上 下
28 / 114
第4章・30歳にならなくても魔法使いになれる

第26話・社交性?

しおりを挟む

時刻は午前12時。
昼時ということもあり、ギルドの中は日で1回目の賑わいを始めた。いつもの受付近くのカウンター席に座る3人と、カウンターの中にいる2人。

「あはは、そりゃあ災難だったね、テリシア」

「ほんとですよ!! もう、せっかくおしゃれして来たのに……」

「わ、悪かったって……」

可愛らしく憤慨するテリシアを必死になだめるケイジ。そんな2人を見るジークが、不思議そうにメルに尋ねる。

「なあ、メルちゃん。あの2人って、どうやってあんなに仲良くなったんだ?」

「ああ、その事ね。なんでもケージさんがこの世界に来た初日のことなんだけどさ。ケージさんが色々聞くためにテリシアの家に行ったんだって」

「ほうほう」

「それで、話が終わってケージさんが帰った後。このギルドにいた、ケルートっていうテリシアのストーカーみたいなやつがさ、テリシアの家に押し入って乱暴したらしいのよ。で、それを助けたのがケージさん」

「へえ、ケージが」

「テリシアも結構傷ついたみたいだったんだけどさ、今の2人を見てれば大丈夫だって分かるよね」

すぐ隣でなんだかんだ楽しそうに話す2人を見てそう言うメル。その目は嬉しそうで、何処か寂しそうだった。

「なるほどな……。やっぱり、変わったんだな」

向こうにいた時、ケイジがどんな人間だったのか。ケイジ本人が語らない限り、知っているのはジークだけだ。だからこそ、思うところもあるのだろう。

「あ、そうそう。ソウさんからなんか届いてたよ、ケージさんとジークさん宛てに」

そうそうソウって。いややめておこう。

ミルさんはそう言って紙袋に入った本を持って来た。送り主はソウ、表紙には魔法の心得、と大きく書いてある。

「あざっす。マメったいな、あの人も」

パラパラと、本をめくる。しばらく読んで、内容を要約するとこんな感じだ。

まず、魔法は誰もが使える力では無いので、決して私利私欲の為に、そして人を傷つける為に使うことがないようにすること。
毎日の鍛錬を怠らず、自由自在に操れるようにすること。
魔力を増幅させる鍛錬と魔力をコントロールする鍛錬はまるで違うので、それぞれの特性を理解し、バランスよく行うこと。
個人個人で属性ごとの得意不得意がある。しっかりと見極め、得意属性を伸ばし苦手属性を克服すること。
何か困ったことがあったら訓練所に来るように。

とのことだ。他にも細かいことが色々書かれていて、参考になりそうだった。

「これはありがたいな。また今度礼を言いに行くか」

「だな。あ、そう言えば」

あることを思い出した。
いや、大したことじゃないんだがな。

「ジーク、お前住むところとかはどうするんだ?」

「…………」

返事をする様子もなく酒(もちろん金を払ったのはケイジ)をちびちびと飲むジーク。

ああ、やっぱり……。
帰るところがないのね、可哀想に。

え?
テリシアの家に3人で住めばいい?
絶対に嫌だね。あのポジションは俺だけのもんだ。っていうかお前ら、散々ベッドインがどうこう言ってた癖にどういう風の吹き回しだ?

ドロドロの三角関係を作りたい?
ああ、まあ、正直に白状したのはよろしい。
却下。

「じゃ、じゃあうちに住めば?」

そう言ったのはなんとメル。
ミルも驚いた顔をしている。
が、誰よりも驚いていたのは。

「え?」

いや、ジークでも俺でもなくて。

「えええええええええ!?」

そう、テリシアだ。
なんでかは知らんが、とりあえず声が大きい。また注目されてるぞ。

「つ、ついにそういう気が全くなかったメルにも春が……!!」

「違うから!! 変な言い方しないでよ!! お姉ちゃん、うちなら部屋もいっぱい余ってるしいいでしょ?」

「まあ、私は構わないけど。ジークさんはいいのかい? こんなうるさい姉妹のいる家で」

「いや、俺は全然ありがたいですけど……いいんですか?」

流石にいきなりすぎて困惑の色が隠せないジーク。テリシアは相変わらず目を輝かせ、メルは顔を赤くしている。立場は逆転しケイジは我関せずといった顔で酒を飲んでいる。

「いいのよ、2人じゃ広すぎる家だし。ジークさん今日用事は?何かある?」

「いや、特に無いけど……」

「じゃあうち行こ。部屋とか決めなきゃ。買い出しも手伝って」

「は、はあ……」

相変わらず勢いに翻弄され言われるがままのジーク。こんなあいつは珍しい。
そして助けを求めるような視線を送るのはやめてくれ俺には無理だ。

「じゃ、お姉ちゃん、私たち先に帰るね」

「はいよ~。夕飯の支度よろしく~」

落ち着き払った様子でそう返すミルさん。
いいのかこれで。まあ、頑張れジーク。

「ジークさんかぁ……」

テリシアは相変わらず呆けている。
なんか久々に天然の片鱗を見た気がする。

「なんなら2人も、今日は帰ってゆっくりしたらどうだい? テリシアも、今日は大丈夫そうだし無理して手伝わなくてもいいよ?」

本当は、テリシアは今日は休みだったらしいのだが、俺を待つ為にギルドに来ていたそうだ。健気すぎる。

「あ~、だったらお言葉に甘えて。ケージさん、行きませんか?」

ん、今日か?
もう、特にやることは無いな。
このまま帰って、ゆったり過ごすのもありかもしれない。っていうか、ジークの方は気にならないのか?

ならないか。そうですか。
まあ、なるようになるだろ。

「そうだな、じゃあ帰ろうか」

自分で言ったその一言に、胸が暖まるのを感じた。
帰る場所がある事、共に帰る、共に過ごす人がいる事。それが今まで人との関わりを避けていたケイジの心を潤していったのだった。

「じゃあ、お先に失礼します」

テリシアと同じように、ミルさんに軽く会釈をしてギルドを出た。

「ケージさん、手、繋いでもいいですか?」

そうテリシアが聞いてきた。
隣を振り向くが、あまり恥ずかしそうな顔はしていなかった。むしろ、返事を聞く前から答えは分かっているかのような笑みを浮かべていた。

「……ああ、もちろん」

優しくテリシアの手を握るケージ。
側から見ればお似合いのカップルだろう。
だが、ケイジが答えを出し、2人の関係が進むのはまだまだ先の話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。 子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。 マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。 その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。 当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。 そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。 マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。 焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。 やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。 HOTランキング1位になることができました! 皆さま、ありがとうございます。 他社の投稿サイトにも掲載しています。

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...