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第13章・結婚式!
第106話・決行日
しおりを挟む時刻は午前10時。特に変わった様子も無いギルドのカウンターで、俺とジークはコーヒーを飲みながら例の件について話していた。
「あの召喚獣についてミルさんが知ってるって本当か?」
「ああ。あの後は何も起こっていないらしいが、気になっていたから聞いてみたんだ。そうしたら『ちょうどいいからケージさんと一緒に今度ギルドで教える』と」
「そうか……」
言うまでもないかもしれないが、ジークはこちらの世界に来てからメルとミルさんと共に3人で暮らしている。たまに家での様子をミルさんから聞くことがあるが、ジークは普段よりも更に柔らかい物腰で、そんなジークにメルは甘えっぱなしなのだそうだ。
ーーー人の事は言えない立場だが、大した変化だな。
向こうにいた時は深入りこそしなかったが、ジークは業界では数少ない年齢の近い仕事仲間だった。そんな立場からお互いに話をすることも度々あり、かつての冷徹な姿は今や見る影も無い。
冷静沈着な様子こそ相変わらずだが、仲間思いの頼れる男。その立ち振る舞いはギルドを出入りする女性たちからの人気も高いのだとか。
「ところでケージ、今日は暇か?」
「ん、今日は特に予定は無いな」
「そうか」
「何かあるのか?」
「いや、特に何も」
少しだけ違和感のあるような、とはいえ普通の会話の域を出ないような喋り方のジーク。予定を聞かれるからには仕事の手伝いでも依頼されるものかと思ったが、そんなこともないらしい。
「なんだ、今日何か予定のある日だったか?」
「いや、お前に予定が無いってのが確認したかっただけだ。気にするな」
「そ、そうか…」
隠し事が上手いのやら下手なのやら。ここまであからさまに予定が無いことを確認されたら、何かあるのかと勘繰らない方がおかしいだろう。俺と違いジークは意味の無い嘘や質問は滅多に吐かない。
ーーー全く、一体何を隠してるんだか…。
まあ悪い方向に行くような隠し事ではないだろう、とコーヒーを啜りながら待ちぼうけていると、ふとギルド内が段々といつもより賑やか、というより慌ただしくなってきた事に意識が向いた。
このくらいの時間になれば仕事に出向く連中が殆どで、ギルド内は空き始めるはずだが、今日は少しばかり様子が違うようだ。次から次へとメンバーたちがテーブルに集まり、テリシアやサーチェさんを筆頭に受付嬢たちも主に飲み物や摘む物をせっせと運んでいる。
「なあ、今日ってギルドで何かあるのか? やたらと集まりがいいみたいだが」
「ああ、確かレニカさんから話があるとか。俺も詳しいことは分からないが、強制ではないはずだぞ」
「ん、そうか…」
レニカさんから話、か。それにしては俺の耳に全く届いていなかったことに少し違和感を感じるが、集まりが義務ではないのなら考えすぎだろうか。
しかしよくよく考えれば、ここ数日では身の回りで腑に落ちない事象が多い気もする。出来事ひとつひとつはそう大きな違和感ではないが、それが幾つも重なるとなると話は別だ。
ーーーまあレニカさんとミルさんの話でそれが解決するのに期待するしかないか。
決して悪意や敵意を感じる訳では無い。だからこそ違和感の正体も掴みにくいのだが、気にし過ぎだと指摘されればその通りでもある。
深読みのし過ぎや抱え込みすぎるのは相変わらずの悪癖のようだ。
「よし、そろそろか」
残りのコーヒーを飲み干したジークが徐に立ち上がる。
「何か用事か?」
「ああ。ケージ、ちょっと来い」
「あ? 何だ、俺もか?」
普段通りの表情のジークに椅子から引き剥がされ、そして俺はギルドの少し奥まった場所にある更衣室に案内された。裏口や休憩室と繋がった、通常はギルド職員が利用する更衣室だ。入るのは初めてだが、職員用の制服やタオルなどがいくつか用意されている。
そんな中をジークは迷いなく歩いていく。
「これだ。ケージ、着替えてくれ」
「……は?」
ジークがクローゼットから引っ張り出したそれは、よく手入れされたタキシードのような小綺麗な服だった。それこそ結婚式で新郎が着るような。
「お前、まさか……」
流石に俺もそこまで鈍くはないつもりだ。昨日のサーチェさんの様子や、やたらと集まりの良いギルドメンバー。そしてレニカさんまで来るとなると。
「ここまで来れば気付いたか。ならもう隠す事も無いな」
タキシードを手渡され、そしてジークが風魔法を発動させる。器用なもので、まるでドライヤーのように髪型が整えられていく。ここまで細かい魔力の出力調整ができるようになっていたとは驚きだ。
「お前の想像通りだ。ギルド主催で、今からお前とテリシアの結婚式を執り行わせてもらう」
「はは、マジかよ……」
予想だにしなかったサプライズに、思わず苦笑いが零れる。本当に、思ってもみなかった。
しかしながら体はスムーズに動いている。スーツとほぼ同じ要領で用意されたタキシードに身を包み、コートやブーツを収納する。
「色々と様子がおかしかったのはそういうことか…」
「ああ、やっぱり隠し事は面倒だな。気付かれないように気を張るのは性に合わない」
「いやサプライズしながらそれ言うか…?」
「気にするな。ほら、準備が出来たなら行くぞ」
スタスタとこちらに構うことなく歩いていくジーク。素っ気なくも見えるが、きっと、いや、間違いなく照れ隠しなのだろう。
思いがけないサプライズに笑みが溢れる。
ーーーいつかはすると思っていたが、まさかこうも早く式を開くことになるとはな。しかも他人主導で。
だが俺たちらしいと言えば俺たちらしいかもしれない。
仲間を思いやる。それが、そんな心が、ここには溢れている。
この場所は、この街は、そんな暖かさに溢れているのだ。
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ちょっと前のコメントが2018,2017年のものだったり数ページ前の更新で1年飛んでたり、番外編で颯来さんのお話とかも拝見していましたが後から更新日時を確認して驚きました。
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これからも随所に分かりにくいネタを散りばめていくのでご愛読よろしくお願いします!