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第12章・劇的ビフォーア〇ター
第92話・許すということ
しおりを挟む日が落ちてきた。ようやく、長い一日が終わる。ユリーディアを出てから不眠不休で動き続けてるから、さすがに疲れが溜まってきている。
「すぅ、すぅ……」
ジークは言わずもがな、エリスも先程耐え切れずに眠りについた。今は俺にもたれ掛かりながらすやすやと寝息を立てている。
ふと目をやると、エルとエラム、そして兵士たちもそのほとんどが眠っていた。
「あー、クソ。眠い……」
とはいえ、全員が寝てしまうのはまずい。あの胡散臭い魔術師もいるし、まだ公国の援軍が来たりする可能性もゼロじゃないからだ。
え? もう来ないから大丈夫だって?
久々に口出してきたと思ったらメタいんだよ毎度毎度……。本当に来ないんだな?
なら、一安心ってとこか……。
「ケージ!!」
「遅くなりました、ケージ殿」
ようやくクロメたちが到着した。よく見ればあのジーさんも付いてきてるじゃんか。
よろよろと立ち上がる。
「おう、終わったぞぬおっ」
絨毯から降り、そのまま走ってきたクロメに抱き締められる。そして踏ん張りが効かず押し倒された。後頭部痛いんだが。
「よくぞ、よくぞ無事で……!」
「バーカ、当たり前だ」
そのまま頭を撫でる。まだ震えていた。
確かに、この短時間で色々ありすぎたからな。
「コイツらは……おい、捕らえろ!」
「待てユウ!」
少し遅れてきた和国の兵士たちが、エリスたちを捕らえようとする。それを急いで止めた。
「いいんだ、そいつらは大丈夫だ」
「で、ですが……」
「頼む、この場は俺に任せてくれ」
「……分かりました。よろしくお願い致します」
「ありがとな」
クロメに抱き着かれたまま、どうにか立ち上がる。重い。言ったらぶっ飛ばされるだろうが。
「おい、エリス、ジーク、起きろ」
「ん……」
「Zzz……」
「……まあこのアホはいいか」
起きる気配の無いアホを放置し、エリスに手を貸す。
「この人達は……」
「はい、エリスさんごめんなさいは?」
「……」
理由があろうがなんだろうが、エリスたちがしたことは消えない。だからこそ、まずは謝らなければいけない。
「……済まなかった!」
土下座までするとは思わなかったが。
「ケージ殿、この御方は……」
「俺からも頼む。死んだ奴らもいるのは分かってるが、コイツらは許してやってくれないか」
人が人を許す、というのはすごく難しい事だ。口先で、表面的な思いで許したとしてもいざと言う時に憎しみが蘇るなんてのは良くあること。
やってやられてやり返して。戦争だって同じ原理なんだから。
「うむ、許す!」
「ひ、姫様!?」
いきなり通常モードに戻るクロメ。こうなってくれれば頼もしい。たぶん。
「ケージからの頼みでもある。女騎士よ、立ちなんし」
「……済まない」
「ケージ、ティルは……?」
「……死んだ」
その言葉すら当てはまるかは分からない。だが、死ぬほうが楽なほどの苦痛を味わわせてしまったのは確かだ。
それを今言うのはクロメに負担をかけすぎる。卑怯なのは分かってるが、今は黙っておくべきだ。
「そうか」
すると、クロメはエリスの頬を強く叩いた。
「ッ!」
バチン、と音が響く。
「……これで手打ちじゃ、女騎士」
「……ああ」
「今回の黒幕は公国じゃな?」
「ああ。お前を殺してティルを殺して、ってシナリオだろうな」
和国の兵士たちに動揺が伝わる。クロメはギッと歯を噛み締める。
ノスティア公国はこの世界でも最大規模を誇る巨大な国だ。和国とも近く、交易はここがなきゃ回らないほどらしい。
そんな国が自分たちの国を盗ろうとすれば、誰だって困惑する。そして不安にもなる。
「でな、クロメ。頼みがあるんだが」
このままじゃ話が進まない。そう思って俺から切り出した。
「なんじゃ?」
「こいつらをユリーディアに移すまで、朱天のどっかで匿ってやってくれないか」
「ユリーディアに移す?」
「ああ。エリスはレニカさんの妹さんでな、ずっと探してたんだと」
「なんと、レニカ殿の!?」
そりゃ驚くか。俺も驚いたし。
「エリス含めコイツらはみんな訳ありだ。だから、こいつらの身内を俺とジークでユリーディアまで転移させる。そう簡単にはいかないだろうからクロメたちにも手伝って欲しい」
「なるほど、そのような……」
「私からも頼む!」
見ているだけでは気が済まないのだろう、エリスも話に割って入り、頭を下げた。
「虫のいい話だとは分かっている。だが、どうか彼らを助けて欲しい。何だったら私の首を差し出しても構わない」
いやいやいや恐ろしいこと言ってんじゃないよあんた。そんなことしたら俺がレニカさんにぶった斬られるわ。
「ふっ、案ずるな。左様なことをすれば妾たちがレニカ殿に真っ二つにされてしまうわ」
「それな」
「相分かった。ユウ、城に連絡して手配を」
「ハッ!」
「済まない、恩に着る!」
心配していたが、穏便に話がついて良かった。やっぱり何だかんだいってクロメもちゃんと王様やってるんだな。
「話は終わったかの?」
「爺様……」
「ケージ君」
「はい」
「今回の騒動、解決してくれたことに礼を言うぞ」
「いえ、礼なんて」
やっぱりこのジーさん、只者じゃない。だが、今はなんでこんなにピリピリしているのかが分からない。
すると、ジーさんはすぐに目をヤツに向けた。
「ようやく、ようやく見つけたぞ……!」
「なっ、貴様は……!」
そう、あの胡散臭い魔術師だ。何か因縁があるらしい。
「……ケージ君、こいつの身柄をワシに任せてくれないか」
「どうぞ。煮るなり焼くなり、お好きに」
「済まんな」
ジーさんは魔術師を引き摺り、すぐにいなくなった。一応あの魔術師にはエリスたちの情報は全く漏らせないように魔法をかけておいたから大丈夫だろう。
「クロメ、何か知ってるか?」
「いや、知らぬ……。爺様は元来とても優しいお人で、あのような顔をするとは……」
うーん、嫌な予感がしないでもないが……。面倒事はもうごめん被りたい。
「ま、とりあえず終わった終わった。行こうぜクロメ」
「む、行くとは……?」
「この国で一番眺めのいい場所。連れてってくれるって言ったろ?」
「……!」
クロメの顔が分かりやすく明るくなる。
「うむ!うむ!行くぞ!今すぐ行こうぞ!」
「だああ、分かったから、押すなって。じゃ、あとはユウ、エリス、頼むぞ」
「は! 畏まりました」
「ケージ、ありがとう」
「おう。また後でな」
俺とクロメは絨毯に乗り、ふわりと出発した。
ん、ジークのアホか?
いいだろアレはもうしばらく寝かせとけば。
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