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第1章・ホットケーキの甘い罠?

第4話・テリシアさんご指名入りましたァ!

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  さて、ひとつ聞きたいんだが。
  ナンパの定義って何だと思う?

  俺の意見としては、最終的にベッドインを目的とした下心のある声掛けだと思うんだよ。だから、今回みたいな情報収集とかが目的の声掛けはナンパには含まれない。そのはずなんだが。

「テリシアは忙しいんだよ! 他を当たれ!」

  カウンターの周囲に獣人の声が響く。

  今何してるかって?
  いや、テリシア目当てのナンパ野郎扱いされてる。めっちゃゴツイ獣人さんに。なんだこれ、たぶんキツネかオオカミあたりかな。やれやれ、ケモミミの種族なら可愛い女の子と絡みたかったんだが。

  とりあえず、このうるさいケモノは放っておいて、テリシアと話さないと。
   ちなみに言っておくが、俺はまだ一言も話しかけてない。

  何があったか説明すると、俺はガルシュのアドバイス通りテリシアに色々と話を聞こうとした。だが、その様子を見ていた周りにいた獣人の1人が面倒な勘違いをして俺に突っかかったのだ。
  少しでもテリシアから引き離そうと、躍起になって怒鳴っている。

「ちょっとケルートさん! やめてください! 私に用がある人なんでしょう?」

  身勝手な邪魔者にゲンナリしていると、テリシアがワンちゃんを制止するように間に入って来た。

  おお~。ヒロインっぽい。
  さすが人気者のヒューマンちゃん。
  とりあえず話しかけようか。

「始めまして。え~と、どこから話そうかな。とりあえずガルシュから君のことを聞いたんだけど、君はこの世界の人?」

  話しかけてみたものの、聞きたい事が多すぎて上手くまとまらない。

「ガルシュさんから? は、はい、そうだと思いますが……」

  ああ、明らかに困っちゃってる……。
  やべぇなぁ……。

  そうだな、とりあえずここじゃ話し切れないだろうし、どっか邪魔が入らない場所で話したいって予約を……。

  おいこら。ちょっと待て。
  危ねぇ、乗せられるところだった。
  こんな所でそんな誘いしたら、それこそワンちゃん達に何されるか分かんねぇだろ。

  別にやり合って負けるとは思わないが、こんな所で騒ぎ起こしたりしたら、それこそゴブリンと2人っきりの異世界生活に成りかねない。
  そんな生き地獄、死んでもゴメンだ。マジで。
  さーて、どうするか……。

  え?
  とりあえずちょっとだけ離れた場所で、手早く約束だけしてくればいい?

  へえ、珍しく的確な助言してくれるんだな。
  なんか企んでるような気もするが、まあいい。

「ええと、ちょっと来てくれるか?」

  ケイジはテリシアを手招きして、カウンターから出て来てもらい、角で小声で話した。
  静止された獣人は怪訝な顔でケイジを睨み付けている。

  さーて、これで少しはまともに話せる……って何お前らニヤニヤしてんだよ!

「悪いんだけど、ここで話すには長すぎるのと、俺にとって誰にでも話せるような内容じゃないんだ。だからなるべく早く2人で話したいんだけど、予定の空いてる日ってあるか?」

  とりあえずこんなもんか。やっぱり、普通の人間相手なら話せるな。
  だから言ったろ?
  さっきはあのアホゴブリンだったから異種族に対するコミュ障が発動しただけなんだよ。

「えっ!? ふ、2人きりで、ですか!? え、えーと、その……」

  ところが、ケイジの予想とは裏腹に、テリシアはおかしな反応をする。

  ん?
  な、何でこの子はこんな顔赤くして照れてるのかな? もしかして、何か面倒な勘違いしてる?

  だからニヤニヤすんなって!
  と、とりあえず誤解を解かないと!

「あ、あの、テリシアさん? たぶんテリシアが思ってるのは俺が話したい内容とは別の何かだと思うんだけど……」

  マジでヤバイ。
  このままこんな顔であのワンちゃん達の中に戻られたら、トラブルは必須!

  え?誤解を解く必要はない?
  どういう事だ?
 
  最初に言った通り、境遇を話して同情してもらって、そのままイチャラブ作戦?

  その辺にしとけ。それマジでシャレにならんやつだから。それに、それじゃ当初の目的見失っちまうだろ?

  大丈夫だって?
  聞きたいことを全部聞いてから?
  ちょっと落ち込んだ顔して?
  俺を支えてくれないか、って言ってみる?

  あのさ、お前らのその恋愛観はどっから来てるんだよ。
  いいか。
  告白なんて軽はずみなことはしない。まずは衣食住を全部揃えて、この世界に適応する事だ。恋愛も含めてその他のことは後だ。

「あの、その、そういうのは嬉しいんですけど、やっぱり最初はお友達から……」

  顔を赤く染め、俯いて話すテリシア。
  混乱しているのか分からないがこちらの言葉はほぼほぼ届いていないようだった。
  そんな彼女を何とか正気に戻そうと、冷静に続ける。

「いや、聞いてくれ。俺が話したいのはテリシアが想像してるようなことじゃなくて、もっと重要な、俺の命に関わってくる話なんだ」

  ちょっとシリアスにキメて、何とか現実に引き戻そうとする。

  え?
  もっと重要な話って言うと更なる誤解を生みかねない? いや、まさかな……。

「わ、分かりました。あ、あの、これ、私のお家の住所です。今日、たぶん8時くらいになればお仕事も終わってると思うので、来てくだしゃい……」

  少し考え、意を決したように住所が殴り書きされたメモをケイジに手渡し、テリシアは顔を真っ赤にふらふらしながらカウンターに戻っていった。

  ……あぁ~~!!
  やっちまった!!

  ケイジ、痛恨のミス!

  完全に更なる誤解を生んじまった!
  ああ、面倒臭い……。

  え?
  もう流れで告るしかない?
  ふ・ざ・け・ん・な。お前らも大概人の話聞かないよな。いい機会だし、1つ言っといてやる。
  俺は、誰も愛せない。愛しちゃいけないんだよ。

  どういう意味かって?
  俺の持論みたいなもんだ。人を殺して金を貰ってきたような人間が、のうのうと誰かを愛したりなんかしちゃいけない。俺は、一生呪われて生きていくはずなんだ。

  その後、ワンちゃんたちに絡まれる前に流れるようにギルドから脱出。そして時間潰しに街中を散策している最中、例の如く注目され、いろんな奴に話しかけられたのはまた別のお話。

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