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第1章・旅立ち

6.星の神

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「お、昼間ぶりじゃの」

「ん……?」

  ふと目を開けると、そこには爺さんがいた。周りは最初に爺さんと出会った、真っ白な空間だ。

「え、もしかして俺死んだのか?」

「いや、生きておる。この世界は夢の中とでも思ってくれればよい」

「なるほど。そういやいきなり力借りちゃって悪いな」

「なに、ワシは大したことはしとらんよ。それよりも星神の1人が力を貸したみたいじゃの」

「星神?」

  確かに、俺が発動させた魔法は意識せずに星をモチーフにした魔法になった。夜だからそうなったのか程度に思っていたが、星の神様が力を貸してくれたようだ。

「うむ。何だったらここに呼べるぞ?」

「えっ、あ、じゃあお願いします」

  まさかの神様2人目。この爺さんほど気さくかどうか分からないので若干緊張。
  そんな俺を意に介さず、爺さんは持ってる杖に力を込め始める。

「ゲート」

  そういうと、真っ白な空間にぐにゃりと黒いうねりのようなものが現れた。小さなブラックホールのようにも見える。

「ユースティティア、来てよいぞ~」

  爺さんが声をかける。すると、黒いうねりの中から腰に剣を指し、目隠しを付けた綺麗な女性が現れた。

「ふう、こんばんはユウスケくん」

「こんばんは、月下祐介です」

  すげぇ美人。目隠ししてるからまだ上がり幅はありそうだけど、それにしても凄い美人さんだ。さすがは女神。

「私はユースティティア。星の力を持つ、おとめ座の女神よ」

「星の力……じゃあ、さっき力を貸してくれたのは女神様だったんですね」

  たぶんこの人も爺さんと同じく俺を見ていて、俺があそこで魔法を発動させる時に力を貸してくれたんだろう。

「ええ、そうよ。ユウスケくん、突然だけど1つお願いをしてもいいかしら?」

  お願いと言うと、お使い系の天命だろうか。まあ力を貸してもらったんだから断る訳にはいかない。

「はい、もちろんです」

「ありがと。それじゃ、私にも創造神様と同じ接し方をしてくれていいわよ。それと私のことはスティアって呼んで」

「えっ、いや、そんな神様にそんな接し方できませんよ」

「いやじゃあワシの扱いどうなってるんじゃ」

「アンタは別だろ。近所の爺さんみたいなもんだ」

「そう言ったのワシじゃけどそこまで受け入れられるとな……」

  何やらブツブツと文句を言っている爺さん。そして同じく不満げな顔をする女神様。

「何よ、山田様がいいなら私だっていいじゃない」

「いや、そう言われても……」

  チラッと爺さんに目線を送る。

『おい爺さん、なんでこの人こんなにグイグイ来るんだよ』

『そりゃこの子ユウスケのことを気に入っとるからな。ユースティティアは正義を司る神でもあるんじゃよ。だから村人を助け村を助けようとするお主を好いたんじゃろう』

『好いたって、あの程度で大袈裟な……』

『まあ悪い子じゃないのは保証するわい。少し加護を貰うくらいはいいんじゃないかの?』

『まあ悪い気はしないけどさ……』

  『じゃろ? この子もまだ若いし、お主もそういう相手がいてもいいかと思ってな』

  ん、なんか話がズレてるような気もするが……まあいいだろう。とりあえず、この星神様が俺を助けてくれたことに変わりはない。だったらこれからその恩を返すだけだ。

「えっと、スティア様……?」

「様はいらない! 敬語もいらない!」

「……スティア」

  女神様を呼び捨てとは気が引けるなぁ……。

「うん!」

「力を貸してくれてありがとう。この恩は忘れないよ。何か用があれば、爺さんみたく気軽に会いに来てくれ」

「うん、分かった! こちらこそ、これからもしっかりとユウスケくんを見守るからよろしくね!」

「はは、心強いな」

  爺さんが言ってたように、見た目通り年頃の女の子のようだ。まあ神様って時点で俺より遥かに歳上なのは確定だが、女性に歳の話をするのはどの世界でもよくないはずだからやめておこう。

「はい、じゃあこれあげる」

  手渡されたのは、虹色に輝く勾玉のような形をした宝石だった。真ん中に紐が通されており、ネックレスにするのが丁度よさそうだ。

「これは?」

「私謹製のお守りよ。それが無くても加護は付くけど、それがあれば星の力を扱いやすくなるはずよ」

「なるほど。ありがとう」

「どういたしまして~!」

  勢いよく抱き着かれる。女性との触れ合いなど経験皆無だが意志薄弱スキルが作用したのか特別慌てるようなことにはならなかった。

「ほっほ、それじゃあワシらはそろそろお暇するかの」

「あー、もう時間か。じゃあユウスケくん、またね!」

「ああ、二人ともありがとう。またな」

  少しずつ遠ざかっていく2人に軽く手を振る。元気な星神様はずっと両手を振っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「……ん」

