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第1章・旅立ち

2.村人のために

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  エンハ村。人口400人程度の中規模の村であり、小さなギルド支部を持つ。広い草原地帯を利用した農耕が盛んであり、特産品は麦とそれを利用したパンである。

  ふとスマホを見ると情報が少しだけ追加されていた。なるほど、実際にそこに行ったり何か関係のある事柄に関わるとどんどん情報が更新されていくシステムっぽいな。図鑑の穴埋めでもしてるみたいだ。

「にしても平和だなぁ……」

  森を抜け、スライムと遭遇した草原を通り歩いてきた。やがて舗装された道に出ると、人の手が加えられた畑も多く見えてきた。村が近いということだろう。ここらを歩いて気づいたことといえば、風が乾燥していることだろうか。肌寒い訳ではないが、湿度は低いように感じる。

  何はともあれ、まずはこの世界に関する知識を蓄えておきたい。神様のお使いが来た時に引きこもってたから何も知らないじゃ地獄落ちにされかねないからな。まああの爺さんがそんなことするはずもないだろうが、新しい人生を貰った恩はキッチリ返したい。さすがに世界を旅するなんてのは面倒だから、図書館でもあれば助かるんだが。

「あうっ!」

「うおっ」

  ぼんやりと道を歩いていると、突然後ろから足元に何かがぶつかった。可愛らしい声で呻いたそれは、振り向くとしゃがみこんで鼻頭を抑えている。

ーーー子供?

  首元までの茶髪にいかにも村人といった服装。少しばかり大きい麦わら帽子を被った少女は、涙目で笑いながら口を開いた。

「えへへ、見つかっちゃった!」

  ーーー可愛い……。

  いやいや、この子はたぶん……村の子、だよな。なんでまた1人でこんなところに……?

「えーと、どうかしたか?」

  分からん。小さい子との触れ合いとか経験皆無だからどう接すればいいのかさっぱり分からん。

「ミナね、お姉ちゃんを迎えに来たの!」

「お姉ちゃん? この辺りにいるのか?」

「うん、畑のお世話してるんだよ。お兄ちゃんは旅人さん?」

「ああ、まあそんなところだ。俺はユウスケ。よろしくな」

  接し方が分からないとはいえ、普通の大人よりはコミュニケーションのハードルは低い。何より見ていて癒される。現代の子供と言えばITに侵され家でも外でも電子機器ってのが実情だったが、科学が進歩していないこの世界はやっぱり平和みたいだ。

「ミナはミナだよ! お兄ちゃん、お姉ちゃん見なかった?」

「いや、見てないな」

「えー、お姉ちゃんどこ行っちゃったんだろ」

  いや、まさかな。まさかそんなテンプレ展開ないだろ。あれだろ、畑が広いから屈んで作業してたら気付かないとかだろ。

ーーーまさかそんな面倒事には……。

「へっへっへ、お嬢ちゃん見っけた」

ーーーなりました。

  なんなん? そういう話じゃないだろこれ。スローライフ系だと思ってたのになんで最初から無双系の入り方するんだよ。俺戦える能力とか貰ってないよ。

「ミナ、逃げて!」

  畑の中から出てきたのは男4人と縛られた女性、高校生くらいでおそらく俺と同い年くらいだろう女性だった。状況から見てミナのお姉さんだろう。

「お姉ちゃんに意地悪しないでよ! オジサンたちだれ!?」

  やだもー剣とか持ってるし完全に盗賊やんコイツら。正直関わりたくないし、怪我もしたくない。交渉すれば何とか逃がしてくれるかもしれない。だが、ここでそんなことをすればポイント減点は免れない。何となくだが、悪いことしたら減る気がする。

