上 下
26 / 114
第3章・獣っ子は正義

第24話・女の戦いほど怖いものって無いよね

しおりを挟む

まだ早朝に分類されるであろう時間から賑わうギルド。この世界に来てまだ1週間ほどだがとても居心地のいいこの場所に、再会した友人と足を踏み入れる。
そしてその足は大切な彼女の元へ。

「おはよう、ただいま」

思いを告げた相手であるケイジの帰還の声を受け取るのは、綺麗な金髪をなびかせて穏やかな笑顔で佇む彼女。

「おかえりなさい、ケージさん」

まるで映画のワンシーンのようだった。
少し後ろにいたクルーガーも意外そうな表情で見守っている。

「今日はちゃんと起きれたんだな、テリシア……って、どうした?」

カウンターから出て来たテリシアは、穏やかな笑顔のまま大好きな彼の体に抱きついた。

「何でもありません。無事でよかったです」

え?もうこのままベッドインしろ?
いやいや、ここギルドだぞ?
お前らも結構無茶言うよな。

はは、クルーガーのやつ、顔が固まってるぞ。ま、そりゃそうか。

「お、おいブラック。その子は?」

「テリシア・シェリスです。このギルドで受付などのお仕事をしています」

「俺がこの世界に来た時、って言ってもまだ1週間くらいしか経ってないんだけどな。色々と助けてもらったんだ」

「た、助けてもらっただけでそんな密接に……?」

そんな驚いた目で見なくても……。
そんなに女性経験なさそうに見えるのか、俺。

え?
ああ、まあ実際DTだけどさ?
もう俺20歳過ぎてるんだぞ?
そんなウブに見えるか?
……いや、今の発言は墓穴掘っただけな気がするから取り消すわ。

「い、色々あったんだよ」

目をそらして誤魔化す。

「ケージさん、その人は?」

「ああ、クルーガーだ。よろしくテリシア」

「俺の元同業者だ。向こうにいた時の」

あの、テリシアさんそろそろ離れていいんじゃないですか?
さすがにギルドん中からの視線が痛い。

「へえ~。よろしくお願いします、クルーガーさん」

「ジークでいい。ブラックも、そう呼んでくれ」

「ジークって、本名か?」

「ああ。ケージってのも、ブラックの本名だろ?」

「そうだ。ジーク、か。なんか違和感あるな」

他愛ない会話に笑う3人。そしてようやく離れるテリシア。さっきからジークの顔に浮かぶニヤニヤがウザい。

そんな時。
再び彼女がギルドを訪れた。

「邪魔するぞ。ケージはいるか?」

ああ、クロメ姫だ。
側にはハクもいる。

「ん、どうしたんだい朝から。あ、ケージさん。おかえり」

「あ、ただいまっす」

出発前とは打って変わって普段通りの表情のミルさん。

「ケージ、呼ばれてるぞ?」

「おう。クロメ姫、ここにいますよ」

キョロキョロとギルドの中を見回すクロメに応える。こちらに気付いた途端、ずんずんと近付いてくる。
何の用だろうか、報酬でもくれるのかとケイジが考えているその時。

「酷いではないかケージ! 妾を置いて居なくなってしまうとは!」

人目もはばからずクロメが抱きついて来た。

ふおおおおおおおおおおおお!?
何やってんだこの狐っ子はああああああああああ!?

「…………」

状況を把握出来てないミルさんとは別に、ジークとテリシアからの冷ややかな視線が突き刺さる。

やめてあげて!!
もうケイジのライフはゼロよ!!

「何やってんですかクロメ姫!?」

肩を掴んで引き剥がす。
……柔らかかった。

って、お前らまで!?
いや、だってしょうがないじゃんか!?
クロメ姫、テリシアよりおっきいから……。
だあああ、悪かった!! 俺が悪かった!!

「あん、そんなに邪険にするでない、我が夫よ」

その一言を発した途端、静まり返るギルド。
俺、たぶん人を黙らせる才能があると思う。

……夫?
何言ってるのこの子?
ハクが帰って来て嬉し過ぎて頭ヒットしちゃったのか?

「ケージさん、どういう事ですかぁ?詳しく聞きたいですぅ」

テテテテテテリシア!?
顔が般若はんにゃみたいになってるんだけど!?

「待て待て待てテリシア、誤解だ!! ちょ、クロメ姫どういう事ですか!?」

やめてくれマジで俺を殺す気か!?

「ハクを救い出してくれた事、心より感謝しておる。報酬は用意済みじゃ。そして、ケージのような勇ましい男には、是非とも妾の夫として和国を統べる王となって欲しいのじゃ!!」

「………」

欲しいのじゃ!! じゃねえよこのド天然狐!!
何考えてんだマジで!!
普通、頼みごと1つ達成したからって王になんかしないだろ!?

「にーに、来てくれないの……?」

涙目でケイジを見つめるハク。
尻尾は残念そうに垂れている。

ぐっ!!
そ、それは卑怯だろ!!
そんな顔されたら断りにく過ぎる!!

「安心して構わぬ。妾達と共に来れば、家も食事も潤沢にあるし、妾の体も好きにしていいんじゃぞ?」

着物の胸元をチラッと見せて、ゆらりと尻尾を動かすクロメ。
お前、それは卑怯だろ……!!

って、何だ?
もう行っちまえって?
おい!! 正気に戻れお前ら!!
お前らはテリシア一筋だろ!?
クソ、クロメめ、こいつらを誘惑するとはやるじゃないか……!!

「納得出来ませんね。そんな勝手にケージさんを連れて行こうとしないでください」

テリシア乱入。
目が怖い。

「ふん。そうしていつまでも正妻ポジを維持出来ると思うな」

「そちらこそ、カラダだけでケージさんをモノにできるなんて思わないほうが身のためですよ?」

「なっ……!! うるさいわこのCカップが!!」

「はっ……!? よ、余計なお世話です!! 大きさじゃありませんので!!」

女の戦いってこええ~……。

「むうう……。ケージ、妾は決めたぞ!!」

「な、何をですか?」

「妾はしばらくこの街に滞在する!! ケージを妾のモノにするまでな!!」

……この人、本当に一国の姫さんだよな。
いいのかよそれで……。

「という訳じゃ。帰るぞハク」

ああ、完全に置いてけぼりだったなこの子。

「うん。あ、にーに。また遊びに来ていい?」

「お、おう。いいぞ」

「やったあ!! じゃ、またね!!」

や、やっと帰った……。

え?嬉しそう?
……まあ、疲れたけど嫌ではない、かな。
人から好意を向けられるのはやっぱり悪い気はしないからな。

「ケージさん……。にーにって、一体何をしてきたんですか……?」

テリシア、目が怖いんだってだから!!

「いやあ、ドロドロだねえ」

「ですねぇ。頑張れケージ」

その後、誤解を解くのに1時間近くかかったのはまた別のお話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界に飛ばされた警備員は持ってた装備で無双する。

いけお
ファンタジー
交通誘導の仕事中に突然異世界に飛ばされてしまった警備員、交 誘二(こう ゆうじ) 面倒臭がりな神様は誘二の着ていた装備をチート化してしまう。 元の世界に戻る為、誘二は今日も誘導灯を振るい戦っている。 この世界におけるモンスターは、位置付け的にMMOの敵の様に何度でもリポップする設定となっております。本来オークやゴブリンを率いている筈の今後登場する予定の魔族達も、人達と同じ様に日々モンスターを狩りながら生活しています。 この世界における種族とは、リポップする事の無い1度死んでしまうと2度と現れる事の出来ない者達とお考えください。

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...