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第10章・年を越そう

第69話・ずっと

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今となっては見慣れた、テリシアの家。自分と大好きな女性、食いしん坊なドラゴンとテンションの高い悪魔が住むちょっぴりうるさい家。大事な、とても大事な還るべき場所。
目に映る度にホッとする。

「ふう、ただいま」

「おかえりご主人ー!」

「ケージおかえり!」

「うおっと」

おかえりの声と共に2人してケイジに抱き着くエラムとエル。
こいつらも何だかんだで仲良くなったみたいで、俺やテリシアがいなくてもエルがいてくれればエラムが留守番出来るからありがたい。それ相応の見返りは要求されるが。

「はいはいただいま。疲れたから離せ」

「やだ!」

「私もやー!」

「……とりあえずリビングに行かせてくれ。座りたいんだよ」

2人に抱き着かれたまま半ば引きずるような形でリビングへ。
だああ、歩きにくい!

「よっこらせっと」

「とーう!」

「とりゃー!」

年寄りの様な掛け声でケイジがソファーに腰を下ろすと、すぐさま2人は両隣へ飛び込んだ。

「おい、ソファーが壊れるから優しく座れって」

「分かってるよ~。それよりご主人、今日って今年最後の日なんだよね?」

「ああ、そうだぞ」

「むふふ~」

何か含みのありそうな笑い方をするエル。

「何だ、何企んでるんだ」

「これは決まりなんだけどね。契約してから次の年初めまでは、私とご主人は仮契約みたいな感じなの。でも、明日になれば正式に私はご主人のお嫁さんに……!」

「なるほど、じゃあ今のうちにお前をぶっ殺せばいいんだな?」

容赦無く右手に魔力を溜めるケイジ。
まあこんなのはただの冗談で、俺がこいつに勝てる訳がないのだが。

「まままま待って!? 分かってるよちゃんとタイミングはご主人に任せるから!」

「いや意味が分からんから」

「ねえケージ」

いつも通りのアホなやりとりをしていると、飽きたのかエラムが口を開いた。

「ん、なんだ?」

「私って、ケージにとって何?」

「え……?」

突然の質問に、ケイジは困惑した。
エラムからすれば、ケイジは恩人である。命を救ってくれて、食べ物と安全な家をくれて、そして何より掛け替えのない大切な仲間を見つけさせてくれた。
幼くても、それがどれだけ素晴らしいことなのかはよく分かっている。
だからこそ、何故ケイジは自分にそこまでしてくれるのか。自分の存在意義とは何なのか。それを知りたくなったのだろう。

「……やれやれ」

いつになく真面目な顔で尋ねるエラムに、ケイジは軽く息を吐いた。

「そうだな、俺にとってエラムは……まあ家族だな。年の離れた妹みたいなもんだ」

「家族……?」

「ああ、もちろん。お前は俺の大事な家族だ。なあエル?」

「あったりまえじゃん! エラムは私の大事な妹だもん! あれ、でもそうすると私もご主人の妹になっちゃう、それじゃ結婚出来ない……?」

「やめろ話がずれる」

よく分からないことを言い始めるエルの頭を軽く叩き、エラムに向き直る。

「どうしたんだ? 突然そんなこと聞いて」

「……テリシアはケージのお嫁さん。エル姉はケージのこと守ってる悪魔。だったら、私はなんなんだろうって。ケージの役に立ててるのかなって」

ま、守ってるのか?
正直言って俺を生き返らせてからのエルの行動は完全に私利私欲の為だと思うんだが……。

「別に無理して役に立とうとしなくたっていいんだけどな。エルだってお前が思ってるほど役になんか立ってないぞ?」

「ご主人ひどい!」

「それに一応言っとくけどな。俺はエラムに一緒にいて欲しい。だから連れて来た」

エルをガン無視して話を進める。
まずはエラムときっちり話すのが先だ。

「わ、私と……?」

「ああ。俺はお前と一緒にいたい」

「でも、私強くないし……」

「何かあったら俺が守ってやる」

たぶんエラムの方が強いけど!

「私、私は、ここにいていいの?」

エラムは若干涙目で、縋るような声で言った。

「当たり前だろ? 誘ったのは俺なんだから。なあエル」

「もっちろん! エラムと一緒にいると楽しいもん!」

「ケージ……大好き……!」

消え入りそうな声でケイジに抱き着くエラム。辛そうに身をすり寄せていた。

「よしよし……」

さすがのエルも今回ばかりは本当にエラムが辛そうに見えたのか、抱き着くことに突っかかる様子はなかった。

「ただいまですー」

すると、テリシアが帰ってきた。
両手には沢山の酒が入った袋。ギルドから貰ってきたものだ。

「おかえりテリシア」

「おかえりなさーい!」

「あれ、エラムちゃんどうしたんですか?」

ケイジに抱き着き啜り泣くエラムを見て、テリシアが尋ねた。

「いや、ちょっとな。テリシア、1つ聞きたいんだが」

「はい、何でしょう?」

「エラムは俺達の家族だよな?」

「え? はい、もちろんですが」

「……!」

至って普通に、何故そんな質問をするのかという風に答えたテリシア。

「テリシア大好き~!」

今度はテリシアに思い切り抱き着くエラム。
特に悩む訳でもなく、当たり前のように自分を家族だと認めてくれたことが何よりも嬉しかったのだ。

「え、エラムちゃん?」

少し困った様子で、テリシアはケイジに目配せする。

「もう少しだけ、そうしてあげてくれ」

「……分かりました」

特別な事情があることを理解したテリシアは、何も聞かずにエラムを優しく抱きしめた。
そして、ケイジはソファーでエルにこっそりと、

「エル、これからもエラムと仲良くしてやってくれないか? 俺もテリシアもいつも一緒にいられるわけじゃないから」

「……当たり前だよ、可愛い妹だもん」

柔らかく笑うエル。ケイジはそれを優しく抱き寄せた。

「……ご主人から抱き着いてくるなんて珍しいね」

「悪いか? 嫌ならやめるが」

「ううん、このまま……」

ゆっくりと流れていく時間。 
静かで、とても居心地のよいこの空間で。
4人、ずっと一緒に過ごして行けたら。
それはきっと、何物にも変え難い素晴らしいものであろう。


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