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第5章・防衛戦
第30話・開戦
しおりを挟む王都からケイジとジークの身柄を引き渡せという手紙が届いてから約2時間が経った。
検問所の近くでは、未だに軍とハンター達の睨み合いが続いている。ケイジとジークも、戦闘になったとしても、極力参加しないという条件のもと、少し離れた場所から軍の様子を伺っていた。
「ジーク、あれ、どう思う?」
双眼鏡を渡し、尋ねるケイジ。
ジークは双眼鏡で様子を見ながら、ため息をついた。
「お前の予想通りだろうな。仮に俺たちが投降しても間違いなく攻めて来るだろう」
「だよなぁ……。完全武装して何言ってるんだって話だよまったく……」
同じようにため息をつき、双眼鏡を受け取る。
本当に、この世界の人間はワルモノだなぁ……。つくづく人間ってのは腐った生き物だと思う。
何故、共存する事ができないのだろうか。
何故、力で支配しようとするのだろうか。
他の種族はみな、互いに協力しあって生きているというのに……。
明らかに争わんとしている軍を監視しながら憂鬱な気分になる2人。
奴らは今日中に俺たちの身柄を引き渡せと言っていたが……。
そして、ようやく動きがあった。
1人の男が、ハンター達のいる近くに歩いてきた。
「……念のため聞いておく。貴様ら、異界の人間を我々に引き渡す気はあるんだろうな?」
あからさまに多種族を見下したような、嫌みたらしい口調で男は言った。距離が離れすぎていてケイジ達には聞こえない。
そして、その質問には奴が答えた。
「あるわけねえだろ。2人は俺たちの仲間だ」
ガルシュだった。
いつものおちゃらけた雰囲気はまったく見えず、ピリピリと気を巡らせているのが分かる。
「……やれやれ。まあいい、どうせすぐに意味も無くなる」
男は面倒臭そうにそう吐き捨てた。
「何だ、何話したんだ……?」
再び陣営に戻っていく男を双眼鏡で見ながら、ケイジが呟く。
「……ケイジ、動きがあるぞ」
後ろでジークが言う。
つまり、双眼鏡を使わなくても見えるほどの動き。詳しく言えば、何かを荷車で運んでいるような砂煙が壁の向こうのあちこちから見える。
「何する気だ……?」
何かを運んでいる。
それは確かだが、そこから先がまったく予想出来なかった。
「……嫌な予感がする。ガルシュ達をもう少し下がらせたほうがいいんじゃ無いか?」
「ああ、俺もそう思う。行くぞ」
共に謎の不安に駆られ、ガルシュ達の元へ向かおうとした時。
ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
とてつもない轟音が耳を震わせた。
とてつもない振動が地面を揺らした。
とてつもない砂煙が壁の周囲を覆った。
「クソッ!!」
何があったか、まだ把握していない。
だが、2人の熟練の暗殺者は、これが間違いなく自分たちにとって悪い影響をもたらすものだと直感的に理解した。だから、少しでも早く仲間達の元へ向かおうと走っていた。
幸いにも、今日はそれなりに風が吹いていた。そのおかげで、砂煙は5分もしないうちに晴れた。
「……はあ、こりゃあ予想の斜め上だなぁ」
「全くだ……。普通思いついてもやらないだろこんな事……」
目の前の光景に愕然としつつも、自身の武器に手をかける2人。
その光景とは。
検問所は跡形もなく吹き飛び、ゲートは大きく広がっている。他にも、今の爆発で広範囲で壁に穴が空き、ひどい場所は壁ごと崩れ落ちているような有様だった。そして、その穴の向こうには戦う気満々の軍隊が並んでいる。
これが、奴らの策。そして宣言。
もう後戻りはしない。
徹底的にこの街を制圧する。
そういう宣戦布告だった。
「バカなケモノどもめ。行け、貴様等! 速やかに街を制圧! 邪魔するものは殺せ!」
さっき喋っていた男が馬上からそう命令する。向かって来る兵士達に、ケイジ達は武器を構える。
「殺せえええええええええっ!!」
次の瞬間。
血走った目で突っ込んで来る兵士を、彼等が吹っ飛ばした。
「オラアアアア!! ハンター舐めんなコラアアアア!!」
そう叫んだのはガルシュ、そして睨み合いをしていたハンター達だ。汚れていたり、擦り傷が付いている者もいるが、殆どが戦線に復帰して兵士たちの進路に割り込んだ。
始まった。
ここだけではなく、各地の穴が空いた場所で戦闘が始まったようだ。砂煙が見え、乱戦の声が聞こえる。
「さーて、じゃあ俺等もやりますか」
ジークや後ろの仲間達に声をかける。
「極力参加しないんじゃなかったのか?」
「極力、だろ? 絶対じゃない。今回は仕方ない」
「ふっ、そうだな。じゃあ、行くか」
仕方ない、と言った風に笑うジーク。
行くか、ケイジがそう言うとジークは屋根の上に向かった。
今も、あいつの役割は狙撃だ。俺と違って、弾は十分に持ってきたらしい。
そうして、後に歴史に刻まれるほどの大きな変化をもたらすことになる、その出来事のキッカケとなるユリーディア防衛戦が始まった。
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