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第6章・社畜生活は終わらない

第38話・トラブルは続く

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まったく……。何だって昼間っからこんな状況に……。

何がって? 
いや今な、知らないヒューマンのおっさんが目の前であーだこーだ喋ってるんだよ。むさ苦しい。俺とジークに依頼があって来たらしいんだが、断ろうみたいなそぶり見せるたびに泣きついて来てな……。そういうのは可愛い女の子しか使えないってわかってくれ……。
ああ、詳しいことは話すのめんどいし回想しようか。



30分前。時刻は午前10時。
カウンターにはケイジとジーク、それとレニカ。ガルシュとメルは仕事に出かけ、テリシアとミルはギルドの仕事に追われていた。
そんな時。入口の方で騒ぐ声が聞こえた。

「おい! 勝手に入るなお前!」

「うるせえ! あいつら、あいつらはどこだ!?」

ギルドメンバー達に取り押さえられながらも、喚き散らす男。見た所、ヒューマンのようだった。

「なんだあいつ。誰だ?」

「あいつ、ヒューマンか?」

飲み物を口に運びながらケイジとジークが男をしげしげと見つめる。
何やってんだろうなあのおっさん。結構豪華な服着てるし、1人でユリーディアに来るような人間には見えないが。

「仕方ない、私が行こう」

そう言って、レニカが席を立った。

「行くか?」

「めんどくせ」

すぐに後に続くジークと、渋りつつも同じく続くケイジ。取り押さえられた男に近付く。

「みんな、ありがとう。おいヒューマン、私はギルドマスターのレニカだ。こんな時にわざわざ何をしに来たんだ?」

仲間達に柔らかく言った後、一変して威圧的に話しかけるレニカ。
そりゃあそうか。まだ復興作業も完了してないのに、本当に何しに来たって話だもんな。

「ああ、あんたがマスターか。頼む、聞いてくれ。俺はあんた達に危害を加えたりしない。って言うよりそんなことしようと思っても俺じゃ無理だ」

「余計な前置きはいいからさっさと本題を話せ。何か切羽詰った事情があるのだろうが、お前達など顔も見たくないと言う仲間もいるんだ」

「すまない。簡潔に言う、異界から来たヒューマン2人はいないか? 話がしたいんだ」

「何だと……?」

瞬間、レニカの目つきが一層鋭くなる。それはそうだ、先の戦闘もユリーディアの制圧が1番の目的だったにしても、その為にケイジとジークを排除しようとしたのだから。

「貴様、自分が何を言ってるのか分かっているのか?」

「ひっ……。た、頼む、聞いてくれ。俺はただ、彼等に依頼をしに来ただけなんだ」

苛立つレニカに、男はかなり怯えていた。
まあ、そういうのに慣れてなきゃアレはビビるわな。

「依頼、だと? 何だ、また身柄を渡せとでも言う気か?」

「違うんだ! 詳しいことは話せないが、信じてくれて、頼む!」

男は地面に頭を擦り付け、懇願した。

「都合のいいことを……」

だが、レニカは受け入れない。流石に、大切な街と仲間達を傷付けられた直後では冷静ではいられないようだった。
ケイジとジークはメンバー達の後ろにいる為、男は気付かない。
だが。

「行くか、ケージ」

「げ、マジかよ」

「行かなきゃあの男、下手したら殺されるぞ」

「どうでもいいだろあんな奴……」

やれやれ、ジークのやつ変わりすぎだ。前だったらあんな奴放っておいただろうに。
と、その時。

「どうでもよくないよー!!」

ブエルが飛び出し、ケイジの背中に引っ付いた。

「ぬああ鬱陶しい! 何だエル、何しに来た」

「ダメだよご主人、私と契約した時に言った事忘れたの?」

契約した時に言った事?
何だ、何言ったんだっけ……。
確か、『言い忘れてたけど私が傷を治したらこれからずっと困ってる人を助けなきゃならないんだけどさ。別にいいよね?』って……。ああ、確かにこんなこと言ってたな。

「いや覚えてるが、それが何だ?」

「困ってる人」

そう言ってブエルはレニカの前で縮こまる男を指差した。

「……マジ?」

「マジ。これはご主人相手でも譲れない」

はあ……。こりゃあとりあえず話を聞かなきゃダメそうだ。普段あんなに適当なエルが俺相手でも引き下がらないんじゃ、言い合っても無駄だ。

「分かった、行けばいいんだろ」

「さっすがご主人わかってるぅ!!」

「ふっ、相変わらず尻に敷かれてるな」

「うっせ」

ジークと共にメンバー達の隙間から人だかりの中心に向かう。

「よっと。悪い、通してくれ」

「ぬおお、暑苦しい」

何とか隙間を通って男とレニカのいる場所へ。
うお、レニカさんめっちゃ怒ってる。

「お、お前達!? どうして来てしまったんだ!?」

「あ、あんたらが!?」

2人とも同じくらい驚く。

「レニカさん、ここは俺たちに任せてください。とりあえず話だけは聞いてみます」

「……分かった。だが、何かあったらすぐに呼ぶんだぞ」

「はい、分かってます」

レニカとジークの言葉で、メンバー達は各々散って行った。

「……で、俺たちに何の用だ?」

「ああ、あんたらに依頼があって……。引き受けてもらえないか?」

「まずは依頼内容を言え。基本だろうが」

「す、すまない。あんた達2人に、姫様と王様を助けて欲しいんだ」

「姫様と王様? この国のか?」

形式上は、このユリーディアの街も王都を中心とするソリド王国の一部ということになっている。そのため、先の戦闘も内紛という形になる。

「そうだ。今、街の中心、城の近くはレオル王国の奴らに占拠されちまってる。姫様も王様も牢獄の中だ。この前の戦闘も、奴らのせいで始まっちまって、仕方無かったんだよ」

「レオル王国……?」

新たな国の名前に訝しげな顔をするジーク。そして、その後で黙っていたケージが口を開いた。

「仕方無かった……?」

「あ、ああ。あれは仕方無く……」

「おい、舐めた口聞くのもいい加減にしろよテメェ」

の殺意を込めた、低い口調で言うケイジ。
こいつ、ふざけたこと言いやがって。あれだけ好き勝手やっておいて、終わった後で仕方無かっただと?

「ひっ……」

「ケージ、落ち着け。俺に任せろ」

「ちっ……」

苛立ちを抑え、再びジークの後ろに回る。
煽るのは得意だが話し合うのはイマイチ。俺の悪いところだな。

「で? 助け出せばいいんだな?」

「ひ、引き受けて貰えるのか!?」

「引き受けなきゃ帰らないだろお前……」

「す、済まない……。何とかしてあんたらに依頼書を届けるのが俺の最後の仕事だったんだ……」

下を俯いて男が言った。

「最後?」

「ああ。もう、生き残ってる隊は殆どいない。レオル王国の奴らに俺の仲間達も殺されちまったから……。だから、これを届ければ俺の仕事は終わりだ」

「何だ、結局俺達に依頼しても無駄だと思ってるのか?」

ジークが嘲笑気味に言う。

「い、いやそんな事は……」

「まあいい。暫くすれば全部元通りになるから覚悟しとけ」



はい回想終わり。
話の流れはこんな感じだ。結局ジークがほとんど話を進めて、依頼を受けることになっちまった。やれやれ、せっかくゆっくり出来ると思ったのに……。
で、今は依頼内容を色々と聞かされてる訳だ。本当に独断で引き受けて良かったのか……。

依頼内容の重要点は頭に入れつつ、ため息をつかずにはいられないケイジなのであった。
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