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第12章・劇的ビフォーア〇ター

第91話・匠のお引越し?

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「そういえばエル、お前らが相手してた兵士たちはどうしたんだ?」

「え? ああ、エラムが街に運んだはずだよ。ていうかご主人がそうしろって言ったじゃん」

「そうだったけか」

  疲れで上手く頭が回らない。魔法で街まで戻るどころか、普通に歩くのも覚束無いほどだ。
  
  つーかぶっちゃけ肩貸し合うんならジークじゃなくてエリスが良かったんだが。何が楽しくて汗臭い男同士でくっ付いて歩かなきゃいけないんだよ。

「ん……」

  ふと前を見ると、エリスに抱き抱えられたエラムが目を覚ました。大きな傷はなく、体力消耗で倒れたようだった。無事で何よりだ。

「起きたか。体調はどうだ?」

  エリスがそっとエラムを立たせる。

「うん……大丈夫そう。ありがとお姉さん」

「お、お姉さん?」

「良かったなお姉さん」

「ッ……! からかうなケージ!」

  言われた経験など無いであろうエラムの言葉に、エリスは顔を赤くした。
  にしてもエラムの奴、誰にあんな言葉を吹き込まれたのか……。

「なんだ、また浮気かケージ。お前も懲りないな」

「エラム、肩貸してくれ。コイツは捨ててくから」

「悪かった。本当に疲れてるから勘弁してくれ」

「ったく……」

  相変わらずジークは馬鹿だが、こうしていつもと同じように話を出来ると安心する。出発する前に少し揉めたこともあったが、やっぱりコイツは頼もしい仲間だ。
  ともあれ、これで今回の騒動は収まるはずだ。少なくとも和国内部は。

  問題は外側。
  エリスのこと、エルに引き摺られてる胡散臭い魔術師のこと、和国の外交のこと。頭痛の種はまだしばらく尽きそうにない。
  一先ず、エリスはギルドに来ることになるだろうが、それをどうノスティア公国の連中と話を付けるか。またはどうにかして誤魔化すか。やり方は沢山あるが、楽なやり方は無い。

  安堵ばかりしていられない。そう考えると、せっかく感じた安心も不安定なものに思えた。





間。






「よし、死傷者の報告を」

「ハッ! 負傷者59名、無傷者31名、死者0名であります!」

「なっ……」

  エリスが驚いたような顔でこちらを見る。俺も同じような驚いた顔をする。
  殺すなとは言ったが、まさか本当にしっかりと無事に抑えるとは、ドラゴンと悪魔、恐ろしや。

「分かった。無事で何よりだ。話を付けるから、そのまま待機していてくれ」

「ハッ!」

  兵士たちが敬礼をする。
  彼らは縛っても捕らえてもいない。もう戦う理由が無いんだ、そんなことをする必要も無い。
 
  エリスがこちらに歩いてくる。

「驚いたな。まさか本当にここまで被害を抑えているとは」

「1人くらいエラムが食っちまってるかと思ったけどな」

「ははは、有り得るな」

「ご主人、ひまー」

「ひまー」

  奇跡的な戦果を出した当の2人はこんなご様子。ますます現実味が無い。

  俺たちは何とか朱天に辿り着き、広場まで移動。クロメたちに連絡をした後、休息兼待機をしていた。

「じゃああのおじさん達と遊んでもらえ。ほどほどにな」

「分かったー!」

「わーい!」

  休もうとする兵士たちに襲いかかるやんちゃ2人。申し訳ない気もするが、まあいいだろう。
  俺が相手するの面倒だし。

「ふふ、子供のようだな」

「エルは知らんが、エラムは本当にまだ子供だからな。お前の部下には大変かも知れんが」

「いや、いい。彼らもああいう息抜きは必要だろう。先程自分たちを蹂躙した子たちが相手というのはアレかも知れないが」

「Zzz……」

  ジークは爆睡中。既にエル達のイタズラの餌食になっているのは言うまでもないが、まあ面白いから良しとする。
  つーかなんでアイツらキン〇マンのネタ知ってるんだ。

「ふう……で、エリス。これからどうするんだ?」

「そう、だな……」

「お前んとこの軍隊って退役願いとか簡単に受理されるもんなのか?」

  多少なり時間が掛かるにしても、問題の無い、正式な手続きで軍を抜けられるのならそれに越したことは無い。

「いや、それは難しいだろうな……」

「理由は?」

「どちらにせよ今回の作戦が失敗したことは報告せねばならん。それで責任を取る形で私が消えても、アイツらが晒し者にされることになる」

  エリスは困ったような顔でエルとエラムに振り回される部下達を見ていた。相変わらず仲間思いな奴だ。

「ん~、だったらアイツらとアイツらの家族ごとユリーディアに連れてっちまうか」

  半分本気、半分冗談だ。
  やろうと思えば出来ないことはなく、問題解決にもなるが簡単じゃない上に彼らがそれを認めるかも分からない。

「出来るのならそれが一番いいのだがな……」

「いいのか?」

「ああ。彼らは好きで軍に入っている訳では無い者がほとんどだからな」

「訳ありってことか」

「家族を守るために入隊した者もいるし、身寄りがない者もいる。公国は裏切り者には容赦しないからな」

「じゃあそうすっか」

「え?」

  面倒臭いがやるしか無さそうだ。エリスを連れて帰らない訳にはいかないし、部下達を何らかの手段で守らなければエリスは来ないと言うだろう。たぶんレニカさんでも同じことを言うと思うから。

「いや、出来るわけがないだろう?」

「何とかするさ。お前らの為だ」

  1日やそこらじゃ終わらないだろうな。1週間で終わればいい方だ。
  あの魔術師はとりあえず置いておいて、まずはまだ作戦が進行中だってことにする。で、兵士たち一人一人と公国に忍び込んで家財と家族を転移で連れ出す。
  口で言えばこれだけだが、まあそんな簡単に行くはずがない。周りの住民の目もあるし、転移自体は同じ日にやって、辻褄合わせもしないといけない。

  まったく、本当にハンターってのは割に合わない仕事だ。

「エリス、大体でいい。部隊の連中で家族持ちはどんくらいだ?」 

「そうだな……せいぜい3割ほどだ。この隊には私と同じ孤児が多いからな」

「なら、一週間ちょいってとこか……」

「ケージ、一体どうするつもりだ?」

「だから、一人残らずユリーディアに連れてくんだよ。転移魔法使って」

「そんなことが……」

「向こうでの住む場所とかは心配すんな。俺らが何とかする」

  ガルシュあたりに言えば快諾してくれるはずだ。アイツに借りを作るのは癪だが。
  まずはクロメたちと合流して、兵士たちを何処かに匿ってもらう。で、俺たちはユリーディアに戻ってまた準備をする。ガルシュたちに住む場所の準備をしてもらってる間に俺とジークで兵士たちの家族を転移させる用意をする。
  ま、何とかなるだろ。あの化け物大戦争に比べりゃどうってことない任務だ。



  そのまま、俺たちはクロメたちの到着を待った。
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