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第10章・年を越そう

第70話・☆コンペイトウタイム☆

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「さてと、じゃあそろそろ鍋を作りましょうか」

時刻は午後6時。他の家と比べれば比較的早い方なのだが、食事後にケイジと2人っきりになるという計画のあるテリシアは早めの方がいいと踏んで提案するのだった。

「だな。じゃあ具材持ってくるか」

そう言ってケイジは魔力を溜め、床に魔法陣を出した。そしてその上に、1枚の布に乗った沢山の食材が現れた。

「おお~!」

目をキラキラさせて喜ぶエラム。
色々と吹っ切れたみたいで何よりだ。こいつは笑ってる方が似合う。

「よいしょっと。じゃあ私は野菜とお肉を切るのでケージさんはお鍋の方をお願いします」

「はいよ。エル、エラム、これ食って待ってろ」

ポイッとあるものを2人に投げる。
そのあるものとは。

「え、ご主人これなに?」

金平糖こんぺいとう。クロメたちに貰った」

金平糖である。今日の昼間、ケイジは肉屋での買い物帰りにクロメとハクに会った。そこで、クロメが国から取り寄せた新商品だと言って渡してくれたのがこれなのだ。
クロメが言っていた正式名称は星虹飴せいこうあめだったが、まあ金平糖でも分かるだろ。

「これは食べ物なのか?」

エラムが不思議そうに尋ねる。

「ああ、甘くて美味いぞ」

「……頂きます!」

エラムは1粒をつまみジッと眺めた後、意を決したようにそれを口に放り込んだ。

「エラム、どう?」

エルが言う。

「……美味しい」

「ほんと?」

「うん。甘くて、なんだかホッとする味」

満足気な顔で金平糖を食べるエラム。
その年で金平糖の良さが分かるとはなかなかやるじゃないか。

「あむっ。あ、ホントだ美味しい」


一応使わせてもらったので豆知識を。本編には関係無いので面倒ならば読み飛ばして結構でありんす。
金平糖(こんぺいとう、コンペイトー)とは、砂糖と下味のついた水分を原料に、表面に凹凸状の突起(角状)をもつ小球形の菓子です。
金米糖、金餅糖、糖花とも表記されるそうです。語源はポルトガル語のコンフェイト(confeito [kõˈfɐjtu]、球状の菓子の意)。金平糖はカステラ・有平糖などとともに南蛮菓子としてポルトガルから西日本へ伝えられたとされていて、初めて日本に金平糖が伝わった時期については諸説ありますが、戦国時代の1546年(天文15年)とも言われています。(引用・Wikipedia先生より)
ちなみに、日本には唯一とされる金平糖の専門店「緑寿庵清水」があり、なんと150年以上続いている歴史ある金平糖屋さんです。
どの商品もそれなりに値は張りますが超絶品だそうで、颯来も是非とも食べたいのです。


「こんなにキラキラで綺麗なのに味も美味しいなんて、凄いお菓子だねご主人!」

「作るのも大変みたいだからな。手のかかってるもんは美味い、そういうもんだ」

話も程々に鍋の用意を進めるケイジ。
たかが料理っても、火を使う時は注意してやるべきだからな。注意し過ぎても損する訳じゃないし。

「……よし。テリシア、鍋の用意出来たぞ」

「分かりました、じゃあまず下味を付けて……」

パラパラと、調味料のような粉末が鍋に投入される。この時点ではまだ色や匂いに変化はない。

「食材投入ー!」

そのままぶち込みそうな掛け声とは裏腹に、丁寧に且つスムーズに具材を敷き詰めていくテリシア。
伊達に受付嬢はやってないってことか。ホントにぶち込みそうでビビったが。

「そして鍋の素!」

小さな茶碗に入った色の付いた液体を鍋に注いでいく。どうやらこの世界にも鍋の素はあるようだ。
うん、素シリーズほんとに便利だもんね。

「……おお」

「うわぁいい匂い!」

「たっ、た、食べよう!?」

液体を注ぎ軽く混ぜると、鍋の素と具材のいい匂いがブワッと部屋に広がった。堪らずエラムとエルも食いついてくる。

「ちょ、待て待てエラム! まだ火い通ってねぇから!」

鍋の蓋を開けようとするエラムの手をどうにか引き留める。

「あはは、すぐ出来るから。ケージさん、私もこんぺいとう? 食べていいですか?」

「ああ、もちろん。エラム、お前もこっち来い」

「はーい」


☆コンペイトウタイム☆


「そろそろかな……?」

「お、じゃあ運ぶか。鍋敷きって何処にあったっけ?」

「あ、私出しますよ」

まさに夫婦、のような会話をしつつ鍋をテーブルへ。元々4人用のテーブルだったので席の無いやつもいない。

「よし、開けるぞ~」

鍋掴みを手にはめ、蓋を持ち上げる。
すると、先ほど鍋の素を入れた時とはレベルの違う、芳醇な香りが部屋に満ちた。

「っはあ~!」

まさに声にならないような感動をするエラム。確かにその気持ちは分かる。

「いい感じですね」

「よし、じゃあ食うか!」

「頂きます!」

「いっただきまぁーす!」

各々好きな具材をお椀に盛り、口へ運ぶ。
単純な作り方でも、普通に売っているような食材でも、皆で食べればどんな高級食材よりも美味く感じるものだ。

「うっまぁーい!!」



間。



食べ始めてから数十分。鍋はすっかり空っぽだ。ちなみに、肉はほとんどエラムとエルが食べてしまった。僅かに取れた分もなるべくテリシアに回していたため、ケイジはほぼ野菜しか食べていない。まさにヘルシー。

「はあ、美味しかった~」

腹を擦りながらソファーで横になるエラム。
めっちゃ腹膨れてるんだが。

「あ、そうだった。ねぇご主人」

「なんだぁ?」

ケイジはケイジで、野菜ばかりを食わされ腹一杯だった。何とかエラムとエルにも食わせようとしたのだが、まあ家庭内で男の立場が低いのは自明の理である。

「メルに年越しギルドでしよーって誘われたんだけど、行ってきていい?」

「いいぞー。飲みすぎんなよー」

「ほんとに聞こえてるのかな……」

「だ、だったらエラムちゃんも連れて行ってあげたら?」

さりげなく言うテリシア。昼間にメルと話した2人っきり作戦である。

「エラム~、行く?」

「行くー!」

「じゃあ2人で行ってきます!」

「はーい。気を付けてね」

そうして、エラムとエルはギルドに向かっていった。家の中にはケイジとテリシアのみ。

いい所だが、文字数的にアレなので続きは次話へ。砂糖ダバー展開が予測されるので注意されたし。
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