「お姉ちゃんと同じで気の強い子だなぁ……。俺好みだ……!」

「やめて! 妹には……!」

  考え込む俺を他所に展開は進む。とりあえずは、うん、スマホ。

ーーーん、なんか新しいアプリがある。

  アプリの名前は『ステータス設定』。まあよくあるポイント割り振りステータスだろう。とりあえず起動しとこ。


ーーーーーーーーーーーー

『ステータス設定にようこそ。初回の説明を聞きますか?』

  えっ何これは。周りの景色がモノクロになって止まってるんだが。もしかしてステータス設定する度にこんなポーズ機能みたいなことしてくれるのか。

「えーと、とりあえず説明は面倒だからいいや」

  勢いで浮かび上がった選択肢を押す。文章が消え、ソシャゲで見慣れたような画面が浮かび上がった。

  中心には俺の全身姿。各部位に服装、というか装備の名称、横の欄には状態。感情とか体温とか、健康状態とかが乗っている。下の欄には各スキルっぽいものがある。


ユウスケ・ツキシタ

レベル 無し
感情 ・冷静 ・困惑 
健康状態 良好

割り振り可能スキルポイント  30

物理攻撃 10
魔法攻撃   7
物理防御 240
魔法防御 240
体力         30
精神力     16
魔力         100

スキル
神眼 レベル1
創造神の加護  レベル4
意志薄弱  レベル2
希望 レベル2



  このステータスを見て思ったことは……ツッコミどころが多い。まず防御力がおかしい。ステータスの上がり幅にもよるだろうが、なんで防御力だけあんな吹っ飛んでるんだよ。あとレベル無しって何? 普通はレベル1からスタートじゃないの? あとさりげなくスキルに意志薄弱とかいう悪口が入ってて腹立つんだが。

「ほっほ、驚いたかの」

  前にも聞いた声。この力強く、穏やかで、どこか優しい声は。

「爺さんじゃんか」

  神様だった。前に会った時とは違い、下半身が幽霊のようにふわふわ~としながら浮いている。

「凄いじゃろそのステータス。ワシが特別に力を与えたんじゃよ」

  いや犯人お前かよ。

「いや、まあ加護とか攻撃力とかは分かるよ。ただなんでこんなに防御力特化してんだよ。あと俺のレベルどこやった」

「いや、だってお主また歩きスマホで死なれたらワシが困るじゃろ? だから不注意で事故っても絶対に死なないようにしたんじゃよ」

「いや、まあそれはありがたいけどさ。レベル無しってどうなってんだ?」

「ん~、まあそれも加護の一部じゃな。レベルという概念に囚われずにいくらでも強くなれるってことじゃ」

  うわ~チートくせ~……。防御力特化でもだいぶぶっ壊れなのに……。

「ちなみにこの世界のレベルとかステータスの上限ってどんななんだ?」

「レベルは100、ステータスは150じゃな。まあスキルレベルの上限がないからあくまでも目安として考えておくとよい」

「上限ステータスをぶっちした防御力……」

  いやデコイじゃねえか。

「ちなみに言っておくとこのモノクロの世界も初回起動の恩恵じゃから、次からはどこか安全な場所で設定するんじゃぞ」

「おう分かった。そしてちょっと待て逃げるな」

  どこか焦りを醸し出しつつ飛んでいこうとする爺さんの尻尾をがっちり掴む。

「この意志薄弱ってのはなんだ? おい」

「……」

「あっ」

  爺さんはこちらを振り向き、ニヤッと笑うとそのまま成仏するかのように消えていった。

ーーー完全に嫌がらせだあの野郎……。

  まあ何はともあれステータス……といきたいところだが。まだその時じゃない気がする。見た感じ割り振りし直しとかも出来なさそうだし、面倒だから説明聞いてないし。この防御力なら死ぬことはないだろうから、yamazonのアイテムで何とかしよう。
  たぶんこのアプリを落としたら時間が動き出すだろうから、タスキルせずにyamazonを開けば……よし、いけた。