  ん、ここは……。

「お兄ちゃん?」

「ミナ……」

  朝か。あの夢は……。

  ふと胸元に目をやると、確かにスティアから貰った宝石があった。魔力に満ちたそれはほんのりと暖かく、彼女の優しさが溢れているようだった。

「起こしに来てくれたのか?」

「うん! あのね、お店にお兄ちゃんを探してる人が来てるの」

「俺を探してる……?」

  心当たりといえば、ギルドの地区管理官くらいだ。2日以内と言っていたが、まさか次の日にくるとは思っていなかった。

「うん。女の人だったよ」

「そっか、すぐ行く。ありがとな」

  ウリウリと頭を撫で回すと、ミナはすっかりご機嫌になった。部屋から出ていくミナに手を振り、借りた寝巻きから普段着に着替える。
  ふと思ったのが、この世界に来た時から着ているこの服もこれまた万能だった。特別防御力が高いとかではないが、スキルに自動修復と防臭防汚が着いていて、洗濯裁縫いらずの便利服なのだ。初心者パックにしてはいささか気がききすぎている。

  一通りの身支度を軽めに終わらせ、部屋から出て階段を降りる。店先には見覚えのある人が立っていた。

「あ、ユウスケさん!」

「エリューシャさん。おはようございます」

  ギルドの受付嬢のエリューシャだった。何やら慌ただしい様子だ。

「おはようじゃないですよ! とにかく来てください!」

  半ば無理やりエリューシャに手を引かれ、ギルド支部を訪れる。するとそこは大勢の学者やら冒険者やらで溢れ返っていた。

「なんじゃこりゃ」

「昨日の騒ぎのせいです! あの不思議なお星様が降ってからこの村の魔力が回復して、怪我人や病人まで回復したんですよ? 大騒ぎですよ!」

「なるほど……それで、何故俺を?」

  まさかバレてるとは思えないが。

「あれだけのことを出来るのはユウスケさん以外にいませんよ……あ、大丈夫です喋ったりはしてませんから」

  その言葉にホッとした。てっきりコイツらの前に突き出されて色々と問い詰められるかと思ったが、そんなことはないようだ。

「昨日のあれを受けて管理官が今日の朝一で来てるんです。事情は説明してありますから、とりあえず会いましょう」

  騒ぎ立てる人混みの中をすり抜け、受付カウンターの奥の部屋に通される。そこには村人よりも遥かに豪勢な服を着た男が座っていた。

「おう、来たか」

「紹介します、地区管理官のフィザさんです」

「月下祐介です。どうも」

「おう、話は聞いてる。魔力量がとんでもないんだって?」

「自覚はありませんけどね」

  こっそりと神眼を使用してみたが、この人も敵ではないようだ。

「昨日のアレもお前さんの仕業か?」

「まさか。どこかの物好きな星神様の仕業じゃないですかね」

  少し嘲笑するように言う。もちろん否定の為じゃなく、俺に加護のスキルがあることを分からせるためだ。この人たちが敵対しているわけじゃないのは知っているが、こんなことに時間をかける必要も無い。能力を明かすと決めている相手ならばさっさと明かしてしまえばいい。

「ほお……ま、いいだろう。お前さんが何かやらかしても上手いこと誤魔化してやる」

「ありがとうございます」

「ただし、条件がある」

  そりゃそうだろう。何の条件も無しに俺を庇うだけの約束なんて約束ですらない。俺からも何かしらの形でそれを返さなければならない。

「何でしょう」

「1年以内にS級の冒険者と同等の結果を残せ。この国の中でな」

「S級!? そんな、無茶ですよ!」

  俺よりも先に驚いたのはエリューシャだった。そんな彼女を気にする素振りもなくフィザさんは続ける。

「お前さんが力を隠したいのは分かる。ただ力を持つ奴にはそれを行使する義務ってのがあるんだよ。分かるか?」

「理解は出来ます」

「今回のことだけでもS級と言えばそうなっちまうが、これから最低もうひとつ、何かしらの結果を残せ。そうすりゃ俺たちギルドは全力でお前を助けてやる」

  色々と言われたが、要するに『何らかの形でギルドに大きく貢献しろ』ってことだろう。確かに理にかなっている。

「分かりました」

「よし、交渉成立だな。これからよろしく頼む」

「こちらこそ」

  握手を交わす。フィザの手は力強く、硬い意思を感じた。

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