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第4章・30歳にならなくても魔法使いになれる

第26話・社交性?

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時刻は午前12時。
昼時ということもあり、ギルドの中は日で1回目の賑わいを始めた。いつもの受付近くのカウンター席に座る3人と、カウンターの中にいる2人。

「あはは、そりゃあ災難だったね、テリシア」

「ほんとですよ!! もう、せっかくおしゃれして来たのに……」

「わ、悪かったって……」

可愛らしく憤慨するテリシアを必死になだめるケイジ。そんな2人を見るジークが、不思議そうにメルに尋ねる。

「なあ、メルちゃん。あの2人って、どうやってあんなに仲良くなったんだ?」

「ああ、その事ね。なんでもケージさんがこの世界に来た初日のことなんだけどさ。ケージさんが色々聞くためにテリシアの家に行ったんだって」

「ほうほう」

「それで、話が終わってケージさんが帰った後。このギルドにいた、ケルートっていうテリシアのストーカーみたいなやつがさ、テリシアの家に押し入って乱暴したらしいのよ。で、それを助けたのがケージさん」

「へえ、ケージが」

「テリシアも結構傷ついたみたいだったんだけどさ、今の2人を見てれば大丈夫だって分かるよね」

すぐ隣でなんだかんだ楽しそうに話す2人を見てそう言うメル。その目は嬉しそうで、何処か寂しそうだった。

「なるほどな……。やっぱり、変わったんだな」

向こうにいた時、ケイジがどんな人間だったのか。ケイジ本人が語らない限り、知っているのはジークだけだ。だからこそ、思うところもあるのだろう。

「あ、そうそう。ソウさんからなんか届いてたよ、ケージさんとジークさん宛てに」

そうそうソウって。いややめておこう。

ミルさんはそう言って紙袋に入った本を持って来た。送り主はソウ、表紙には魔法の心得、と大きく書いてある。

「あざっす。マメったいな、あの人も」

パラパラと、本をめくる。しばらく読んで、内容を要約するとこんな感じだ。

まず、魔法は誰もが使える力では無いので、決して私利私欲の為に、そして人を傷つける為に使うことがないようにすること。
毎日の鍛錬を怠らず、自由自在に操れるようにすること。
魔力を増幅させる鍛錬と魔力をコントロールする鍛錬はまるで違うので、それぞれの特性を理解し、バランスよく行うこと。
個人個人で属性ごとの得意不得意がある。しっかりと見極め、得意属性を伸ばし苦手属性を克服すること。
何か困ったことがあったら訓練所に来るように。

とのことだ。他にも細かいことが色々書かれていて、参考になりそうだった。

「これはありがたいな。また今度礼を言いに行くか」

「だな。あ、そう言えば」

あることを思い出した。
いや、大したことじゃないんだがな。

「ジーク、お前住むところとかはどうするんだ?」

「…………」

返事をする様子もなく酒(もちろん金を払ったのはケイジ)をちびちびと飲むジーク。

ああ、やっぱり……。
帰るところがないのね、可哀想に。

え?
テリシアの家に3人で住めばいい?
絶対に嫌だね。あのポジションは俺だけのもんだ。っていうかお前ら、散々ベッドインがどうこう言ってた癖にどういう風の吹き回しだ?

ドロドロの三角関係を作りたい?
ああ、まあ、正直に白状したのはよろしい。
却下。

「じゃ、じゃあうちに住めば?」

そう言ったのはなんとメル。
ミルも驚いた顔をしている。
が、誰よりも驚いていたのは。

「え?」

いや、ジークでも俺でもなくて。

「えええええええええ!?」

そう、テリシアだ。
なんでかは知らんが、とりあえず声が大きい。また注目されてるぞ。

「つ、ついにそういう気が全くなかったメルにも春が……!!」

「違うから!! 変な言い方しないでよ!! お姉ちゃん、うちなら部屋もいっぱい余ってるしいいでしょ?」

「まあ、私は構わないけど。ジークさんはいいのかい? こんなうるさい姉妹のいる家で」

「いや、俺は全然ありがたいですけど……いいんですか?」

流石にいきなりすぎて困惑の色が隠せないジーク。テリシアは相変わらず目を輝かせ、メルは顔を赤くしている。立場は逆転しケイジは我関せずといった顔で酒を飲んでいる。

「いいのよ、2人じゃ広すぎる家だし。ジークさん今日用事は?何かある?」

「いや、特に無いけど……」

「じゃあうち行こ。部屋とか決めなきゃ。買い出しも手伝って」

「は、はあ……」

相変わらず勢いに翻弄され言われるがままのジーク。こんなあいつは珍しい。
そして助けを求めるような視線を送るのはやめてくれ俺には無理だ。

「じゃ、お姉ちゃん、私たち先に帰るね」

「はいよ~。夕飯の支度よろしく~」

落ち着き払った様子でそう返すミルさん。
いいのかこれで。まあ、頑張れジーク。

「ジークさんかぁ……」

テリシアは相変わらず呆けている。
なんか久々に天然の片鱗を見た気がする。

「なんなら2人も、今日は帰ってゆっくりしたらどうだい? テリシアも、今日は大丈夫そうだし無理して手伝わなくてもいいよ?」

本当は、テリシアは今日は休みだったらしいのだが、俺を待つ為にギルドに来ていたそうだ。健気すぎる。

「あ~、だったらお言葉に甘えて。ケージさん、行きませんか?」

ん、今日か?
もう、特にやることは無いな。
このまま帰って、ゆったり過ごすのもありかもしれない。っていうか、ジークの方は気にならないのか?

ならないか。そうですか。
まあ、なるようになるだろ。

「そうだな、じゃあ帰ろうか」

自分で言ったその一言に、胸が暖まるのを感じた。
帰る場所がある事、共に帰る、共に過ごす人がいる事。それが今まで人との関わりを避けていたケイジの心を潤していったのだった。

「じゃあ、お先に失礼します」

テリシアと同じように、ミルさんに軽く会釈をしてギルドを出た。

「ケージさん、手、繋いでもいいですか?」

そうテリシアが聞いてきた。
隣を振り向くが、あまり恥ずかしそうな顔はしていなかった。むしろ、返事を聞く前から答えは分かっているかのような笑みを浮かべていた。

「……ああ、もちろん」

優しくテリシアの手を握るケージ。
側から見ればお似合いのカップルだろう。
だが、ケイジが答えを出し、2人の関係が進むのはまだまだ先の話。
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