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第6章・社畜生活は終わらない

第46話・少しでも長く

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1番良い告白のやり方ってのはどういうやり方のことを言うんだろうか。
直接言う、手紙に思いを認める、現代ならメールとかもあるよなぁ。まあこっちじゃケータイ自体存在しないが。
結局、どんな方法であれ自分の真剣な気持ちが、相手を好きだっていう気持ちが、しっかり伝われば良いんだよな。
綺麗な夜景の見える場所で2人っきりで、なんてアニメみたいなシチュエーションもいいよなあ……。

なんてボンヤリ考えながら暫く歩いていると、とうとうギルドに到着した。
現在時刻は午前7時。街もギルドもそれなりに活発になってきている。

「お、レニカさんおはよう!」

「マスター、おはようございます」

「ジーク、また弾取りに来てくれ~」

「ケージさん、今日私のお店来ませんか?」

「うおお、なんだこの穴!?」

街の住人たち、ギルドの仲間たちと挨拶を交わす。穴のことは勘弁してくれ。
そして足は止めずいつものカウンターへ。
少し歩いていくと、奥の方に見慣れた3人が目に入る。
カウンターで洗い物をしながら話すテリシア、朝から若干飲んでいるメル、それをバカにするガルシュ。
普段ならそれを見てホッとするのだが、今日だけは違った。

嬉しい。
ただただ、テリシアの元へ帰ってこれたことが嬉しい。
それだけで胸がいっぱいだった。

ふと、2人が足を止めた。

「……?」

どうしたのかと、ケイジが振り向く。

「行ってこい」

「怒られても私のせいにはしないでおくれ」

そんなジークとレニカ。気の利きすぎた友人についつい笑みがこぼれる。自分のことを理解し考えてくれる人がいる、その事実がとても嬉しく感じる。
軽く頷き、テリシアの元へ向かう。
するとテリシアがこちらに気付き、カウンターから綺麗な金髪をなびかせて出て来る。

ああ……。
やっぱり俺、テリシアが大好きなんだ。

「ケージさん! もう、また私を置いてどこに……」

走って来たテリシアを、ケイジは抱き寄せた。
優しく、強く。
テリシアの暖かさを、感触を、この瞬間を噛みしめるように。

「け、ケージさん……?」

ギルドの仲間たちはその光景をポカーンと眺め、テリシアもオロオロしている。事情を知っているジークとレニカは、やれやれといった顔をしていた。

あれ、俺、何やってるんだ……?
今日、2人きりのタイミングを作ってからって考えてたような……。
まあ、いいや……このまま伝えよう……。

今までずっと、誰にも愛されて来なかったケイジ。そんな彼を、まっすぐな心で愛してくれたテリシア。ようやく自分の心と折り合いをつけることが出来た彼が、自由になった自分の気持ちを抑えられるはずがなかったのだろう。
人を好きになる。誰しも経験はあるだろうし、言葉にすればなんてことないただの思考回路のバグ。
それでも、救われる者はそれで全てが救われるのだ。一生を幸せに生きていくことが出来るのだ。

「テリシア、好きだ。大好きだ。俺は君を心から愛してる。ずっと、ずっと一緒にいてくれ」

生まれて初めての告白。強く抱きしめ、耳元で自分の想いを告げた。この言葉が、積もらせていた想いが、誰にも、どんなものにも邪魔されないように。真っ直ぐ、ただただ真っ直ぐテリシアの心に届くように。
周りの連中には驚き、憧れ、呆れなど様々な感情が渦巻き、そして時間が止まっているかのようだった。

だが、彼女は違った。
突然のことに驚きながらも、テリシアはギュッとケイジの体を抱きしめた。彼女なりに、強く、優しく。
お互いの温もりが、体の感触が、胸の鼓動が伝わる。

「私も、ケージさんが大好きです。ずっと、お側にいます。何があっても、あなたを愛し続けます」

テリシアは穏やかな、そしてはっきりとした口調でそう言った。
その瞬間、まるで体が生き返ったかのように感じられた。

ああ、嬉しい……。
分かっていても、直接返事を聞けるとたまらなく嬉しい。俺の大好きな女性ひとは、俺を大好きでいてくれたんだ……。

「はいはい、見世物じゃないぞー。仕事しろお前らー」

レニカがそう言うと、仲間たちはまたいつも通りに活動し始めた。
だが、2人はそのまま動こうとしなかった。
少しでも長く触れ合っていたいと。
少しでも長く愛し合っていたいと。
少しでも長く繋がっていたいと。
そう主張するかのように。

そんな2人を、ジークとレニカ、そしてメルとガルシュは優しい笑みと共に眺めていたのであった。
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