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第3章・獣っ子は正義

第23話・ドッキリやるなら妥協しちゃいけない

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「なあハク、本当にやるのか?普通に戻ればいいんじゃないのか?」

「ダメ、やりたいの!! お願いにーに!!」

やれやれ、子守も楽じゃない……。
普通に帰ればいいだろうに、遊び心ってやつだろうか。

何の話かって?
なんでもハクがな。クロメのとこに帰るのはいいんだが、普通に戻るんじゃつまらないからこっそり行って驚かせたいんだと。
あの屋敷にどうやってこっそり入れと言うんでしょうかね。まあ、側近の誰かに頼めばそれくらいは出来そうだけど。

「ほらにーに、頼まれてるんだからやってあげなよ~」

容赦無く煽ってくるクルーガー。

「この野郎……」

と、喋っているうちに屋敷の前まで来てしまった。
はあ、面倒だけどやるしかないか。

「分かったよ、特別だぞ?」

「やったあ!!」

「その代わり、俺の言う通りにするんだぞ?」

「うん!!」

嬉しそうに笑うハク。
ああ、尻尾で感情が丸わかり……。可愛いなあ……。

「じゃ、悪いがしばらく待っててくれ。さすがにあの奴隷商に雇われてた事がバレたら面倒だ」

「ああ、理解している。行ってこい」

「じゃ、しっかり掴まってろよ、ハク」

王都を出た時のようにハクを背中に背負い、ワイヤーフックを壁に引っ掛ける。屋敷の塀はたいした高さではなかった為、簡単に登る事ができた。

「よ、っと」

敷地内に潜入。
えーと、確かクロメの部屋は……。
めっちゃ奥だったんだよなあ……。
あの場所じゃあさすがにバレるかもしれない。まあ、悪いことしてるわけでもないし、行ってみるか。

そ~っと、屋敷に忍び込む。

「確か、ここを真っ直ぐ行って右だよな」

なんとかバレずに部屋まで来れた……と思ったその時。

「あっ……!?」

朝食を運んでいたあの青年が、部屋の襖を開けようとしていた。

「し~……!!」

とっさに静かにするように促す。
背中にハクを背負っているのを見て、なお驚いているようだ。

「ど、どうしたのですか、ケージ殿?」

気を遣って、小声で話す青年。
いや、俺じゃない、俺じゃないんだ……。

「ああ、細かい事は後でこの子に……」

「……。 分かりました、それではあとはお任せ致します」

普段からイタズラしてたんだろうな、この子。かっこいい彼は察したような苦笑いで下がってくれた。

「じゃ、入るぞ」

「うん」

昨日、ここに来た時と同じように、柱をノックする。

「姫様、おはようございます。朝食をお持ちしました」

何してるんだって?
見てわかるだろ、使用人のフリだよ。
どうせやるんならこのくらいやらないとな。

「いらぬ……。食欲などない……」

中から元気のない声が返ってきた。
すると。

「もー!! クロ姉、ご飯はしっかり食べなきゃダメでしょ!!」

勢いよく襖を開けてハクがそう言った。

「あ」

やっちまったぜ、といった風にこっちをみるハク。

うおおおおおおおおおおい!!
言い出しっぺが何やってんだよ!!
見ろよあのクロメの顔!!
思考が停止したような顔してんぞ!?

「ハ、ハク……?」

震える手をゆっくりと伸ばすクロメ。
そしてその手をそっとハクが取る。

「ただいま、クロ姉」

「あ、ああああ……」

やれやれ……。
ま、本人たちが良けりゃこれもいいか。
俺はお邪魔だな。

感動の再会を邪魔しないように、ケイジは静かにその場を去った。そして、玄関近くで再び彼と会った。

「あ、さっきの」

「どうも。鬼族のユウと申します」

「おお、ユウ。さっきはありがとな」

「いえ。それよりも、ハク様を助けて頂き、本当にありがとうございます。我々が無能なばかりに、姫様は日に日にお元気を無くしてしまいまして……」

申し訳なさそうに頭を下げるユウ。

「礼なんていいさ。依頼だからな」

あえて冷たく、ケイジはそう返事をして屋敷を出た。

「どうだ?上手くいったのか、にーに」

「うっせえノッポ。上手くいったわ」

外で待っていたクルーガーと軽い言葉を交わし笑い合う。

「さて、じゃ、ギルド行くか」

ん?今か?
今は午前7時だ。この時間ならみんなギルドにいるだろ。

2人はギルドに向かって、活動し始めたユリーディアの中を歩いていった。
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