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第10章・年を越そう
第74話・これからは飲んだ量は「〇樽」で答えること
しおりを挟む時刻は午前8時。1月2日の、午前8時である。
結局、オトナになったケイジとテリシアの2人は朝から晩まで繋がり続け、そのまま疲れて眠りこけてしまった。
まあ、最初はそんなもんだよね。颯来は最初もクソもないチェリーボーイガールなんだけど。
「ふわぁ……もう朝か……」
遂にやっちまったなぁ……。別に不本意って訳でもないからいいんだけど。よく知らないが避妊とかしなくて大丈夫だったのか……?
「ん……ケージさんおはようございます……」
ボンヤリと考えていると、隣のテリシアが目を覚ました。
「テリシア、敬語。また戻っちゃってるぞ」
「あ、すみませんつい癖で……」
眠そうに「えへへ」と笑うテリシア。
うん、めっちゃ可愛い。
今の服装?
服装も何も、俺もテリシアも何も着てないっておい何だよ!怖い顔で皿投げるのやめろってメルじゃあるまいし!
別にそこまでタブー的なイベントだったんなら止めりゃよかっただろ?
え?目の保養にはなった?
お前ら最低かよ。
「ケージ、おはよう」
若干照れ臭そうに、テリシアは朝の挨拶をした。
これからもずっと続くであろう何気ない挨拶が、ケイジにとっては何よりも嬉しかった。
「おはよう、テリシア」
心がホッとするのも束の間、テリシアが全裸であることに今更気付いて目を泳がせるケイジ。
相変わらずド天然のテリシアは全く気にしていないようだが、いくら昨日色々とやったとしても流石に目のやり場に困る。
「と、とりあえず着替えてギルド行くか。昨日は行きそびれたし」
「そうですね、じゃなくてそうだね。あ、ケージ」
まあ、まだタメ語には慣れないか。
「何だ?」
「帰ってきたら、また続き、する?」
恥じらいながらも理性を破壊する言葉を投げかけてくるテリシアさん19歳。
ケイジはもちろん仏顔。
「ええ、構いませんよ」
鎮まれ息子オオオオオオオ!!
「えへへ、やった」
嬉しそうに制服を引っ張り出すテリシア。もちろんケイジのケイジはヤル気MAX。
「……」
煩悩(・へ・)イクナイ!
煩悩(・へ・)イクナイ!
煩悩(・へ・)イクナイ!
そんなことを考えながら自分の服に袖を通す。
結局エルとエラム、帰って来なかったな。まあどうせギルドで浴びるほど飲んでるんだろうが。アル中とか出てなきゃいいけど。
☆お着替えタイム☆
「さて、じゃあ行くか」
「あ、そういえばまだ言ってないね」
「何をだ?」
「あけましておめでとう、ケージ!」
「ん、AOKYでらボンボン」
「え、え?」
「あけましておめでとう」
すまんこのネタはぶっちゃけ古い。
何はともあれ、新年2日目、街はまだまだ大賑わいだ。ちらほらと知った顔も見かける。何処と無く収穫祭と似たような雰囲気だ。
「ケージ、寒いから手つなご?」
「……おう」
ポケットに突っ込んでいた右手を出し、テリシアの左手を握る。
軽はずみにタメ語にしてくれとか言わなきゃよかった。会話の度に襲いたくなる。可愛すぎるだろコイツマジで。敬語は敬語で良いなぁとか思ってたけどこれは本当にヤバい。
「えへへ~、ケージの手暖かい」
にぎにぎしないでお願いだから!
「…………」
そんな2人を追いかけるモフモフの耳が4つとモフモフの尻尾が2つ、そして更にそれを追う窶れた青年が1人。微妙な距離を保ちつつギルドに向かっていくのだった。
間。
場所は賑わうギルドにて。普段から開放はされているが、こういう祝い時はいつにも増して一般客もギルドで騒ぐのでかなりうるさい。
そして何より。
「酒臭っ!!」
ケイジのツッコミが響く。と思いきや虚しく掻き消されていく。
「何だこれ、毎年こんななのか?」
「うん、そうだよ。いつもの倍くらいはお酒と食べ物消費してる」
「休み時のテンションこえぇ……」
歩きながらも「これは家で大人しくしてる方が良かったか……」などと言うケイジ。
すると、いつものカウンター、正確には皿や空き瓶が散乱するいつものカウンターに見慣れた奴らがいた。一部はぶっ倒れ、一部は未だに飲んでいる。
「よ、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます!」
2人に応えるのはジークとガルシュ。
「ん、あけおめ」
「あけましておめでとう! 今年もよろしくな!」
ケイジはそのままジークの隣に、テリシアは棚からエプロンを引き出しカウンターの中へ。
「さーて、頑張ってお手伝いしますか!」
「おーう、頑張れー。俺ビールで」
軽く手を振りながらビールを注文。いつもならコーヒーだが今日はギルドがこの有様だから便乗だ。
「で、どうだった? 昨日は何か進展はあったのか?」
「ん、魔法使いになるのはちゃんと阻止したぞ」
「そうか、テリシアの性感帯ってどこだった?」
「他人の嫁さん相手にセクハラ発言してんじゃねぇバカ野郎」
バカな事を言い出すジークに軽くゲンコツを落とし、グラスに注がれたビールを喉に流し込む。
うん、美味い。
「そういえばよ、何でバカって馬鹿って書くか知ってるか?」
「……は?」
ジークの唐突で且つ意味不明な質問に訝しげな顔をするケイジ。
「正解はな、馬と鹿がバカだからだ! ハハハハハハ!」
「いや絶対に違うだろそれは!」
もっと他にバカな動物いるだろ!
