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第3章・獣っ子は正義
第24話・女の戦いほど怖いものって無いよね
しおりを挟むまだ早朝に分類されるであろう時間から賑わうギルド。この世界に来てまだ1週間ほどだがとても居心地のいいこの場所に、再会した友人と足を踏み入れる。
そしてその足は大切な彼女の元へ。
「おはよう、ただいま」
思いを告げた相手であるケイジの帰還の声を受け取るのは、綺麗な金髪をなびかせて穏やかな笑顔で佇む彼女。
「おかえりなさい、ケージさん」
まるで映画のワンシーンのようだった。
少し後ろにいたクルーガーも意外そうな表情で見守っている。
「今日はちゃんと起きれたんだな、テリシア……って、どうした?」
カウンターから出て来たテリシアは、穏やかな笑顔のまま大好きな彼の体に抱きついた。
「何でもありません。無事でよかったです」
え?もうこのままベッドインしろ?
いやいや、ここギルドだぞ?
お前らも結構無茶言うよな。
はは、クルーガーのやつ、顔が固まってるぞ。ま、そりゃそうか。
「お、おいブラック。その子は?」
「テリシア・シェリスです。このギルドで受付などのお仕事をしています」
「俺がこの世界に来た時、って言ってもまだ1週間くらいしか経ってないんだけどな。色々と助けてもらったんだ」
「た、助けてもらっただけでそんな密接に……?」
そんな驚いた目で見なくても……。
そんなに女性経験なさそうに見えるのか、俺。
え?
ああ、まあ実際DTだけどさ?
もう俺20歳過ぎてるんだぞ?
そんなウブに見えるか?
……いや、今の発言は墓穴掘っただけな気がするから取り消すわ。
「い、色々あったんだよ」
目をそらして誤魔化す。
「ケージさん、その人は?」
「ああ、クルーガーだ。よろしくテリシア」
「俺の元同業者だ。向こうにいた時の」
あの、テリシアさんそろそろ離れていいんじゃないですか?
さすがにギルドん中からの視線が痛い。
「へえ~。よろしくお願いします、クルーガーさん」
「ジークでいい。ブラックも、そう呼んでくれ」
「ジークって、本名か?」
「ああ。ケージってのも、ブラックの本名だろ?」
「そうだ。ジーク、か。なんか違和感あるな」
他愛ない会話に笑う3人。そしてようやく離れるテリシア。さっきからジークの顔に浮かぶニヤニヤがウザい。
そんな時。
再び彼女がギルドを訪れた。
「邪魔するぞ。ケージはいるか?」
ああ、クロメ姫だ。
側にはハクもいる。
「ん、どうしたんだい朝から。あ、ケージさん。おかえり」
「あ、ただいまっす」
出発前とは打って変わって普段通りの表情のミルさん。
「ケージ、呼ばれてるぞ?」
「おう。クロメ姫、ここにいますよ」
キョロキョロとギルドの中を見回すクロメに応える。こちらに気付いた途端、ずんずんと近付いてくる。
何の用だろうか、報酬でもくれるのかとケイジが考えているその時。
「酷いではないかケージ! 妾を置いて居なくなってしまうとは!」
人目もはばからずクロメが抱きついて来た。
ふおおおおおおおおおおおお!?
何やってんだこの狐っ子はああああああああああ!?
「…………」
状況を把握出来てないミルさんとは別に、ジークとテリシアからの冷ややかな視線が突き刺さる。
やめてあげて!!
もうケイジのライフはゼロよ!!
「何やってんですかクロメ姫!?」
肩を掴んで引き剥がす。
……柔らかかった。
って、お前らまで!?
いや、だってしょうがないじゃんか!?
クロメ姫、テリシアよりおっきいから……。
だあああ、悪かった!! 俺が悪かった!!
「あん、そんなに邪険にするでない、我が夫よ」
その一言を発した途端、静まり返るギルド。
俺、たぶん人を黙らせる才能があると思う。
……夫?
何言ってるのこの子?
ハクが帰って来て嬉し過ぎて頭ヒットしちゃったのか?
「ケージさん、どういう事ですかぁ?詳しく聞きたいですぅ」
テテテテテテリシア!?
顔が般若みたいになってるんだけど!?
「待て待て待てテリシア、誤解だ!! ちょ、クロメ姫どういう事ですか!?」
やめてくれマジで俺を殺す気か!?
「ハクを救い出してくれた事、心より感謝しておる。報酬は用意済みじゃ。そして、ケージのような勇ましい男には、是非とも妾の夫として和国を統べる王となって欲しいのじゃ!!」
「………」
欲しいのじゃ!! じゃねえよこのド天然狐!!
何考えてんだマジで!!
普通、頼みごと1つ達成したからって王になんかしないだろ!?
「にーに、来てくれないの……?」
涙目でケイジを見つめるハク。
尻尾は残念そうに垂れている。
ぐっ!!
そ、それは卑怯だろ!!
そんな顔されたら断りにく過ぎる!!
「安心して構わぬ。妾達と共に来れば、家も食事も潤沢にあるし、妾の体も好きにしていいんじゃぞ?」
着物の胸元をチラッと見せて、ゆらりと尻尾を動かすクロメ。
お前、それは卑怯だろ……!!
って、何だ?
もう行っちまえって?
おい!! 正気に戻れお前ら!!
お前らはテリシア一筋だろ!?
クソ、クロメめ、こいつらを誘惑するとはやるじゃないか……!!
「納得出来ませんね。そんな勝手にケージさんを連れて行こうとしないでください」
テリシア乱入。
目が怖い。
「ふん。そうしていつまでも正妻ポジを維持出来ると思うな」
「そちらこそ、カラダだけでケージさんをモノにできるなんて思わないほうが身のためですよ?」
「なっ……!! うるさいわこのCカップが!!」
「はっ……!? よ、余計なお世話です!! 大きさじゃありませんので!!」
女の戦いってこええ~……。
「むうう……。ケージ、妾は決めたぞ!!」
「な、何をですか?」
「妾はしばらくこの街に滞在する!! ケージを妾のモノにするまでな!!」
……この人、本当に一国の姫さんだよな。
いいのかよそれで……。
「という訳じゃ。帰るぞハク」
ああ、完全に置いてけぼりだったなこの子。
「うん。あ、にーに。また遊びに来ていい?」
「お、おう。いいぞ」
「やったあ!! じゃ、またね!!」
や、やっと帰った……。
え?嬉しそう?
……まあ、疲れたけど嫌ではない、かな。
人から好意を向けられるのはやっぱり悪い気はしないからな。
「ケージさん……。にーにって、一体何をしてきたんですか……?」
テリシア、目が怖いんだってだから!!
「いやあ、ドロドロだねえ」
「ですねぇ。頑張れケージ」
その後、誤解を解くのに1時間近くかかったのはまた別のお話。
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