両親は一度目じゃ英雄の親になったが、とても夫婦仲の良いどこにでもいる平凡な村人だ。
 何はともあれ、俺は翌日から毎日村周辺の森に出掛けるようになった。

 折角の天賦の能力を捨てるのはアホのする事だって二度目の人生で学んだんだ。

 それに才能があったって努力もなしには英雄級にはなれない。

 処刑の時に英雄レベルの力があったら逃げられた。その後脱走兵として追われる身にはなったかもしれないけど、優れた戦闘能力と培った各種生活スキルでどこの森の中でだって、或いは魔物の巣窟の中でだって生きていけたから、無意味に死ぬよりはきっとマシだったと思う。

 故に、三度目は人生何があってもいいように、こっそりひっそり皆には内緒で鍛錬を開始したってわけだ。

 筋トレは元より、大地のエネルギーの流れる筋を龍脈って言うけど、その龍脈が集まるような大きな岩の上で精神力って言うか体と心を巡る気の力――心力とでも言うべきか――を練ったりと、六歳にして色々と始めた。そう言う場所は一際エネルギーに富んでいて修練も捗るんだよ。
 心力ってやつは基本的には魔法力に大きく影響する。もちろん冒険者たる者ベースには強靭な肉体が必要だって俺は思ってるけど、肉体派じゃない頭脳派魔法使いなんかには龍脈は修練するのに垂涎の場所なんだ。
 更に心力は剣や弓の技術的なスキルと連動もしている。
 戦闘中にあっさりスタミナ切れを起こさないよう体の芯からの力を引き出せるようになるためには、心力の上昇が必要不可欠だ。
 まあこれは筋トレして型しか教えないような巷のどこの流派にもない鍛錬方法だけど、俺は幸運にも一度目の人生で出会った放浪の師匠から、その神髄を教わっていた。

 師匠は博識で凄く強いのにその存在を知られてもいないらしく、旅路で俺みたいなのに教えては別の地へ行くって生き方をしている人だった。

 三度目の人生じゃその師匠に会う必要もなく俺は自らでその修練が出来る。

 ちょっと狡いかなって思うし師匠ごめんって後ろめたくも感じるけど、折角人生やり直してるんだし、持ってる知識を活用しない手はないだろ。こっそり強くなる分には誰にも迷惑はかけないから大目に見てもらおう。
 日々元気良く森に出掛ける俺の行動を知る両親や親友は、いつも不思議そうに見送っていたけど一緒に来ることはなかった。俺が嫌がったからだ。
 それにこの村の森はなだらかだし、魔物が入らないよう結界も張ってあったから安全だっていう認識もあって放任してくれたんだと思う。時々点数稼ぎに貴重な薬草を見つけたって持ち帰っていたのも良かったんだとは思う。
 あ、関係ないけどその結界魔法は村長が娘のためにわざわざどこかの高名な術者に頼んで張ってもらったらしい。
 親友は俺と遊びたがったけど、俺は遊ばなかった。
 鍛錬にあてられる時間をわざわざ子供の遊びに費やすのは浪費でしかなかったし、一度目と二度目でプラマイゼロってことで、もう親友と関わらないようにしようって決めたからだ。言うまでもなく村長の娘ともな。

 そう、アイラ姫だけにとどまらず、俺は一度目と二度目の人生で関わった大半の人間と可能な限り距離を置く選択をしていた。

 そうすれば今回は誰に目をつけられるでもない安泰ののんびり人生を送れるはずだと信じて。

 かつての親友とは疎遠になって村長の娘も俺の存在すらきっと忘れているだろう日々を送って俺は七歳になった。

 今日も森に出掛けた俺は、腰には自分で太い木の枝を削いで作った木剣を挿し、普通の七歳の子供にはおよそ有り得ない身のこなしで森の中を駆けていた。
 そのまま村を囲む森を突っ切って、例の結界から出ても足を止めない。

 だって目的は魔物の討伐だったから。

 この頃じゃ魔物の出ない村の森での心力の修練と筋トレだけじゃ足らずに、結界外の山林にまで出向くようになっていた。
 倒した魔物から出る戦利品は家族にも知人にも見つからない場所に隠してある。もう少し大きくなって怪しまれない年齢になったら売り払うつもりでいた。
 軍にも入る気はないから、冒険者としての出立の資金にするつもりだ。

「さーて今日も狩るか~」

 上機嫌で茂みを跳び越えた直後、俺の目には予想外の光景が飛び込んだ。

 魔狼が人を襲っている。

 今の俺には何てことない相手でも、ただの狼よりも二回りは大きい魔狼は普通の人間には命さえ取られかねない相手だ。いや十中八九そうなる。
 魔狼は今にも獲物に頭からかぶり付きそうで、状況は逼迫していた。

「頭を下げて!」

 腰から木剣を引き抜きそう叫んだ俺は、一つに固まって震える女性二人と魔狼の間に地面を一蹴りの破格な跳躍で割って入った。
 その勢いを利用した回転斬りの要領で魔狼の鼻っ柱に横振りした木剣をぶち込んでやる。
 強度を考えて造った木剣は多少の衝撃じゃあ折れない。だから木剣は二回三回と魔狼の体を殴打した。
 これが真剣だったならとっくに首が飛んで討伐完了していただろう。
 それでも失神させるには十分で、魔狼はどうっと横倒しに地面に沈み沈黙した。
 口から白い泡を吹いてぴくぴくと痙攣もしている。

