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第1章・ホットケーキの甘い罠?

第9話・ミルメル姉妹登場

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  おはようお前ら。
  いい朝だな。

  今どういう状況かって?
  隣でテリシアが俺に抱きつきながら爆睡してる。たぶんこの子俺が昨日言ったこと全然分かってくれてない。まあ、これはこれでありかもしれないけど。

  っておいおい、朝からそんなに殺気出すなって。健康に悪いぜ?
  ほら、そんなピリピリしないでさ、見てみろよテリシアの寝顔。

「んにゅう……ふへへ……」

  何で笑ってるかは知らんが超可愛い。

  っておーい。
  生きてるかお前ら?

  うん、ダメそうだな。

  今日の予定か?
  あんまり決めてないな。とりあえず、宿代稼げるくらいは仕事しなきゃならないから、ギルドで登録と仕事探しってとこだな。ずっとここにいるわけにもいかないし。

  まあとりあえずテリシアが起きないと始まらないわけで。気持ち良さそうなところ悪いが、起こそうか。

  まだ寝かせてあげろって?
  いや、もう7時過ぎてるぞ。ギルドの仕事とか大丈夫なのか?

「おーい、テリシア? テリシアさーん?朝ですよ~」

  優しく、柔らかな頬をペチペチと叩いた。

「んむう……あ、ケージひゃん……おはようございまひゅ……えへへ……」

  満足そうな顔をしたテリシアが、まだ呂律もしっかりしないまま笑う。
  ケイジの脳内は壊滅状態。

  ぎゃあああああああああかっわあああああああ!!
  まさにテロ!!
  飯テロならぬ朝テロ!!

  え?何?せめて写真だけでも?
  ああ、悪いな。スマホ、もうぶっ壊れたから。そうそう、昨日ケルートぶっ飛ばした時。
  あいつの下敷きになってお亡くなりになった。通信機能は死んでてもカメラとかならまだ使えてたんだが、もう完全に死亡した。電子機器の無いこっちじゃ修理も出来ないだろうし。

「おはようテリシア。な、なんでそんな嬉しそうなんだ?」

  すげえニコニコしてる。寝癖もついてるしこの子は俺らを殺すつもりなのか?

「だって……ケージさん、いなくならずに隣にいてくれたから。それが嬉しくて」

  1周回って賢者モード突入。

「……俺はいなくなったりしないよ。約束は守る。ところでテリシア、もう7時だけど。時間は大丈夫か?」

  その瞬間。
  俺が7時だと口にした瞬間、テリシアの顔がサーっと青くなっていったのだった。


間。

 
  それから1時間後。

  今か?ギルドのテーブルでちびちび奢り酒飲んでる。相席にはガルシュ。
  おい、言っとくけど不本意だからな。
  頼むよ颯来。そろそろこいつの出番無くしてもいいだろ?

  テリシアか?
  カウンターで先輩っぽいエルフのお姉さんに謝ってる。事情を説明したんだろうが、エルフのお姉さんも笑ってるし、まあ大丈夫だろう。
  多分、一緒に寝た事も言っちゃったんだろうな、テリシアだし。その証拠にさっきからお姉さんめっちゃニヤニヤ見てくるし。

「おい、ケージ聞いてるか?」

  ぼ~っとギルドの中の風景を見ているケイジにガルシュが言う。

  うるせえゴブリン。
  なんでお前当たり前のように相席にいるんだよ。仲良いと思われたくないんだが。

「ん、ごめん、なんだっけ?」

  正直早くこの場をおさらばしたい。
  ケルートをぶっ飛ばした事がもう伝わってるようで、さっきからギルドのいろんな奴に声をかけられる。評判は良くなったみたいだけど、目立つのもなあ……。
  幸い、その後テリシアと寝た事はまだ広まってないみたいだから良かったけど。

「だから~。ケルートの奴をどうやって倒したのよ? あいつ、あんなんだけどギルドのランキングけっこう高いよ?」

  え、あんなんでランキング上位なの?
  それけっこうレベル低くないか?

  え? 俺が強すぎるだけって?
  ああ、まあ昨日はあいつも正気失ってたし勝てたけど、ってかあいつくらいなら普通に勝てるけどさ? 本来、俺の専門分野って戦闘じゃなくて隠密だからな? 殺し屋なんていかに標的に近付くかが問題だし。

「別に大した事はしてないさ。武器壊してぶん殴っただけ」

「だからよ、あの筋肉バカの剣をどうやって壊したんだ?」

  ん~、あの武器破壊ってそんなに珍しいか?