「んあ、メラ、メラはどこだ?」
「いや誰だよメラって!」
「なんだケージ、お前メラを寝取ったのか!? ふざけんなNTRは」
「それ以上はやめろ! おいガルシュ、コイツどんだけ飲んだんだ!?」
「ん、量は多過ぎて分からないが、年末日の夜から今まで寝もせずにずっと飲んでるぞ」
「……」
そりゃあ酔っ払うわ……。
てかそんだけ飲んで何で生きてられんだよ、まさかコイツ人間やめたのか?
「ケージ!」
酔っ払いに絡まれそれを振り払おうとするケイジを、あいつが呼び止めた。
「お、クロメとハク、それにユウも。あけおめ」
「にーに久しぶり~!」
ハクが嬉しそうな満面の笑みでケイジの足にひしっと抱き着いた。
ケイジはそれを軽く持ち上げて、
「おうハク、久しぶりだな。また遊ぶか?」
「遊ぶ~!」
目をキラキラさせるハク。
うん、可愛すぎマジやばくね。
「むうぅ、ケージ! 妾には、妾には!?」
「え、どちら様でしたっけ?」
「ううぅ~!!」
「だああ、悪かったって! ほらこっち来いよクロメ!」
ちょっと意地悪しただけで涙目とか子供かよ! まあ可愛いから許すけど!
「ふん、分かれば良いのじゃ! それよりもケージ、年が明けたぞ!」
「え? ああ、あけおめ」
「そうではない! 年が明けたのじゃから、これで正式に妾の夫に!」
「いや何言ってんだよアンタ」
年明けと婚約に何の因果関係があるってんだよ新しすぎるだろそれ。
「だから、妾の夫に」
「あ、そういえば酒が飲みてぇ」
「ケ、ケージ~!」
ハクを抱えたまま酔っ払いとアホ狐を放置して他の場所へ。
毎日は俺のSAN値が足りないからごめんだが、たまにはこんなのも悪くない。
「あ、ご主人ー! あけおめー!」
こちらを見つけて歩み寄ってきたのはめちゃくちゃ酒臭いエル。
「おいアホ悪魔、お前どんだけ飲んだんだよ」
「うーん、5樽はいったと思うけど」
「…………」
単位が何杯とか何本とかじゃなくて樽て。5樽て。ぶっ飛び過ぎだろマジで。
「年末年始はタダなんだろ? もっと飲んでろ」
「うん、そうする!」
賑わう輪の中に戻っていくエル。
テリシアに聞いた話だが、年末年始やその他の祝い事の時にはギルドでの飲食代は無料になるそうだ。いつも頑張るハンターたちや街の人々への感謝を込めて、とのことらしい。
本当に、呆れるくらい良いギルドだ。ここまで来ると利益とかちゃんとあるのかってくらい不安になるが。
「にーに、遊びたーい」
ずっと抱えっぱなしのハクが文句を言い始めた。
まあ子供にこれは悪影響過ぎるのだが。
「あ、ケージさん!」
「サーチェさん。あけましておめでとう」
歩み寄ってきたのは、汚れきったエプロンを付けたサーチェだった。連日の調理戦争がどれだけ激しかったかよく分かる。
「おめでとう! その子は?」
「知り合いの姪だ。ハクっていうんだ」
「ハクだよ! よろしくお姉ちゃん!」
「わぁ~、可愛い~!」
ケイジからハクを奪い取り、抱き締め、愛でまくるサーチェ。母性本能を刺激でもされたのか。
「ねぇハクちゃん、お姉ちゃんと遊ぼ!? やりたいこと言って!?」
え、それは俺の役目では……?
「おままごと!」
ハクさん普通に答えるんですね!
俺は御役御免ですかそうですか!
微妙に不貞腐れながらカウンターに戻るケイジ。
別にサーチェさんがハクの相手してくれるんならそれでいいんだけど、何だろうこの敗北感……。
「ケージ! これを飲め!」
「おいケージ、バカって何で馬鹿って書くか知ってるか?」
「ケージ、妾の夫に! さあ、さあ!」
どこにいっても ぎるどはうるさいんだなぁ
みつを
うるさくて仕方のないギルドを見回しながら、穏やかに笑うケイジなのであった。
応援ありがとうございます!
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