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第6章・社畜生活は終わらない

第41話・タバスコは絶対顔にかけちゃいけない

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「うーむ……」

城内をこっそり探索していた2人だったが、明らかにおかしい城内の様子にケイジがうなり声を出した。

「どういうことだ……?」

ジークも不思議で仕方がないといった様子だった。

何がおかしいかというと、城内に人がまったくいない。潜入してすぐの時は警備の奴らを警戒して、殺し屋らしくこっそりと進んでいたのだが、今や堂々と城内を歩いても誰とも出会わない。
まさかもう逃げられたってことは……。

「さて……ケージ、どうする?」

「まあ誰かが捕まってるんなら牢屋、牢屋とかなら地下だよな。行ってみるか」

探索中に見つけた、地下へ向かう階段をゆっくりと降りる。万が一がある可能性もまだ捨てきれない為、周りを警戒しながら進む。
そして、2人は沢山の牢屋が並ぶ地下にたどり着いた。
奥に向かってゆっくりと歩く。手前の方の牢屋には誰も収監されていなかった。

「おい、誰かいないのか?」

見張りがいる様子もないので、ジークが声を出して誰かいないか探し回った。
すると、その声に反応する者たちがいた。

「だ、誰じゃ!? 誰かそこにおるのか!?」

「た、助けか!?」

声のする、奥の方の牢屋へ向かう。
そこには衛兵らしき男たちと、典型的な王様のような格好をしたおっさんがいた。

「ジーク、王様ってこいつか?」

「たぶんな。あんた、名前は?」

「儂はソリド王国第38代目国王、クステ・アル・ソリドじゃ。お主らは、もしやキルヴァンスが呼びに行った……?」

「キルヴァンス? 誰だそれ」

「今朝、ギルドに来たおっさんのことじゃないか?」

「ああ、あいつか。っていうか、王宮ってのはおっさんしかいないのか? もっと可愛い子に会いたいんだが」

「はいはいそういうのは後でいいから。お初にお目にかかる、ソリド国王。俺たちはギルド フェアリー・ガーデンのケージとジークだ。あんたの部下?の依頼で参上した」

ジークがそう言うと、国王は待ち侘びていたかのような心底ホッとしたような顔をした。

「おお、来てくれたか……。本当に済まなかった、そしてどうか儂の娘を、ルルカを助けてくれ」

相変わらず話のテンポ早いなおい。まあ分かりやすくていいんだが。

「その姫さんって可愛いか?」

「おいケージ何浮気しようとしてるんだ」

「しねぇよアホ」

「で? そのルルカ姫ってのは何処に?」

「お、おそらく4階の玉座の間じゃ。レオルの奴は、儂らが要求に応じないからと無理矢理ルルカと婚姻の儀を執り行おうとしておる。頼む、ルルカもそんなことは望んでおらぬ。助けてくれた暁には、必ず多大な報酬を……」

「いや、そんなのいらないんで。4階だな、行こうケージ」

「へいへい」

城の中に全然人がいなかったのはそのせいか……。ってことはまあこいつらはこのままにしておいても大丈夫だろうな。にしても、無理矢理結婚して国奪りとかやってることがまんまケルートじゃねえか……。俺の中の獣人のカーストがどんどん落ちていくんだが……。

牢屋を後にして、足早に4階に向かう2人。

「で、どうやってぶっ潰すんだ?」

「さあ、どうしようか。出来れば思いっきりレオルとかいう奴に恥かかせたいな」

「お、意見が合ったな。じゃあプランDで行こう」

「プランD?」

「ああ。ごにょごにょ……」

他に人がいるわけでもないが、小声で耳打ちするケイジ。
どうやってやるかは分からない方が面白いだろ?

「……ぶはっ!! そ、それは最高だな!!」

「だろ? じゃあ手筈通りに頼む」

「おう、任せろ」

そう言って、4階に達したところで2人は二手に別れた。ケイジはそのまま結婚式が行われているらしき玉座の間へ、ジークは1つ上の階へ。
さあ、ショータイムだぜ。


間。


「ーーーよって、この婚姻を持ってソリド王国は正式にレオル王国の傘下に下るものとしてーーーー」

豪勢に装飾された玉座の前では、これまた偉そうな格好をした獣の爺さんが長ったらしく文章を読み上げていた。
その眼前には1組の男女。いや、どちらかというと美女と野獣そのものなのだが。一方は、ルルカ姫であろう綺麗な女の子。歳は恐らく20歳前後、もしかすると未成年の可能性すらあるような見た目だった。対照的に、その隣、本来はソリド国王のものであるはずの玉座に腰掛けるのは屈強な獣人、レオル国王だった。ライオンの獣人であろうその風貌はまさに野生の戦士そのもの。だが正直年齢はさっぱり分からない。だってまんまケモノなんだもん。だもん。

