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第2章・初めてのおつかい
第11話・血の雨の中で
しおりを挟む「そ、そんな……どうして……」
その場に跪いたテリシアは俺の隣で、愕然とした表情で呟いた。
何があったんだって?
この目の前の光景だよ。村のあちこちで火の手が上がって、そこら中に魔物がうようよしてやがる。
ああ、そうだよ。薬草を届ける予定だった村だ。クソ、やけに報酬が高いとは思ったが、理由だったのか……?
まずいな……。
ぱっと見、住人たちは避難したように見えるが、さすがにこれを放ったからして帰るわけにもいかない。ただ、情報が少なすぎる……。テリシアも明らかに動揺してるし、しっかり守らないと……。
「テリシア、立てるか? とりあえず、見つからないようにここの人を探そう」
静かに声を掛け、見つかる前に移動しようとする。
「は、はい……」
ぎゅっと握る手はすごく震えている。確かに緊急事態だろうが、これはさすがに不自然だ。
何でだ……?
少し思い出してみよう。
そういえば、ギルドに入ったのはマスターに助けてもらって、って言ってたな。もしかしてその助けてもらったってのは、自分のいた街がこいつらみたいな魔物に襲われた時じゃないのか?
仮説に過ぎないが、それなら納得がいく。だとしたら尚更、何としてもテリシアだけは守らないと。
今か?
崩れた建物の影をそ~っと歩いてる。
俺1人ならなんてことないだろうけど、テリシアもいるし、無駄な戦闘は避けたほうがいい。
「……へくちっ!」
……。
テリシアアアアアアアアアア!!!!
こんなところでまで天然スキル炸裂さすなああああああああああ!!
「グルルル……」
魔物達の視線が一気にこちらに向く。
やべえ、気づかれた!!
ヤバい、マジでヤバい!!
……ん!?
あれ、人じゃないか!?
村の中心部分から次々と人が出てくる。
あそこら辺に隠れてたみたいだ。
「おい、あんたら! はやくこっちへ!」
「テリシア、行け! 俺もすぐ行く!」
テリシアを先に避難させ、剣を抜く。
げっ、なんかキモいカエルみたいなのが飛びかかって来やがった!!
「ぬおっ!!」
なんとか横に躱す。立っていた地面が大きく抉れる。あれが直撃したら、幾ら何でもただじゃ済まないだろう。
あっぶねえええええええ!!
ミルさん、剣、使わせてもらうぞ!!
剣を鞘から抜き、構える。
ああ、やっぱり軽い。良い剣だ。
これなら!
「オラアッ!!」
隙のできた大きくグロテスクな背中を斬りつける。
「グロロララララアア!!」
キモいカエルは大きな断末魔を上げ、動かなくなった。
……この剣強すぎじゃね?
軽いし丈夫だし斬れ味いいし……。
え?
主人公補正ないんだからこれくらい大丈夫だって?いや、むしろこれが主人公補正レベルなんだが。
って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。もう充分時間は稼いだし、俺も早く逃げないと。
え?
勝てないのかだって?
まあケルートの強さとランクから考えれば勝率は低くないだろうが、如何せんこの村の事情も奴ら魔獣のことも知らないからな。テリシアもいるし万が一が起きてからじゃ遅い。
間。
ここか?
俺は今、ギルドがあるユリーディアの街から東にしばらく進んだ、フィルカニウムの街付近の村に来てる。まあ、今じゃ見る影もないが。
「えっ、どういうことですか!?」
避難した住人達に、テリシアが問い詰められている。
大丈夫なのかって?
一応妙なことする奴がいたら吹き飛ばせる距離にはいる。
「ですから今回の場合は依頼内容と大きく異なるので……即座にギルドの救援を頼むことは出来ないんです。ごめんなさい……」
どういうことか?
何でも、フィルカニウムの人達は魔物に街が襲われてすぐ、ギルドに依頼を出そうとしたらしいんだがな。魔物殲滅、村の救援の依頼を出せるほどの資金がなかったんだと。で、そこそこの額と嘘の依頼を出して、今に至る。
ギルド側も危険度の大きい討伐依頼とかなら受注したパーティの他に救援、増援の準備をしておくらしいが、今回は危険度の低い運搬依頼。すぐに救援が来るとは思えない。
やれやれ……。
今残ってる金の話より街の方が大切だって何でわからないんだこいつらは。間抜けすぎてため息が出る。
「ふん、結局はヒューマンはわしらのことなぞどうでもいいという事じゃろう」
苛立った声色で吐き捨てるように言うのは、背の低い年寄りの獣人だった。
「え……?」
なんだあのじーさん。
やけに偉そうだけど。
「そ、そんな事、思ってないです!」
「ふん。上部ばかり取り繕いよって。あの魔獣どもをけしかけたのも、お前らヒューマンじゃろうが」
は?
どういうことだ?何で俺らがあいつらを……。
ていうかちょっと待てよ?
あのじーさんが言ってるヒューマンって、王都の連中のことか?
「どういう事ですか!? なんで私達がそんなこと!」
必死に否定するテリシア。
仮に王都の連中の仕業だとしても何でだ?
まだこの世界のことを理解し尽くしたわけじゃないが、こんな急に街を襲う必要なんてあるのか?
「ふん、白々しい。違うというのなら、やつらの目の前に立って食われてみろ!」
何てこというんだこの老害が!
世界の財産テリシアちゃんに食われろだと!?
お湯に浸したらダシ取れそうなジジイは黙ってろ!!
「そ、そんな……」
ああ、やばい。
テリシア、本気で動揺してる。
え?
昔を思い出してるのかもって?
そうかもな。やれやれ、何とかするか。とりあえずあの老いぼれ何とかしてぶちのめしたいな。
それじゃ趣旨が違う?
分かってるって冗談だよ。
「納得いかないな」
テリシアの前に立って言い返す。
「若造が、何か言うことでもあるのか」
「依頼書偽造したくせに大した物言いじゃないか。お前ら本当に今の状況を理解してるのか?」
本当に、何処の世界に行ってもバカはバカだ。救いようがない。
「黙れ! そもそも、貴様らがバカみたいに高い報酬金を要求するから、こうするしかなかったんじゃろうが!」
……はあ。
本当に、何も分かってないんだなこいつは。
「ふざけんな! 金なんかよりみんなの命の方が大事だとは思わないのか! こうするしか無かっただと!? お前、本当にこの街を守りたいんなら土下座してでも懇願するべきなんじゃないのか!
それを報酬金が高いからだ? のぼせ上がるのも大概にしろ! お前が大事なのはこの村じゃなくて自分の私腹だけだろうが!
ハンターだって同じだ! あいつらだって、毎回の仕事に命かけてんだよ! 本当なら、あんな金額低すぎるくらいだ! 人の命は買えるもんじゃねえんだよ!」
内に秘めた思いを全部吐き出す。
だが、それでも治らない。
ああ、本当にイラつく……!
何だってこう、当たり前のことがわからないんだ!クソ、テリシアもいるのに怒鳴り散らしちまった……!
「……全員、3時間後にここを出られるように身支度を整えろ」
「け、ケージさん!? 何処に行くんですか!?」
クソ、クソクソクソ!!
テリシアにまで当たり散らしそうな自分が許せない!!
「外の魔獣共を皆殺しにして来る。そうすりゃそいつらも文句は無いだろ……?」
そう言ってケイジは避難所を出た。
クソ、ああ、クソッ!!
抑えられない殺気に、テリシア達はそれ以上声を掛けることが出来なかった。
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