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第6章・社畜生活は終わらない
第45話・それでも
しおりを挟む「ん、帰って来たか2人とも」
「あれ、待たせちゃいました?」
城では既に国王達とレニカの話し合いが終わっていたらしく、皆で早めの朝食を摂っていた。
「いや、大丈夫だ。君たちも朝食にするといい」
「じゃ、そうしますかね」
ケイジとルルカが空いた椅子に腰掛けると、給仕の使用人が豪華な朝食を運んできた。焼きたてのパンに目玉焼きとこんがり焼かれたベーコン、シャキシャキのサラダに新鮮なフルーツなど、さすがは王宮と言ったところだ。
温かいパンを口に運ぶ。
「あれ、そういえばあのライオンはどうしました?」
大盛りのサラダを食べながらジークが尋ねた。それにレニカが応えて言う。
「ああ、奴ならもう国に戻っている最中だろう。次にこんな事をしたら息の根を止めると念押ししておいたから大丈夫だ」
サラッと言うレニカに、ケイジとジークは苦笑いするしかなかった。
こ、この人マジでおっかねえな……。
あ、そういえばさ。
疑問に思ってた事なんだが、レニカさんって何の種族なんだろうな?
見た目はまんま人間だけど、国王達と喋ってる様子を見てた限りじゃ人間ではないみたいだが。まあ、まだまだ知らないこともたくさんあるってことか……。
「さて、それじゃあそろそろ帰ろうか」
食事を終えたらしく、スッと立ち上がるレニカ。
え、俺まだ食べ始めたばっかなんですが……。
「え、も、もう少しゆっくりなさっては……?」
テキパキと支度をするレニカに、ルルカが言う。
「いえ、ありがたいですが仲間達が待っています。また今度、お誘いください」
「ほれ行くぞケージ」
歩いて行くレニカと、それに続いてケージを引っ張って行くジーク。
「あああ、俺のベーコンエッグ……」
「いいだろ帰ってからテリシアの手料理食べれば」
「……それもそうだな」
テリシアの名前が出た途端にキリッと顔が引き締まるケイジ。相変わらずわかりやすい奴だ。
「ケージさん!」
引きずられていくケイジを、ルルカが呼んだ。
「本当に、ありがとうございました! また、また遊びに来てください!」
ケイジは何かを語る事もなく、拳を突き上げた。カッコつけたかったのだろうが、引きずられているままなので何ともシュールである。
そしてそれを見たルルカは、笑いながら大きく手を振った。3人が城を出ても、見えなくなるまで、ずっと。
間。
「まったく、ケージ、たらしも大概にしろよ?」
3人でギルドに向かって歩いている時、ジークが言った。
「いやどういうことだよ」
「言わせるな。あんなにも姫様といい雰囲気だったではないか」
レニカもジークに続く。
「いや、いい雰囲気てあんた……」
「あれはしっかりとテリシアに報告しなければ……」
「おいやめろマジで。シャレにならん」
「……ケージ、いつになったら伝えるつもりだ?」
少し真面目な顔でジークが尋ねる。
「今日。帰って、2人になったら言う」
至って普通に、慌てることもなくケイジが言った。さすがのジークとレニカも驚いたようだった。
「おお、マジか。やっと吹っ切れたのか?」
「あ~、吹っ切れたっていうかなんていうかだな。今回の件で俺たちがこの世界に来たのが偶然じゃなかったって分かったから、ってのが伝えようと思ったキッカケだな」
考えながらケイジは続けた。
「いつまでも俺の勝手な事情で待たせるのも悪いしな」
「……納得は出来たのか?」
「ああ。ルルカ姫に聞いて、考えた。俺は、いや、俺たちは、きっとこの世界に来るために生きて来たんだって。新しい一歩を、踏み出してもいいんだって」
「そうか……。そう、だな……。そういう考え方も、いいかもしれないな」
ジークがやんわりと笑って言った。ジーク自身も、自分なりに考えたのだろう。
「ケージくん」
ここまで黙って2人の話を聞いていたレニカが口を開いた。
「あの子は両親を魔獣に殺され、生まれ故郷を破壊され、心に大きな傷を負ったんだ。だから、君にどうにかしてその傷を癒してほしい」
「……はい」
「と、言いたいところだが」
「え?」
「その傷が殆ど癒えているのはもう言うまでもないな。君のおかげだ」
隣を歩くジークもうんうんと頷いている。
「それでも、それでもだ。保護者代わりとは言えないが、これだけは言わせてくれ」
穏やかな笑みを浮かべ、レニカは言った。
「どうか、テリシアをよろしく頼む」
そう言うレニカは、今まで見た中で1番綺麗だった。
「……はい、もちろんです」
スッと、詰まることなくレニカの言葉に応えることが出来た。
ようやく俺も、新しい道へ進める。
そんな気がした。
「……それじゃあ、早くギルドに帰ろう。皆待っているはずだ」
レニカに促され、暖かな朝陽を浴びながら3人はギルドへ向かった。
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