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第1章・ホットケーキの甘い罠?

プロローグ

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  そこにいるのは……ああ、お前達か、久しぶりだな。いや、お前達にとって俺は初対面か。
  まあいい、ここで会ったのも何かの縁だ。
  お前達に尋ねよう。
  死、とは何なのだろうか。

  ふむ……。
  人生を終えること。生命活動を止めること。天国へ旅立つこと。まあ一般的な答えだな。人によって理解の仕方は違う、それは当然のことだ。

  そもそも、経験した上での認識を共有できない「死」に正しい定義などあるまい。

  死を恐れる。それは至って一般的なことだろう。人間は、経験したことがない事象を恐れるそうだ。確かに、死を経験してなお現世で生きている人間などいない。理性と感情を手にした人間ならば至って普通の反応だ。

  これに関しては単なる愚痴だが、格好つけて「こんな死に方も悪くない」なんて言ってる奴はただのバカだと思う。死んだら元も子もないのだ。本当に大切なもののためだと言うのならば、自分の命も含めて守りきらねば意味など無い。自分が死んだら、それを1番大切にする人間はいなくなるのだから。

  少し話が逸れたな。
  何故こんな質問をするのかって?
  それは、俺が死を運ぶ人間だからだ。

  知ってのとおり、俺は殺し屋だ。依頼主の意のままに、あらゆる人間に終焉をもたらす死のサンタクロースだ。全く苦しませず、時には認識すらさせずに殺すこともあれば、死ぬほうがマシなほどの苦痛を与えて殺すこともある。全ては依頼内容のままに。

  俺達暗殺者は属さない。
  世界に紛れるためだ。

  よく分からないって?
  まあ、理解する必要は無い。

  そして今日もまた、俺は死を運ぶ。紛れ、隠れ、入り込み、潜み、殺す。変わり映えのしない動作を組み合わせ、繰り返し、厳重な守りの僅かな隙につけ込み、入り込み、標的に迫るのだ。

  とある昔話をしよう。

「た、頼む!! 金ならいくらでもあるから見逃してくれ!!」

  ある仕事を任され、鉛玉を吐き出す汚い口を標的に向けた時、そいつが俺にこう言った。
  俺はつい笑ってしまった。

  金だって?
  そんなもの、何の役に立つっていうんだ。
  金が銃弾を止めてくれるのか?
  金がナイフを止めてくれるのか?

  仕事柄こんな台詞は飽きるほど聞く。その度にバカも休み休みにしろ、と言う。金なんてものは、俺にとっては依頼を受けるためのチケットに過ぎない。あくまでも暗殺者としての秩序を守るために従っているルールに過ぎないのだ。死にたくないんなら他より先に俺を雇えばいいだけのことだ。

  なぜ暗殺者になったのかって?
  さあな、気付いたらこうなっていただけだ。
  ああ、今の世の中ならこんなことしなくても生きていける。

  それでも。
  俺がこうなったのは誰かがそれを望んでいるからだ。
  俺はそう思っている。

  そして俺は今日もまた、地獄の鎖に縛られた幽鬼の如く、引き金を引く。
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