  え? 俺にしかできない?
  いや、コツさえつかめば誰でもできるって。

「あいつ、武器の手入れ全然してなかったみたいだし。重心に上手く同じくらい硬い物をぶつけてやれば、あのくらい出来るって」

  日本の工業製品は本当に優秀だ。
  あんな使い方をしても、折れずになんとか持ち堪えている。

「へえ~。そういうもんなんだ」

  あ、そうそう。しばらく話して感じた事だけど、この子、もう1人の相席者な。
  名前をメルカニアっていうんだけど、テリシアと違ってサバサバした子でさ。フレンドリーで話しやすい。

  見た目か?
  銀髪の髪をポニーテールにまとめてる。服装はけっこう薄着。見た所、武器は腰に差した短刀を使ってるみたいだ。

「ま、何にせよ無事で良かったな」

「ああ。ありがとう」

  ガルシュの話を適当に受け流すと、話が終わったのかテリシアとエルフの女性がケイジたちのテーブルに歩いてきた。

  え?お姉さんの方?
  なんていうか、元気な姉御肌みたいな感じだな。悪い人じゃなさそうだ。

「ああ、あんたがケージさんかい? 災難だったねえ。あっはっはっは!!」

  背中をバシバシ叩きながら、快活に笑うお姉さん。ケイジは思わず苦笑い。

  平然と笑うんですねお姉さん。俺まだ一応部外者だし、面倒事になるかもとか思ってたのに。

「もう、お姉ちゃん笑いすぎ。すごいと思わない? あのケルートをナイフ1つで倒したんだってよ」

  んー、あれはナイフを使ったことになるのか? まあ、使ったっちゃ使ったか。

「へえ、やるじゃないか。そりゃあテリシアも気にいるもんだ」

「ちょ、ちょっとミルさん! ご、誤解を招くような事言わないでください!」

  ああ、このお姉さん、メルカニアちゃんと姉妹だそうで。ミルカニアとメルカニア、そっくりな名前だよな。

「え? 誤解なのかい?」

「い、いえ、間違ってる訳じゃないですけど……」

  で、さっきからこの人達は何の話をしてるんだ? なんかテリシアめっちゃ顔赤くなってるけど。

  ああ、そうだった。
  今日はもう仕事を始めないと。

「あ、なあミルカニアさん」

「ああ、私のことはミルでいいよ」

「ん、そっか。ミルさん、俺ってもう今日からギルドに届いてる依頼って受けられるのか?」

  そろそろ働かないとまずい。
  野宿くらいしたことはあるが、来たばっかの世界でいきなり野宿は危ない気がする。

「ああ、受けられるよ。本来なら手続きが3日くらいかかるんだけど、テリシアの恩人だし、私が誤魔化しとくよ」

  おお~、さすがは姉御、ありがてえ。

「おお、ありがとう。じゃあ、早速何か依頼受けるか」

「ケイジ、なんでそんなに仕事したがるんだ?」

  このゴブリンめ、せっかく美女軍団と話してたのに入って来やがって。ってか、こいつってギルドでの立ち位置どうなってるんだろうな?

「宿がないんだ。何も持たずにこの街に来ちまったから。宿代もそうだし、食事代も稼がないと」

「へえ、そりゃあ大変だな。ん? じゃあよ、昨日はどうしたんだ?」

  こんのクソゴブリン!
  なんで妙なところで鋭いんだよお前は!
  やべえ、どうやって誤魔化そう……。

「ああ、何でもね、昨日はケージさんとテリシアで一緒に寝たんだってさ。いやあ、若いっていいねえ!」

  いきなりすぎるカミングアウトに、場が一瞬で静まり返る。突き刺さる視線が痛い。

  言っちゃうんですねミルさん。
  ていうかあんたも十分若いでしょうが。でもそれは本当に言っちゃまずいことなんだって……。テリシアも、顔真っ赤にしてる場合じゃないって……。

「お~いケ、イ、ジ、くん? どういうことかな? 私のテリシアに何したのかじっくり話聞きたいなあ~」

  ちょっ、メルさん顔怖すぎ!
  そんな虫を見るような目で見ないで!!
  あとお願いだから短刀に手をかけないで!!

「ち、ちがうのよメル! わ、私から一緒に寝たいって言ったの!」
 
  余計な一言に再びの静寂。

  テリシア。声がでかいよ。

「えええええええええええ!?」

  ギルド内に驚きの声が響いた。正しく阿鼻叫喚、である。

「ちょ、ちょっとテリシアちゃんどういうこと!?」

「一緒に寝た!?」

「ていうかあれ誰!?」

  おい、それは本人に言っちゃいけないやつ。やれやれ、2人のぶっ込みのお陰で大騒ぎだ。

  楽しくていいじゃないかって?
  んー、まあそれもそうだな。こういうのもたまには悪くない。じゃ、仕事の話は次にしようか。

  その後は、昨日の夜のことについてしばらく問い詰められたりしてましたとさ。
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