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第11章・和国の反乱

第87話・暴走

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  帰ってきた、みたいだな。
  突き刺さってた槍は何故か知らんが抜けていて、横にはエリスが倒れてる。

「ったく、世話の焼ける……」

  幸い、まだ息はあった。両手に魔力を集中させ、治癒魔法を発動。傷はみるみる治っていった。

「う……」

  俺の中にブラックはもういない。アイツは、俺に伝えるべきことを伝えて消えていったんだ。
  アイツは俺を信じて、またここに戻してくれた。だから俺はその期待に応える義務がある。
  絶対に勝つ。何としても勝って、みんなを守り抜く。

「き、貴様、なぜ……!?」

  すぐ近くまで歩み寄って来ていたティルは怯えたように言った。
  だがそれは無視し、エリスに語りかける。

「おい、生きてるか?」

「当たり、前だ……」

  傷は治っているが、体力と魔力の消費はやはり激しかったようだ。喋るのも一苦労、といった様子だ。

「何でお前まで刺されてんだよ」

「知ったことか……あの怯男が……」

  ケイジに支えられながらも、エリスは気丈にティルを睨み付けた。ティルは「ひっ」とビビって後ずさりする。

「お前に言うことがあるって言ったよな、俺は」

「なんだ、今言うのか……?」

「ああ。今がその時だ」

  ケイジはエリスの顔をグイッと自分の方へ向け、

「お前の姉さんは、レニカさんは生きてる」

「えっ……」

  まさに鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔だった。そんなエリスにお構いなくケイジは続けた。

「実を言うと今は俺が所属してるギルドのマスターをやっててな。お前によく似て美人で優しくて……」

  相変わらずエリスの顔はポカーンとしている。

「今も元気に暮らしてる。みんなに慕われてるよ」

「……ほっ、本当か?」

「ああ」

「本当に、姉さんは……?」

「ああ」

  ケイジの服の袖を掴む手は震えていた。きっと、まだ信じられない部分もあるのだろう。

「生きている、のか……?」

「ああ!」

「う、うぅっ……!」

  ジンワリとエリスの目元に涙が浮かぶ。
  そしてそれを見ていた奴が再び叫んだ。

「貴様ら、いい加減にしろぉ!! 武雷槍!!」

  ティルの手からケイジとエリスを貫いた槍が再び放たれ、2人に迫った。
  だが。

  バチバチバチィッ!!

「なっ……!」

  ケイジは自らの右手に黒い雷のようなものを纏わせ、いとも容易く槍を受け止めた。
  そう、エリスが使うアンチ魔法だ。

「おい、エリス」

「……?」

  ケイジは掴んだ槍を投げ捨て、エリスの方に向き直って満面の笑みで言った。

「一緒に来いよ!」

「ッ……!!」

  その言葉で、エリスは堰が切れたように泣き出してしまった。
  姉の無事と、信頼出来る仲間との出会い。これほど嬉しいことなど今まで無かった、ということなのだろう。
  エリスは泣きながらも必死に頷いた。

「さーてと、おいビビリ野郎」

「黙れ!」

  飛んでくる槍を剣で弾き飛ばす。

「お前に言っても仕方ないかもしれないけどな、エリスは俺が貰ってくからな」

「黙れぇッ!!」

  一際大きな槍。魔法で精製された、雷を纏った槍を掻い潜り、ティルに迫る。

「うあああああああっ!!」

「はぁぁぁっ!」

  ドスッ!!

  ケイジは力強く剣を突き立てた。人の体を貫く感触が手に伝わる。

「ガハッ……」

  素早く剣を引き抜くと、ティルの体は前のめりに倒れた。そしてケイジはそれを受け止め、ゆっくりと地面に横たえる。

「ティル、よく聞け。お前の気持ちは分かる。けどな、このやり方は間違ってる」

「ぼ、ぼく、は……」

「何だ?」

  ティルがゆっくりと上に手を伸ばし、譫言のように何かを言う。

「ぼくも、いつか、姉さんみた、い、に……」

  そこまで言って、ティルの手はパタリと地面に落ちた。
  そして、ケイジがエリスの元へ向かおうと立ち上がった次の瞬間。

「ケージ!」

「ぬおっ!」

  ケイジはエリスに引っ張られ、後方に向かって転んだ。そして、ケイジは気付いていないが立っていたその空間を2本のあるモノが通過していった。

「何するんだよ!」

  エリスは息を切らしながらティルの遺体を指差す。するとそこには、飛んできたモノが刺さっていた。

「何だ、注射器……?」

  少しすると、2本の注射器に入っていた緑色の液体がティルの遺体に注入されていった。
  そして。

「なっ……!」

「ティル……!?」

  死んだはずのティルが立ち上がった。そして驚いているのも束の間、その体はどんどん膨張していった。

「ッ!!」

「わ、ケージ!?」

  とにかくここにいちゃマズい。ケイジの五感すべてがビリビリと訴え掛けてきた。エリスを抱えてブーストをかけ、できる限りその場から遠ざかった。

  数十メートルほど離れた2人は、またもや自らの目を疑った。

「何だ、あれは……」

「やれやれ……」

  ティルの遺体があった場所にいるのは、もはや何と呼べばいいのかも分からない異形のモノだった。体は濃い緑色で高さは10メートルほど、ヒトのような形状をしているが生物かも不明だった。

「グオオオオオオオオオッ!!」

「うるせっ!」

「ケージ、来るぞ!」

  そのバケモノは雄叫びをあげた後、2人がいる方へ走り寄ってきた。

「クソ、やるしかないか……」

  剣に魔力を込める。こんなデカブツ、いきなり頭や急所を狙うのは厳しい。そんなものがあるかどうかも分からないが。

「ダブル・ペイン!!」

  目にも留まらぬ速さの二連撃。すれ違いざまにバケモノの両足を切り飛ばした。

「エリス!」

  倒れたバケモノのちょうど目の前にエリスが陣取っていた。そしてエリスは黒剣を振りかざし、

「極、黒雷断絶!!」

  エリスの攻撃はバケモノの体を頭ごと両断した。もう立っている体力も残っていないのか、エリスはその場に跪いてしまった。

「はあ、はあ……」

  ケイジはそこに駆け寄り、手を貸した。

「大丈夫か?」

「ああ、すまない……流石にもう限界だ……」

「コイツが何なのかは分からないが、まずはエル達と合流しないと。ほら、行くぞ」

  肩を貸し、ゆっくりと歩き出す2人。お互い疲弊し、歩くのも精一杯と言ったところだ。どちらかと言えばまだケイジの方が余裕があるのでエリスはケイジに支えられている。
  だが。

  ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

  またもや背後で凄まじい轟音が鳴り響いた。反射的に振り向くケイジに、半ば振り回される形で同じく振り向くエリス。

「なぁっ……!?」

「クソ、マズいマズいマズいマズい!! 逃げるぞエリス!」

  そこには、エリスが黒剣で攻撃した切断面が綺麗に元通りくっ付いたバケモノが佇んでいた。目は真っ黒に澱み、まだ復活が完了していないのかビクビクと身体を痙攣させている。

  今の内に少しでも離れないとマズい。あのエリスのアンチ魔法でも殺せないんじゃ、現状打つ手が無い。「確実に殺す」イメージをしても、今の魔力残量じゃ上手く発動出来る保証もないし。

「とにかく、一旦エル達の所まで引く! アイツらならなんとか出来るかもしれない!」

「ああ、分かった!」

  痛む身体を強引に動かし、2人は何とかエル達の所まで下がっていった。
  


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