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20話
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ふと切れた意識が戻る。まだ体には甘い脱力感が残り動かせずにいると、温かい何かが体を這う感覚がした。目を開けると清水の体を拭く東雲。
「東雲?」
「あ、起こしちゃった?眠ったばかりなのにごめんね」
「ううん、大丈夫、えと…拭いてくれてありがとう」
「とんでもない、起きたんならお風呂入る?」
「入る」
まるで先程までの情事など無かったかのように「じゃあ入っておいで」と話す東雲とは対照的に、どぎまぎしている清水の頭の中は「好きだよ」と言われた時の東雲の顔でいっぱいだった。言われた時は誠実で、情交中は優艶で、今は穏和な東雲の全てが優しさから来ていることに、そしてその底に自分への好意があることに気恥しさが残る。
「ん…ありが…ぅわっ!」
赤くなった頬を隠したくて顔を逸らし立ち上がろうとすると、情交後の気だるさからよろけてしまう。臀部がじんじんと熱を持ち腰が立てずにいると東雲によって抱きかかえられた。
「俺も一緒に入っていい?」
「……うん、いいよ、入ろう」
ブランケットに包まれて浴室まで連行される。東雲は清水の世話を喜々として行い、浴室では丁寧に丁寧に指先から髪の一本に至るまで洗って浴槽に入れさせる。それまで清水がしたことといえば体を洗うために手を挙げたくらいで、文字通り全てを東雲が終わらせた。
浴槽に張られたお湯には乳白色のバスミルクが追加され、熱すぎず冷たすぎない浴槽の中で自身のシャワーを済ませる東雲を見つめる。よくよく考えたらなんで東雲が自分を好きなのか分からなかった、今までろくに話したこともないし事故のようなセックスをしてから東雲が気に入るような行動もしていない。そもそも可愛げのないぼくをなんで…?と疑問ばかりが心にひっかかる。
「ねえ、東雲」
「ん?なぁに?」
「なんでぼくが好きなの?」
「えっ!?」
髪にもこもこと泡を乗せながら洗う東雲の顔が初めて見る表情ではにかんでいる。シャワーで温まったからか照れているのか、紅潮した頬に熱を孕む瞳で清水を見た東雲は小さく小さく呟いた。
「……一目惚れ、だね」
いつもの落ち着いた所作からは考えられない余裕のなさそうな顔に胸が高鳴ってしまう。きっとこれが俗に言うトキメキというやつだ!と若干興奮しながら東雲の言葉の続きを聞く。
「最初は落ちてるゴミを拾って捨ててるとこだったよ」
体や髪についた泡を濯ぎさっぱりとした東雲が清水のいる浴槽の中に入って続ける。
「ご婦人の荷物を持ってあげるとか……誰かのために涙を流すとか、とにかく君の行動は全て他人に対しての優しさで出来てるって知ってしまってからは目が離せなかった」
まるで耳を羽でさわさわと触られているかのようなくすぐったさに小恥ずかしくて俯く。今まで何気なくやってきた行動や言葉が誰かから好意を貰うきっかけになるなんて思わなかったし、それも優しさの塊と言っても過言では無い東雲から好意を抱かれるなんて想像もしていなかった。
「ふふ、この浴槽狭いね」
俯く理由を察してか清水にもたれかかってくる東雲に何も言えなかった。顔が赤くなるのはのぼせているのか恥ずかしいのか、いつの間にか余裕そうな顔に戻った東雲をちらりと見てから顔を隠すように口元までお湯の中に沈めぶくぶくと息を吐く。バスミルクの甘い香りは東雲に対する蕩けるような尊敬と好意を包むように漂っていた
「東雲?」
「あ、起こしちゃった?眠ったばかりなのにごめんね」
「ううん、大丈夫、えと…拭いてくれてありがとう」
「とんでもない、起きたんならお風呂入る?」
「入る」
まるで先程までの情事など無かったかのように「じゃあ入っておいで」と話す東雲とは対照的に、どぎまぎしている清水の頭の中は「好きだよ」と言われた時の東雲の顔でいっぱいだった。言われた時は誠実で、情交中は優艶で、今は穏和な東雲の全てが優しさから来ていることに、そしてその底に自分への好意があることに気恥しさが残る。
「ん…ありが…ぅわっ!」
赤くなった頬を隠したくて顔を逸らし立ち上がろうとすると、情交後の気だるさからよろけてしまう。臀部がじんじんと熱を持ち腰が立てずにいると東雲によって抱きかかえられた。
「俺も一緒に入っていい?」
「……うん、いいよ、入ろう」
ブランケットに包まれて浴室まで連行される。東雲は清水の世話を喜々として行い、浴室では丁寧に丁寧に指先から髪の一本に至るまで洗って浴槽に入れさせる。それまで清水がしたことといえば体を洗うために手を挙げたくらいで、文字通り全てを東雲が終わらせた。
浴槽に張られたお湯には乳白色のバスミルクが追加され、熱すぎず冷たすぎない浴槽の中で自身のシャワーを済ませる東雲を見つめる。よくよく考えたらなんで東雲が自分を好きなのか分からなかった、今までろくに話したこともないし事故のようなセックスをしてから東雲が気に入るような行動もしていない。そもそも可愛げのないぼくをなんで…?と疑問ばかりが心にひっかかる。
「ねえ、東雲」
「ん?なぁに?」
「なんでぼくが好きなの?」
「えっ!?」
髪にもこもこと泡を乗せながら洗う東雲の顔が初めて見る表情ではにかんでいる。シャワーで温まったからか照れているのか、紅潮した頬に熱を孕む瞳で清水を見た東雲は小さく小さく呟いた。
「……一目惚れ、だね」
いつもの落ち着いた所作からは考えられない余裕のなさそうな顔に胸が高鳴ってしまう。きっとこれが俗に言うトキメキというやつだ!と若干興奮しながら東雲の言葉の続きを聞く。
「最初は落ちてるゴミを拾って捨ててるとこだったよ」
体や髪についた泡を濯ぎさっぱりとした東雲が清水のいる浴槽の中に入って続ける。
「ご婦人の荷物を持ってあげるとか……誰かのために涙を流すとか、とにかく君の行動は全て他人に対しての優しさで出来てるって知ってしまってからは目が離せなかった」
まるで耳を羽でさわさわと触られているかのようなくすぐったさに小恥ずかしくて俯く。今まで何気なくやってきた行動や言葉が誰かから好意を貰うきっかけになるなんて思わなかったし、それも優しさの塊と言っても過言では無い東雲から好意を抱かれるなんて想像もしていなかった。
「ふふ、この浴槽狭いね」
俯く理由を察してか清水にもたれかかってくる東雲に何も言えなかった。顔が赤くなるのはのぼせているのか恥ずかしいのか、いつの間にか余裕そうな顔に戻った東雲をちらりと見てから顔を隠すように口元までお湯の中に沈めぶくぶくと息を吐く。バスミルクの甘い香りは東雲に対する蕩けるような尊敬と好意を包むように漂っていた
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