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第7章・新生活も楽じゃない
第57話・ペット?
しおりを挟む「そういえば、宝石の選定はちゃんとやってあるのか?」
ギルドの入り口にさしかかりながら、訪ねるのはケイジ。
そしてそれにジークが応える。
「ああ、やってあるぞ。七聖石はあるだけ取っておいたし、他にも使えそうなものは傷付かないように保存しておいた」
「そうか、悪いな色々と」
「そういえば、依頼人の人って誰なの?」
と、メル。
そういえば、何やらめちゃくちゃ胡散臭い依頼書だったな今回の仕事は。ガルシュが気にしてる様子が無かったからスルーしてたが、結局誰に渡せばいいんだ?
「うーむ、とりあえずミルさんにでもどうすればいいか聞けばいいんじゃないか?」
「だな。サーチェさんのことも話さなきゃだし」
「だ、大丈夫かな?」
不安げにサーチェが言う。
「大丈夫ですよ。みんな良い人達ですから」
「その通りだ。アンタほどの腕前なら、喜んで受け入れてくれるさ」
ケイジとジークが励ます。
村での宴会の時にも思ったことだが、サーチェさんの料理の腕はかなりのもんだ。あの量をあの早さで、しかもあれだけ良い味で出せる料理人はそうそういない。
フェアリー・ガーデンは受付嬢も料理人もウェイターも全部ミルさんやテリシアたちがやってるし、大きな助けになるはずだ。
「んー、やっぱりこの雰囲気良いなぁ!」
ギルドの中に入った所でメルが言う。
中はいつも通り賑やかで、料理の匂い、食器の音、そしてメンバーたちの笑顔で溢れていた。この光景は、ケイジも大好きなのだ。
「すっごい賑やかなところだね……」
周りを見回しながらサーチェが言う。
確かにサーチェがいた村の酒場とは規模が違う。
「賑やかすぎる時もありますけどね」
苦笑いを浮かべながら応えるケイジ。
「あ、そうだケージさん。もう、私に敬語なんて使わなくていいよ」
「え、そうですか?」
「うん。これからは私もこのギルドのコックだし、仲間……でしょ?」
「ん、それもそうだな。じゃあこれからは普通によろしく」
「うん、よろしくね!」
ドスッ!!
ケイジとサーチェが笑いあったその時。
その周囲に鈍い音が響いた。
それと共に。
「ウギャアアアアアアッ!!」
ケイジが絶叫しながら飛び上がる。天井に達しそうな勢いだ。
「ケ、ケージさん!?」
「あーあー、言わんこっちゃない」
「うわぁ、あれは痛いね」
大慌てのサーチェと、全く動じないジークとメル。
「はーっ、はーっ……」
地面に落ちたケイジは、這いずりながらケツに刺さったフォークを引っこ抜いた。ダメだぞ優しくやらないと痔になる。
ここまで言えば、っていうより書けばもうお分かりだろう。
「ケージさぁん……」
ジークたちの間を、怨みの籠った目を輝かせたテリシアがゆっくりと歩いていく。
「テリシア……ただいま……」
「おかえりなさい……。それより、どういう事ですかぁ? 何故ギルドに帰ってきたのに私じゃなく他の女の人と楽しそうに話してるんですかぁ?」
ゾンビのようにゆらゆらと歩きながら、ケイジに近付いていくテリシア。ゾンビっていうより貞子のようである。
「いやあの、すいません事情話すんで聞いてください」
「事情……?」
☆サーチェさん雇用案件提案中☆
いつものカウンターにて。
右からメル、ジーク、ケイジ、サーチェの順に座っていて、今日はガルシュとミルは席を外している。
「もう、そういう事なら早く言ってくださいよケージさん」
食器を拭きながらそう言うテリシア。
プンプンと怒ってはいるが、先ほどのガチでヤバ目な目付きではなくなったことにほっと安心するケイジ。
「いや、何も言わずにケツ刺したやん……」
「仕方ないです。浮気は許しませんので」
「だから言ったろうケージ。浮気なんかやめとけって」
「だから浮気してねぇよお前にもフォーク刺すぞバカ旦那」
「やめてくれそれは。痔にはなりたくない」
痔ってほんとに辛いよね。試験直前の勉強より辛いよ。
「ケージさん」
「はい」
「特別に今回は許してあげます」
「ありがとうございます」
「ただし、1つ条件があります」
「何でございましょう」
テリシアがカウンターから出て来る。
「ギューッてしてください。思いっ切り」
あまりにもストレートになった彼女に、思わず笑ってしまうケイジ。
「……ほんと、キャラ変わったよなテリシア」
「ケージさんのせいなんですからね。ほら、早く」
「はいはい」
そして、ケイジは3人の前でテリシアを抱き締めた。
「……ちぇっ」
他の誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いたのはサーチェ。
こんなに近くで見せつけられてしまったのだ。テリシアと抱き合っているケイジは、確かに、自分と抱き合っている時よりも幸せそうだった。
「ケージさん」
「何でございましょう」
「キスもしてください」
「え、ここでか?」
「はい。だってケージさん、出発する日の朝してくれなかったじゃないですか」
「あ~、そういえば……」
ケイジの体を離そうとしないテリシアは、顔をグイッと近付けて続けた。
「だ、か、ら。お願いします」
「……やれやれ」
逃げられないと悟ったのか、ケイジは観念したようすでテリシアを受け入れた。
2人の唇が重なる。
互いの体温が伝わり合う。
テリシアとは何度もキスして来たが、やっぱり飽きる事なんてない。いつしても、暖かくて、心地好くて、ずっとしていたくなる。
だが。
「……んっ」
少しすると、ケイジから離れる形でキスは終わった。
俺から終わらせないとマジで永遠に終わらないんだよ。テリシアから離れる事は絶対無いから。ほんとに、俺の自制心が悲鳴をあげてるんだ毎回毎回。
「……許してくれますか?」
「はいっ! 大好きですケージさん!」
満面の笑みを浮かべ、もう1度強くケイジの体を抱き締めるテリシア。
やれやれ、別に浮気してた訳じゃないが、ここまで笑ってくれるんなら悪くもないな。
「……ん?」
ニヤニヤしながら2人を見ていたジークが、不意に気付いた。
「な、なあケージ」
「どした?」
「……エラムは?」
「…………」
瞬間、固まるケイジ。
……あれ?
あいつ、何処にやったっけ?
確か、出発する時も寝てたよなあいつ。ってことは……。
まだ馬車の中!?
「……やっちまったぜ☆」(´>ω∂`)
「アホか! 早く行ってやれ!」
「なっ、ケージさんもしかしてまた……?」
2人の会話を聞いていたテリシアの顔が再び歪み始める。が、必死にそれを抑えてケイジが言った。
「いや、あいつはどっちかと言うとペットだ」
「ペット?」
「お前、さすがにドラゴンをペット呼ばわりは……」
「いや、とりあえずいいだろ。じゃあ行ってくる!」
そう言って、ケイジはエラムが動物愛護センター送りになるのを阻止すべくギルドを飛び出していくのであった。
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