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第3章・獣っ子は正義

第16話・噂のお姫様?

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「ああ、そういえばテリシア、今日は確か例の人たちが来る日だっけ?」

いつもの5人で、ギルドのカウンターで朝飯を食べている時にそう呟いたのはミルさん。

「そうですね。10時くらいには着くと連絡が入ってました」

頬にパンケーキを詰め込み、応えるのはテリシア。ちなみに今の時間は午前9時だ。

え?昨日?
何もなかったよ別に。
普通に世間話して寝ただけだって。

世間話するほどのネタなんか持ってないだろって?
結構毒吐くんだな朝から。世間話っていうか、フィルカニウムのことだよ。今あの街はどうしてるとか、報酬がめっちゃ高かったとか。

それにベッドも今回は別々だ。
部屋はテリシアがどうしても一緒が良いって言うから、同じ部屋に俺のベッドも置いたけど。昨日の帰りに買ったんだよ。お値段以上ニ◯リで。

ゴメン冗談だって。
なんかそれっぽい家具屋で4万イルのやつ買った。木製で綺麗なやつ。店主がすごく気前のいいやつでさ。近いからってそのまま店員たちとテリシアの家まで運んでくれたんだ。

「あの人たちって、極東の?」

2人に反応するメル。
流石に朝からは飲んでない。
っていうか頼むから俺にも分かるように話してくれないかな?

「あの人たちって誰だ?」

いや、違う。今喋ったのは俺じゃない。
そう、ガルシュだ。

お前は知らないんかい!!

本当にこいつは何なんだろう。役立たずにもほどがある。って俺は思うのに、ギルドの中じゃそこそこの立場にいる。独自のコネや協力者もいるみたいだし、ますますよく分からない。

「クロメ姫でしょ? あの狐のお姫様」

「そうです。何でも特別な依頼だから、直接出向いて頼みたいと」

狐、か……。ケルートみたいな奴じゃなきゃいいんだが……。

ああ、見た目の話な。
ケルートみたいな完全獣人じゃなくて、ケモ耳娘的な。その方が可愛いだろ?

そういえば、その狐のお姫様は極東から来るって言ってたが、ここは世界地図で見たらどこらへんになってるんだろうな。言い回しから察するに、極東、向こうでいう日本がかなり遠いって事は、ヨーロッパあたりと認識すればいいのかな。まあそのうち分かると思うけど。

「極東の姫さんがわざわざ何の依頼だろうねえ。別に向こうにも腕の立つ奴らはいるだろうに」

よく分からないといった風に肩をすくめるミル。

確かにそうだなあ。わざわざこんな遠くまで来るって事は何か特別な事情があるのだろうが。

そうこうしてる内に朝食を食べ終わり、ミルさんとテリシアは業務に戻って行った。

「ケージ、どう思う?」

これからどうしようかと思っていた所に話しかけてきたのはメル。

「どう思うって、例のお姫様のこと?」

「そうそう。何でわざわざこっちに来るんだろうな~と思って」

うーむ……。
少し考えてみるか。
ここに来るという事。いや、ここまで来なければならないって事ともとれるか。つまり、向こうじゃ解決できない事。こっちでなければならない事。

え?ヒントくれるのか?
ああ、助かる。

向こうになくて、こっちにあるものの為?
向こうになくて、こっちにあるもの、か……。

う~~~ん……。
そして姫さんが直接出向くほどの、特別な依頼。特別、特別……。
ただの魔獣退治とか救援とかそういうのじゃないって事だよな。

「なあメル、こっちにあって、極東にないものってなんか心当たりあるか?」

それが分かれば答えに繋がるかもしれない。

「う~ん……。あんまり思い浮かばないなあ。文化とか技術力とかなら向こうだって同じくらい発達してるし」

やっぱりそう簡単には分からないか……。

「あ、強いて言えばこっちにはヒューマンの住む王都があるけど。この街じゃないし関係ないか」

王都?
ヒューマンの住む、王都。

頭を回す。存在しうる情報を整理し、繋ぎ合わせていく。

あ~……。
1つ、予想が立った。

王都絡みの依頼じゃないのか?それ。
そう、例えば家宝がヒューマンに盗まれた~とか。それなら条件には一致するし、確かに特別な依頼だ。

え?惜しい?
何だ、答え知ってるのか。

……な~んか嫌な予感するんだよなあ。

「まあ、来れば分かるか」

メルには適当に答えを濁し、極東のお姫様が来るのを待った。
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