「ふう、何とか間に合った」

 息さえ切らさずに魔物を無力化した俺は、ちらりと背後を見て内心で悩んだ。
 俺一人だったらこの後すぐに問答無用で首チョンパしてトドメを刺しているけど、どうするかなー……。
 トドメなら心臓を一突きって方法もあったけど、その、何だ、一度目人生でのトラウマとまでは言わないけど、実は余りやらない。
 助けた若い女性たちは腰を抜かしているし、さすがにグロい殺生を見せていいものかと躊躇った。
 ふと、二度目の人生最後の女性の悲鳴が耳の奥に甦る。
 何て言っていたのかは聞き取れなかったけど、聞くに堪えないような酷く怯えた声だった。ああいう負の感情の込められた悲鳴ってのは思い出すと気分が塞ぐ。

 ここは一旦魔物を引き取ってこの場を離れるべきだろうな。

 そう決めて振り返り、極力愛想良く振る舞うように気も遣ってちょっと慣れない笑みを浮かべる。

「ええと、大丈夫ですか? 魔物はもう心配ないので行っても大丈夫ですよ」

 二十歳を超えているだろう二人の女性たちはどこかの侍女の様な恰好をしていて、それでも不安げに顔を見合わせている。

「ま、まだ他にも近くにいるのでは?」
「ああ、それなら魔狼は一匹一匹に縄張りがあるので、近くには他のはいないと思いますよ」
「何だ、そうなのね。ありがとう坊や」
「ありがとう。強いのね」
「いいえそれほどでも」

 謙遜した俺の言葉にどこかホッとしたような色を浮かべ、二人はよろつきながらも互いを支えるようにして立ち上がる。

「もう大丈夫ですよ。――姫様」

 二人の女性の片方がそう言って、二人共自分たちの後ろを向いた。

 え、今何て?

 姫様?

 姫様ってあれだろ、王女様。

 それともこの場合は良い所のお嬢様も家の中ではお姫様扱いされる的な、姫様呼びされてるパターン?

 俺は思った。

 どうかそうであってくれ、と。

 果たして、女性たちのふわりとしたスカートの隙間からすごすごといった感じで顔を覗かせた相手は、おおっ、何とっ……非常に残念ながら俺の良く知る顔だった。
 正確には巡幸で知り合う前の顔だ。

 ――王国のアイラ姫その人だった。

 俺がまだ七歳なように、相手もまだ子供の時分で七歳。いやまだ六歳だっけ?
 彼女とは同い年だけど、俺の方が約半年誕生日が早い。
 この国は一年が十二の月に分かれていて、今は春の終わりの五月。
 そして俺は五月生まれでつい先日七歳になったばっかだから、彼女はまだ六歳か。

 そんな、将来は絶世の美女になるプラチナブロンドの幼女姫は盛大にべそを掻いていた。

 そういえば一度目じゃあ昔から泣き虫でしたって言っていたっけ。なるほどー。

「も、もう大丈夫なのですか?」
「ええ、大丈夫なようですよ」
「ミランダもエマも怪我をしたりは……」
「幸いわたくしもエマも無事でした。そこの坊やが助けてくれましたから」

 ひっくひっくと肩を揺らしながらきっとお付きなんだろう女性たちに訊ね、彼女は次に涙をためた大きな目を俺に向け……大きく瞠った。

 印象的なエメラルド色の目を。

 絶句し、見る間にポロポロと更なる涙まで零し、侍女たちがぎょっとして「姫さま!?」「本当に大丈夫なようですから!」とおろおろとし出す間を飛び出して、真っ直ぐ俺の方に駆け寄ってくる。
 いや、駆け寄るなんて可愛いもんじゃない。最早猪を凌ぐ突進って言ってもいい。

「え、何ごと…」
「うわああああーーーーん! 怖かったですーーーーッ!!」

 そして戸惑う俺へと、ダ~イブ!

 ……は!?

 不意打ち同然の行動に体重を支えられず、トスンと尻もちをついてしまった俺に縋りつくようにした。

「え、は? え?」

 彼女は俺の顔をじーっと凝視して、うるるるる~ってな感じで目に溜めた涙を揺らして口元を歪め震わせた。

「あうあう、あぅ……ああ、ありがとうございますーーーーッッ!!」

 かと思えば大きく口を開けて叫んで顔を伏せた。

 ええと助けてくれてありがとうって意味……だよな?

 でも俺に言ったんじゃないような気もするけど、よくわからん。

 とにかくアイラ姫は、もう誰に遠慮はいらないとでも思っているような大きな声で泣きじゃくった。

 ええー、すぐ横に気絶魔狼がいるんですけど、そこは怖くないんですかねー……。
 侍女たちが目を白黒とさせる中、俺の服はアイラ姫の涙と鼻水で駄目になっていく。

 って言うか、そもそも何でこの人ここに居んの?

 八歳になってから村とかその周辺に来るはずだろ。
 それがどうして今のこの時期にこんな森の中にいるんだよ?
 それはまあ百歩いや千歩譲って考えないとしても、護衛はどうした!
 一国の王女様が魔物の出る森の中で非力な侍女二人しか連れていないとか、どう考えてもヤバいだろ。

「あー、えー……大丈夫ですから、姫様」
「ううううぅぅ、それは肩書きでアイラはアイラですーーーーッッ!」
「あ、えー、アイラ様?」
「ううう、うわああああーーーーん!」

 え、駄目なの? そう呼んで駄目だったの!?

 うっかり不敬罪で一度目よりも二度目よりも儚い人生になっちゃうかもか俺!?

 俺が悪いみたいに侍女二人もこっち見てくるしっ。
 俺が悪いの? 違うよな? な? 誰かそう言ってくれっ!
 もう初対面で微笑まれてドッキーンはぅわわわぁ王女様スキ~ッて一目惚れ展開にはならないけど、何にせよ…………うそーん出会っちゃったじゃねえかーーーーッッ!!

 ぎゅううっと両腕を胴体に回されて泣かれながら、俺は思わずの半笑いを浮かべて天を仰いだ。
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