「ーー以上、この場における2人の婚約の条件とする。それでは、誓いの儀に移ります」

ようやく爺さんの独り言が終わり、手下の奴らが指輪を持って来た。

「これでようやくこの国も、そしてルルカ、お前も俺のものになる」

「うぅ……卑怯者……!」

「まあそう言うな。言う通りにすれば、この国の連中もお前の父親も助けてやる。だから、分かってるよなぁ?」

レオルの顔がルルカ姫の口元に近づいていく。だが、人質を取られているせいか、ルルカ姫は逃げることができないようだった。

さて、そろそろだ。おう、待たせたな。今からあのヤリチン王子に恥かかせてやるぜ。ジークも準備出来たみたいだしな。

柱の陰から狙いを定め、魔力を充填する。
そして。

「瞬転移」

パッと、ケイジの体がルルカ姫とレオルの間に割り込んだ。

「なっ……!?」

その場にいる、レオルを含めたほとんどが状況を理解出来ていないようだった。

「バウンド!! と、タバスコ爆弾!!」

「ひゃあっ!?」

ダン、と魔力を込めてその場を踏み鳴らすと、ルルカ姫の体はトランポリンに乗ったかのようにポーンと浮かび上がった。そして、天井にぶつかったかと思いきやそのまま天井に吸い込まれていった。
もちろん、計画通りだ。あの上にはジークがいる。あそこの天井を魔法で通過出来るようにしてもらったんだ。で、これがとっておきだ。

ケイジの右手にある赤い水風船。中身はもちろん大量のタバスコソースだ。それを、惜しげも無くレオルの顔面にバーン。正直見てるだけでめちゃくちゃ痛辛い。

「グオアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「ぶははははははははっ!! よっしゃ、撤収!!」

「クソ、逃すな、追ええええええ!」

家臣の1人の言葉に、その場にいた沢山の兵士たちがケイジを追いかけ始める。

「ははは、捕まるかバーカ!」

いやあ、想像以上に上手くいったな。やった俺が言うのもなんだが、あれ痛かっただろうなぁ。思い返すだけで笑いが止まらないぜ。

ここからどうするのかって? 
そりゃまあ、このまま帰るつもりはないぞ。あのアホどもをフルボッコにしなきゃ終わらないからな。

一旦玉座の間を出たケイジは、そのまま窓のある外側の廊下に向かった。
そして、そのまま窓から飛び出した。

「なっ、何をしてるんだあいつは!?」

驚愕する兵士たちを無視して、ケイジは壁を上っていった。そう、ここに入り込む時にジークが使った魔法を参考にしている。そして、そのまま1つ上の階層の窓から中に入った。

「お、来たか」

そこには脱出の準備を終えたジークと、ビックリしたような顔のルルカ姫がいた。
ピンク色の綺麗なドレスに肩まで伸びたツヤツヤした茶髪。文句無しの美人に属するような女の子だった。

「どうだあれ。最高じゃないか?」

「想像もしたくないなあれは……数日は顔面腫れっぱなしだろ?」

「だろうな。ああ、マジで笑いが止まんねー」

そんな話をしていると、階段の方から獣人たちの声が聞こえて来た。

「おっと、もう来やがったか。じゃ、とっとと逃げますか」

「あ、あの、あなたたちは……?」

そこで初めて、ルルカが口を開いた。まだ現状が把握できず怯えているようだった。

「まあそれは後でゆっくりと。とりあえず今は逃げますよ~」

「え、ちょ、ちょっと待ってください!? ここ4階ですよ!?」

自分を抱えて窓に足をかけるケージに、ルルカは慌てて言った。

「大丈夫ですって。ほら、行きますよー!!」

「キャアアアアアアアアア!!」

ジークとルルカを抱えたケイジは、バッと外へ飛び出した。
そして。

「ジーク、頼む」

「任せろ。ミニストーム!」

ジークが叫ぶと、ちょうど3人の着地点に小さな竜巻が発生した。ジークとケイジはそれを上手く利用して、地面に降り立った。場所はちょうど城の前の広場。戦うにはうってつけの場所だった。
ああ、やっぱり真っ昼間よりこのくらい暗くなってきた方が気分出るなぁ。殺し屋の性分かね。

「さて、やりますかね」

「了解。じゃあまずは姫さんを離れさせるからしばらく1人で遊んでてくれ」

「へいへい。早くしろよ」

「出来るだけな」

そう言い残し、ジークはルルカを抱えて走り去った。
うん、あいつ絶対戻ってくるの遅い。

「貴様ぁ……!!」

「お、なんだもう拭き取って……あははははっ!! お前顔真っ赤じゃねえか!!」

ケイジの目の前には、沢山の兵士たちと怒り狂ったレオルが立っていた。その顔は街灯の明かりだけでもはっきり見えるほど腫れている。そしてその右手には大きな戦斧。

さーて、お待ちかねの無双タイムだぜ。思いっきりやってやるか!! 

一斉に獣人たちがケイジに襲いかかり、戦闘が始まった。
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