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第2章・初めてのおつかい
第15話・同棲とかさすがに気分が高揚します
しおりを挟む「なんっでだあああああアアアアアアアアア!! 」
紅に染まり始める空に、魂の叫びが響いて消えていった。
え?主人公のシャウトから始まる話はつまらないって定評? やめてくれよ怖いこと言うの。っていうかさ、理由は聞かないのか?
え?別に興味ないって?
いや、頼むよ聞いてくれよ。
そうしないと話進まないじゃんか。
仕方ないから聞いてやるって……。
なんでお前らそんな偉そうなんだよ……。まあ、とりあえず理由なんだけどな。
3時間前の話だ。
「くああ、いくら貰えるんだろうな~」
ギルドのカウンターなう。
一昨日の、村の防衛の分の報酬を貰えるっていうから、奥に入って行ったミルさんを待ってる。
予想だけど、元々の報酬が12万イルで、それに慰謝料を入れて20万イル行けばいい方か。家賃までは見てないけど、食い物の相場を見る限り20万もあれば2ヶ月くらいは家賃は何とかなると思う。
「お待たせ~。はいよ、今回の報酬」
ミルさんから報酬が入っている封筒を受け取る。
「ありがとっす。これっていくら入ってます?」
「ん~、52万イル」
「……え、52万!?」
思わず口に出てしまった。
そ、そんなに貰えるだと!?
52万って、日本でそこそこの部屋なら半年分くらいにはなるぞ!?
予想外の金額に動揺を隠せない。
「え、そんなに貰えるもんなんですか?」
「ん~まあ、今回はそのくらいじゃない? でも本来ならもっと貰えてもおかしくないよ」
ま、マジか……。
ギルドの力、恐るべし……いや、ギルドの力かは分からんが。
「普通なら村の防衛と魔獣討伐の依頼は別々にされるものなんだよ。どっちも簡単な依頼じゃないし、それを1人でこなしちゃうんだもの。100万イル超えてもおかしくなかったんじゃないかい?」
なるほどな……。
全然覚えてないんだよな、あの時の事。とりあえず、もうあの時みたいに正気を失うような事はやめなければ。
それにしても、52万イルか……。これだけあれば、そこそこ立派な部屋で暮らせそうだ。
「なるほど……。ありがとうございます。じゃ、俺は部屋探しに行ってきますね」
テリシアに貰った地図を持ち、席を立つ。
「は~い、ごゆっくり~」
そうそう、52万も貰った時はマジでビビったな。で、この後よ問題は。
何があったか?
貰った52万持って、地図の通りいくつかの不動産に行ったんだけどさ。なぜか全く借りられない。嵌められてるんじゃないかってくらいな。多人数用の部屋しか空いてないとか、改装中だとか、とにかく手頃な部屋が全く借りられなかった。
ここまで来たら街中の不動産全部回ってやろうと思ってな。ありとあらゆる店に行った。
結果か?
もうここまで来れば言わなくても分かるだろ?
惨敗だよ。
結局部屋は見つからなくて、ギルドに戻る途中でついつい叫んじまったんだ。
はあ、マジでどうしようかな……。
流石に野宿はキツいし、最悪宿に泊まるってことになるよなあ。でも段違いに金かかるし……。
重苦しい気分で、ふらふらとギルドに向かっていくケイジだった。
間。
1時間後、ギルドにて。
「ギャハハハハハ!! そんな事もあるんだな!! 」
と、隣でデカい声で笑うのはガルシュ。
うるせえよアホゴブリンが!!
笑い事じゃないんだよ!!
ああ、マジでどうしよう今日……。
「え~、でもそんな事ってあるものかな~」
反対隣で喋るのはメル。
ってベロンベロンじゃんかよ……。
「分かんないけどさ……メル飲み過ぎじゃないか?」
よだれを飛ばさないでくれ頼むから。
「え~? 飲み過ぎじゃないよお~? ほらほら、ケージさんももっと飲みなって~」
「ああ、そいつはいつもそんなだから気にすんな!! ギャハハハハハ!! 」
こいつもこいつでかなり飲んでるんだよなあ……酒臭い……。
でもまあ、これだけ美味ければ分からなくもないか。酒もつまみも、向こうとは桁違いに美味いんだ。
にしても……。
「マジで部屋どうしよう……」
「あ、皆さんお揃いで」
そこに来たのはテリシア。
片付け中であろうか、両手に食事の済んだ食器を持っている。
「ああ、テリシア……。仕事お疲れ様」
「テリシアおつかれえ~」
おいおい、メルさん食い物散らかすなって……。
え?メルがどうなってるか?
あ~、まあ酔っ払ってる。文字通りベロンベロンで、服もただでさえ薄着なのに半分くらい脱ぎかけてる。
まあ、エロいな。
って何興奮してんだよお前ら!!
テリシアもいるんだぞ?
「ケージさん、そんな落ち込んでどうしたんですか?」
「ああ、それがさ……」
事情を説明。
そう、例の不動産事件な。
「そ、そんな事ってあるんですね……」
「ああ、俺も初めてだよこんなの……」
まあこっちで部屋借りるの初めてだけどね!!
こっちの宿とかホテルって、その日に泊まる事とか出来るのかな……。出来なかったら野宿か……。
どんどん気分が沈んで行く。
とりあえず、早めに動かねば……。
「じゃあ、俺は泊まるとこ探しに行くよ。その酔っ払い2人よろしくね」
そう言って席を立った時。
「あ、あの!!」
テリシアが手を掴んで、こう言った。
「その、部屋が見つからないんでしたら、私の家に住みませんか!?」
テリシアの顔が一瞬で真っ赤になる。
…………。
…………ん?
こ、この子はマジで何を言ってるのかな?
テリシアの家にって、つまり同棲って事か?
あのさ、聞きたいんだけど。
これ、どう返せばいいんだ?
泊まれるのはありがたいけど、っていうか住むって言ったよなこの子。いやありがたいんだけど、良いのか?
幸せならオッケーです?
な、なんか聞いたことのあるフレーズだがまあいいか。
「え、良いのか?」
「は、はい!! 1人で住むには広すぎるって前から思ってたので」
そう言って手を離そうとしないテリシア。
ん~、そうじゃなくてこう、倫理的な問題が……。いや、まあいいか。
1回寝たし、今更かもな。
「あ~、じゃあ、悪いけど世話になろうかな」
まあ、何とかなるだろ……って、ああ、分かりやすく顔に……。
テリシアの表情がパアッと明るくなっていく。
そ、そんなに嬉しいか?
「はい! じゃあ、行きましょう! 今日のお仕事は終わったので!」
あっという間に帰る支度を終え、手をぐいぐいと引っ張って歩くテリシア。
見てるこっちまで顔が綻んでしまう。
本当に、素直な良い子だ。
とりあえず、寝床が見つかって良かった……。いや、野宿には良い思い出がないからな……。
2人は夜になっても賑わう街の中を歩いて行った。
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