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第3章・獣っ子は正義

第21話・世界は狭い

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「……よし」

眠るハクを抱えて建物から出た。
幸い、まだ助け出したことはバレてないみたいだ。
街は月明かりに照らされ、静寂そのものだった。ユリーディアとはまるで違う雰囲気に、世界まで違うのかと錯覚させる。

「ん……こ、こは……」

早足で歩く中、ケイジの背中にいたハクが目を覚ました。

「起きたか。どっか痛むところはないか?」

「うん、ないよ。お兄ちゃん、だれ?」

怯える様子もなく、そう尋ねるハク。まだ何かされた訳では無かったようだ。

「俺はケイジ。クロメ姫に頼まれて、ハクを助けに来たんだ」

「クロ姉が? クロ姉、げんき? ちゃんとご飯食べてた?」

「……ああ、食べてたよ。ハクのこと、すごく心配してた」

「そっか……。ハクね、知らないひとに連れていかれたの」

連れて行かれたことは覚えてるのか……。

「そっか。怖かったか?」

「うん。怖かった」

「だよな。でもまあ、もう大丈夫だ。一緒にクロメ姫のところに帰ろう」

「うん!! ありがとにーに!!」

ッ!!!!!!

瞬間、ケイジに走る電撃!!

な、何だこの破壊力は!!
テリシアとは違う属性の攻撃!!
いや、落ち着け、俺はノーマルのはずだ……!!

え?ノーマルでも仕方ない?
わ、分かってくれるのかお前ら。
にーには反則だよな、さすがに。

その時、ケイジはある気配を感じ取った。常人ならば気づかない、小さな気配。あるいは、同じ匂いを本能的に感じ取ったのだろうか。

「……ちっ」

目線の先の屋根の上には1人の男。
何度も見たことのある男だった。

「ハク、俺の後ろにいろ。絶対に離れるな」

ひとまずハクを降ろす。

「よお。久しぶりだな」

屋根の上の男に向かって話す。

「クルーガー。会うのはいつぶりだ?」

「3ヶ月前のロンドン以来だ。ブラック」

誰かって?
向こうにいた時の同業者だ。俺と同じ、向こうの世界の殺し屋だ。
高めの身長に短く切りそろえられたシルバーの髪。背中に背負ったライフル銃と野生動物のように鋭い目が特徴的な男。

「何でお前がここにいるんだよ」

「さあな、それは俺にも分からん。寝て起きたらここにいたんだ」

かなりマズい。
あいつの狙撃の腕は殺し屋達の中でも群を抜いている。俺とは違う、近づかずに撃ち殺すタイプの殺し屋だ。

「あっそ。で、俺に何の用だ」

「ふっ、そんな顔するな。お前を殺す気はない」

「じゃあ、お前はここで何やってるんだ?」

屋根から降りて来て、肩をすくめてクルーガーは言う。

「俺の依頼人はあの奴隷商だ。その狐っ子の護衛。殺し屋の使い方も知らない間抜けなクライアントだったがな」

「って事は、やっぱりやる気か?」

「いや、俺の依頼人はもう死んだ。今はフリーって事だ」

「そうか。なら……」

そして、2人は近づき、強く拳を握り合った。

「無事でよかった、ブラック。お前が居なくなってから、向こうは大荒れだったんだ」

「そうなのか? っていうか、お前はこっちに来て何日経った?」

「2日だ。ここのすぐ近くで目覚めた」

どういう事かって?
見ての通りだ。こいつとは長い仲でな。腕もあるし気も合う、この業界の中の数少ない友人だ。

さっき殺し合いそうな雰囲気だっただろって?
そりゃあそうだ。俺たちは殺し屋だ。1度依頼を受けたら、相手が親友だろうと家族だろうと殺す。

「2日か……。ま、何にせよお前でよかった。一緒に来いよ」

「ああ。ブラックは何故ここに?」

「依頼だ」

「依頼だと?」

意外そうにクルーガーは言う。

「ああ。この子の伯母、極東の姫さんからのな。俺、今ユリーディアの街のギルドに入ってるんだ」

「ギルドに? ブラックが?」

「ああ。すげえ良いところなんだ。お前もきっと馴染めるさ」

再びハクを背負い、歩き出す。

「……変わったな、ブラック」

「そうか?」

「ああ。前よりもずっと……楽しそうだ」

楽しそう、か。的を得てるな。
やっぱそう見えるのか?

見えるか。
まあ、そりゃそうか。

「実際楽しいぜ? 向こうよりもずっと」

「……なら、俺も是非楽しみたいな。この世界を」

「そうするべきだ。いい加減、自由に生きていきたい……」

3人は月明かりの照らす街を歩いて行った。
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