「うーんと、今のポイントは……」

所持ポイント  1500ポイント

  このポイントで買える護身武器は、まあスタンガンとかか。値段は800ポイント、ナイフやら日用品やらと比べるとやたら高価だ。
  これを買うと、下手すると村の宿代が無くなるが……まあコイツら追っ払えばまたポイントも増えるだろう。

  スタンガン  を購入しました
所持ポイント   700ポイント

  ついでに500ポイントを銅貨5枚に替えておく。一応な。

「さーてと、いっちょやってみますか」

  まずはyamazonのアプリを閉じる。次にアイテムボックスを開き、スタンガンとサバイバルナイフを取り出しておく。とりあえずはスタンガンで全員気絶させて逃げるつもりだが、まあナイフは念の為だ。ステータス設定のアプリを閉じれば時間は動き出すし、逃げながらスマホをいじればそれこそ事故りかねない。

  ステータス設定のアプリを閉じる。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「まあまあ、とりあえず落ち着きましょうよ」

  まずは交渉。というより、ミナの方を先に逃がしたい。

「はぁ~、俺達は落ち着いてるぜ? 兄ちゃんよ」

「さっさとその子をよこしゃ痛い目には合わせずにしてやるよ」

「……じゃあこれを」

  ポケットから銅貨5枚を取り出す。

「俺の全財産です。これ払うんで見逃してください」

「嘘でしょ……? お願い、せめて妹を助けて!」

  お姉さんの方がじたばたしながらこちらを見る。

「いや俺痛いの嫌なんで……」

  これは本心。

「お兄ちゃん、行っちゃうの……?」

「……ごめんな」

  うぬ、騙すためでもすごい罪悪感が……。

  それを見て盗賊も機嫌が良くなったのか、1人が不用意に近付いてきた。

「はっはっは、兄ちゃんは頭が良いな。確かに生き残るためにゃ関係ない奴なんて」

  ここだ。

  バチバチバチィッ!!!

「ぬがあああぁ!」

  盗賊の1人が大きくビクつき、そのまま倒れ込む。どうやらちゃんと気絶してくれたようだ。

  そのまま走り出す。盗賊たちは突然のことに驚いているのか、対応が遅い。2人目が剣を抜く前に、横腹にスタンガンを叩き込む。

「ぐがががが!」

「クソッ!」

  3人目が剣を抜き、振りかぶった。

ーーーちょうどいい、試してみるか。

  物理防御力240ってのがどれくらいのもんなのか、見ておいてもいいかもしれない。とはいえ、さすがに頭で受けるのは怖いから右腕を出す。

「危ない!」

  ガキィン!

「おお」

「は……?」

  鉄で出来た剣は、刃の真ん中から砕け散った。物理防御力特化は伊達じゃないらしい。
  目の前の出来事を理解出来ず、動かない盗賊にスタンガン。残りは1人だ。

「あとはお前だけか」

「ッ……待て、許してくれ!」

  盗賊は剣を捨て、土下座をした。

「許してくれだと?」

「頼む! 有り金は全部やるし、もう二度とこの村には近付かねぇ!」

   まあ有り金は元々貰うつもりだったしな……。この手のヤツらの謝罪なんてアテになるわけがない。

「だが断る」

  首元にスタンガン。これで4人、全員だ。

  ティロン!

「またこの音か」

  
  称号『村人の味方』  を手に入れました。
  3000ポイントを手に入れました。


  おお、めっちゃポイント貰えるな。この調子なら、マイナスになることはそうそう無さそうだ。

  お姉さんの縄をサバイバルナイフで切る。

「お姉ちゃん!」

「ミナ!」

  さてと、今のうちに盗賊の持ち物を漁って逃げよっと。別に恩を売る気はない。あの子たちにお礼を貰わなくても、ポイントが手に入れば俺的には十分だからな。まあ念の為盗賊共はロープでぐるぐる巻きにして連れていこう。ギルドに連れていけば処理とかしてくれるだろ。

  俺はそそくさとその場を後にした。
  
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