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第1章・ホットケーキの甘い罠?
第7話・スタントマンの給料はもっと上げて然るべき
しおりを挟む時刻は午後9時。
ケイジは民家の陰からケルートの様子を監視していた。
ああ。子供ならもう寝付く時間、大人は大人で秘密の時間の始まりだ。そんな時に、俺はなんでオオカミ男のケツを見てるんだろうなぁ。
突っ込んだら負けだって?
いやわかってるけどさ。
さて、どうしようか。
何がって?
あのストーカーワンちゃんの邪魔するタイミングだよ。
あんまり早く助けに入ってもことが起こる前だったら意味無いし、遅すぎたらテリシアが何されるか……あ、ワンちゃん侵入した。
侵入した時点でもう充分アウトだからって?
まあそうだけどさ。でもどうせなら、言い逃れできないくらいの証拠は抑えたいだろ?
ああ、そうだよ。俺、意外と根に持つから。
昼間にギルドで理不尽に突っかかられたこと、忘れてないからな。ガルシュも言ってたけどあいつ自身ギルドでも結構浮いてるみたいだし、いい機会だ。自分の立ち位置を過信してるアホにはちゃんと現実を教えてやらないと。
そうだろ?
殺すのかって? まさか。そんな事はしないさ。とりあえず1発殴って、後は憲兵さん達の仕事だ。
テリシアを助けてアイツを気絶させるくらいすれば、この場を解決するには充分だ。
皆のヒロインを助けた男として、街での俺の評判もいい感じになる。
そしてテリシアからの信用もいい感じになる。まさに一石二鳥。
なんだその顔。
だからなんでお前らはすぐベッドインを期待するんだよ! ギルドでの仕事がやりやすくなるって意味だよ!
ったく、無駄話が過ぎたな。
行くぞ。悪~いオオカミを懲らしめにな。
気合い満タンで、ドアノブに手をかける。
が、無慈悲にも開かないドア。
何故ならば。
待って、ドアに鍵かかってる。入れないんだけど。
え?
ケルートのやつ? 2階の窓から入ってった。
おいいいいいいい!!
どうすんだよ!
マジで早くしないとテリシアが!
何?準備不足?
いやいやだってさ!
こんな早い時間に鍵閉めると思わないじゃんか!さっきまで俺もいたんだしさ!あのオオカミも窓から入るなんて昼間は思わなかったし!
冷や汗を吹き出しながら開くことのないドアノブをガチャガチャ。今の俺を側から見れば、それはそれはシュールな絵面だろう。
どうするかって?
決まってるだろ。残された手段はひとつ。あいつと同じ、2階の窓から入るんだよ。はあ、気が重い。
出来るのかって?
ああ、このくらい大した事はない、はず。
ビルの壁を垂直に登った経験もあるし、今回は隣の家の屋根から飛び込めば届きそうだ。
しかしながら本当に気が重い……。
似たような経験があるのに何でかって?
いや、その経験のせいだよ。さっきビルに登ったって言っただろ?
1回落ちた。で、左腕折れた。運良く左腕だけで済んだから、気合いで依頼は達成したけども。ほんとにあれトラウマなんだよ。
そんなトラウマを呼び起こす頭とは別に、俺の体は淡々と隣の家の屋根に向かう動きをする。
とか言ってる間に来ちまったよ屋根上!
もうやるしかねえ!
行っくぜえええええええええ!!!!
「とうっ!!」
勢いよく窓に向かってジャンプ。
刹那、状況を把握しつつ空中で考えた。
あれ?ま、窓の奥の階段、手すりが根元から壊れてるんだけど。
い、いやなんで?なんであそこ壊れちゃってるん?このまま突っ込んだら確実に落ちるんだけど俺!
ま、まさかあのクソオオカミ、入った時に壊しやがったのか!?
……よーし分かった。
殴るのは1発と言ったな。アレは嘘だ。あの野郎、覚悟しとけよ。
さて、追想はここまで。
みんな、ありがとう。そしてもしかしたらさようなら。ガルシュ、頼むから俺の墓にはホットケーキだけは供えないでくれよ。
「ああああああああああああっ!!!!」
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