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第2章・出会いと別れ
第14話・未来へ
しおりを挟む「ぐうっ……うっ……」
溢れ出る涙を止めるのに一体どれだけの時間が掛かっただろうか。
気付けば日は沈みかけており、既に森は暗くなっていた。
「ウィル、立てる……?」
一足先に落ち着いたユキが、心配そうに言う。
ーーーいい加減、しっかりしないと。
「……うん、大丈夫。帰ろう」
「うん。あ、ゴーレムの残骸はどうする?」
「ああ、そうだな……」
今から荷車を取ってきて運ぶとしても、そんなことをしている間に日は沈んでしまう。夜間に備え無しで森に入るなど危険極まりない行為だと、何度も教わった。
「明日にしよう。今からじゃ真っ暗になっちゃうから」
「ん、分かった」
せめてもの処置として、辺りに散らばった金属片を集め、その上にいつも使っていた布を被せる。これで多少は汚れやその他のトラブルを減らせるだろう。
森を抜け、まだ騒がしい街を抜ける。いつもならば少しばかり寄り道していく所だったが、今日はそんな気分にはなれなかった。
無機質な地面が跳ね返す2人分の足音が、今はやけに冷たく感じられる。
「ん……」
すると、隣を歩いていたユキが右腕に絡み付いてきた。冷えきっていた腕に触れる人肌はとても暖かい。
「……ユキ?」
「ウィル、また泣きそうだったから」
「そう?」
「うん」
正直な話、物心がついた時からあれほど泣いたことは数える程度しか無い。それはいずれも重く辛い過去で、そういったことの後は決まって考えが纏まらなくなる。頭の中がグルグルと乱れ、先のことが考えられなくなるのだ。
だが、今思えばそんな自分の周りには必ず誰かが居てくれた。
加護を得られず部屋で1人で泣いていた15歳の時は、3つしか歳の変わらないカナエが一晩中膝枕をしてくれた。
12歳の時に乗っていた馬車が盗賊に襲われ、母様が大怪我を負い先生が死んだ時には、ユキやノースがずっと寄り添ってくれていた。
そして今、恩師との本当の別れを済ませた今は最愛の相棒がこうして俺を支えてくれている。
ーーーああ、俺は……。
俺は、本当に。
「俺は幸せ者だな……」
「ウィル……」
父親と母親に恵まれた。
師に恵まれた。
メイドや友人に恵まれた。
生まれ育つ街に恵まれた。
世界を見守る神に恵まれた。
そして、相棒に恵まれた。
これだけのものを与えられて、愚図っている暇などあるものか。
先程まで冷え切っていたのが嘘かのように暖かさに満ちた体は、気付けばユキを抱き抱えていた。
「ユキ、俺と出会ってくれてありがとう! 俺頑張るからさ、先生やエンディルス様が見てて安心できるように頑張るから。だからこれからも、一緒にいよう!」
ユキの顔は驚いた表情を浮かべたのち、みるみる赤くなっていく。
「な、なにウィルまでセルビスみたいなこと言ってるの。ていうかもういいでしょ、降ろしてよ」
「あはは、ごめんごめん」
照れ臭いのか、ユキは上着を口元まで上げて顔を隠してしまった。
だが、彼女の言葉ははっきりと聞こえた。
「私だって、ウィルとずっと一緒に……」
想いは同じなのだ。
種族など関係無い。
彼の意思は、俺が受け継いでいく。
この世界を、いつか再び彼が見る時に安心できるように。
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