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第13章・結婚式!

第104話・友情

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「ふんふーん🎵」

「ご機嫌だな、メル」

  とても良い天気の下でこの先の事を考え、楽しみな未来につい好きな歌を口ずさんでいると、とある同行者に柔らかく笑いながら揶揄われた。あまり表に出しすぎるのも如何なものかとは思うが、それでも今後のことを考えると笑みが溢れてしまうのだ。

「えへへ、つい。本番になったら、あの2人はどんな顔するのかなって」

  普段の甲冑とは異なり、今日の彼女は少しだけ大きめの春服に身を包んでいる。暖かな風に揺れる銀髪は自分のものと同じ色とは思えないほどに綺麗だった。

「確かに楽しみではあるな」

  エリスもまた、楽しそうな様子で呟く。それを見て、なんだかこちらまで嬉しくなる。

「やっぱり親友には幸せになってもらいたいからね。もちろんケージさんも大切な友達だけど」

「同感だな。確かギルドにジークを連れて来たのもケージなのだろう?」

  半年程度しか経っていないはずの思い出が、随分昔のことのように感じる。そう思うのは過ごしてきた日々が色鮮やかだったからだろうか。

「うん、そうだよ。あの時は色々と大変だったなぁ」

  テリシア以外の人間がいないユリーディアに突如として現れた2人の青年。そしてそれを取り巻く多くのトラブル。思い返せば本当に苦労の連続だった。

「それにしては楽しそうに話すんだな」

  またもや揶揄うように言われ、少しだけ気恥ずかしくなる。

「あはは、そう見える?」

「ああ。ジークやケージ、テリシアたちの話をする時のメルはいつも楽しそうだ」

「まあ、私は3人から凄く沢山のものを貰ってるから。大変なこともあったけど、それも引っ括めて大切な思い出なんだ」

  最初は塞ぎ込んでいた、幼少期のテリシアとの日々。何とか元気付けるためギルドに連れてきて、冒険者と受付嬢として、親友として過ごしてきた日々。そんな時に突然現れたケージとの日々。そして、ジークと出会ってからの日々。何もかもが、宝物のような日々だった。
  自分自身の良いとは言えない過去もある。優秀な姉を持つ故に劣等感を感じ、テリシアだけでなく自分をも何とか鼓舞してきた頃もあった。冒険者として姉やテリシアの力になろうとするあまり、女として扱われることに反感を抱くこともあった。
  それも今思えば良い思い出なのだ。今は、ありのままの私を好いてくれる友人と仲間たちがいる。

  ありのままの私を好いてくれる、大好きな男性かれがいる。

「私がジークと出会えたのはケージさんのお陰だし、テリシアは大事な親友。だから、このサプライズで少しでも今までの恩を返せればって思ったんだ」

「そうか」


  活き活きと話す彼女に、私は短く返した。


ーーーージークが言っていた通りだな。


  ジークから以前聞かされていたこと。それはメルがどんな人物かということだった。ギルドのサブマスターの妹ということもあり、ただでさえ少ない女性冒険者とも上手く打ち解けられず、そういった面での友人は今でも少ない。だからこそ、女でありながら戦える身である私に、友人になってやってくれないかと彼は頼んできた。

『よくある女の友達らしい付き合いをしてくれとは言わない。ただ、たまに話しかけてやって欲しいんだ。アイツはああ見えて寂しがり屋だからな』

  ある日の夜に、彼からそう持ち掛けられた時は驚いたものだ。てっきり酒が回っているのかと思うほどに。しかし、私を見つめる彼の目は至って真剣だった。


ーーーーきっと、ジークもそれほど……。


  それほど、メルのことを愛しているのだろう。彼が頼み事の類をあまりしないことはケージから聞いているし、ここ暫くの様子を見ていれば分かった。だからこそ、真剣さが伝わったのだ。

「もしかしたら、今度はケージたちからサプライズがあるかもしれないな。メルたちこそまだ結婚式は挙げていないんだろう?」

「あ~、どうだろうね。私はほら、ケージさんとテリシアみたいに皆から好かれてる訳じゃないから」

  少しだけ残念そうな様子でメルはそう言った。しかし、そんな様子をものともせず私は続けた。

「何を言うんだ」

  大切な友人の、心の曇り空を吹き飛ばすように。

「メルだってケージたちに負けないくらい素敵な人だ。祝いたいと言う人達はいくらでもいるさ。希望者を全員招待したらギルドがパンクするかもしれないぞ?」

「そ、そんなまさか」

「決して大袈裟ではない。周りの光が強いから自分では気づきにくいかもしれないが、メルだって十分過ぎるほどに魅力に溢れている」

  こんなにスラスラと人を褒める言葉が出てくるとは、自分でも驚きだ。流れ出る言葉に淀みが無いのは、きっとこれが私の本心だから。

「だからもっと自分に自信を持て。私が保証する」

  ユリーディアに訪れ、部下たちが様々な仕事に就く中、姉の存在もありギルドの冒険者として働くことになった私をいつも気にかけてくれたエルフの彼女。それがメルだ。
  亜人が多いこの街で物珍しい目で見られることもあったが、その度に近くにいてくれたのはメルだった。時にはパーティを斡旋してくれたり、そこに付いてきてくれたこともある。事ある毎に私に構うメルを、疑問に思うこともあった。

  だが、それは杞憂に過ぎなかった。メルは、純粋に相手を思いやることの出来る人物なのだ。だからこそ、自分に厳しい一面がある。


ーーーーだったら、今度は私がメルの良さを皆に伝えていけばいい。


  らしくないお節介かもしれない。だが、私がそうすべきだと、そうしたいと思ったのだ。

  これが友情というものならば、私はそれを大切にしたい。


  そう思うのだ。
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