上 下
14 / 16
第2章・出会いと別れ

第14話・未来へ

しおりを挟む

「ぐうっ……うっ……」

  溢れ出る涙を止めるのに一体どれだけの時間が掛かっただろうか。
  気付けば日は沈みかけており、既に森は暗くなっていた。

「ウィル、立てる……?」

  一足先に落ち着いたユキが、心配そうに言う。

ーーーいい加減、しっかりしないと。

「……うん、大丈夫。帰ろう」

「うん。あ、ゴーレムの残骸はどうする?」

「ああ、そうだな……」

  今から荷車を取ってきて運ぶとしても、そんなことをしている間に日は沈んでしまう。夜間に備え無しで森に入るなど危険極まりない行為だと、何度も教わった。

「明日にしよう。今からじゃ真っ暗になっちゃうから」

「ん、分かった」

  せめてもの処置として、辺りに散らばった金属片を集め、その上にいつも使っていた布を被せる。これで多少は汚れやその他のトラブルを減らせるだろう。
  
  森を抜け、まだ騒がしい街を抜ける。いつもならば少しばかり寄り道していく所だったが、今日はそんな気分にはなれなかった。
  無機質な地面が跳ね返す2人分の足音が、今はやけに冷たく感じられる。

「ん……」

  すると、隣を歩いていたユキが右腕に絡み付いてきた。冷えきっていた腕に触れる人肌はとても暖かい。

「……ユキ?」

「ウィル、また泣きそうだったから」

「そう?」

「うん」

  正直な話、物心がついた時からあれほど泣いたことは数える程度しか無い。それはいずれも重く辛い過去で、そういったことの後は決まって考えが纏まらなくなる。頭の中がグルグルと乱れ、先のことが考えられなくなるのだ。
  だが、今思えばそんな自分の周りには必ず誰かが居てくれた。
  加護を得られず部屋で1人で泣いていた15歳の時は、3つしか歳の変わらないカナエが一晩中膝枕をしてくれた。
  12歳の時に乗っていた馬車が盗賊に襲われ、母様が大怪我を負い先生が死んだ時には、ユキやノースがずっと寄り添ってくれていた。
  そして今、恩師との本当の別れを済ませた今は最愛の相棒がこうして俺を支えてくれている。

ーーーああ、俺は……。

  俺は、本当に。

「俺は幸せ者だな……」

「ウィル……」

  父親と母親に恵まれた。
  師に恵まれた。
  メイドや友人に恵まれた。 
  生まれ育つ街に恵まれた。
  世界を見守る神に恵まれた。
  そして、相棒に恵まれた。

  これだけのものを与えられて、愚図っている暇などあるものか。

  先程まで冷え切っていたのが嘘かのように暖かさに満ちた体は、気付けばユキを抱き抱えていた。

「ユキ、俺と出会ってくれてありがとう! 俺頑張るからさ、先生やエンディルス様が見てて安心できるように頑張るから。だからこれからも、一緒にいよう!」

  ユキの顔は驚いた表情を浮かべたのち、みるみる赤くなっていく。

「な、なにウィルまでセルビスみたいなこと言ってるの。ていうかもういいでしょ、降ろしてよ」

「あはは、ごめんごめん」

  照れ臭いのか、ユキは上着を口元まで上げて顔を隠してしまった。
  だが、彼女の言葉ははっきりと聞こえた。

「私だって、ウィルとずっと一緒に……」

  想いは同じなのだ。

  種族など関係無い。

  彼の意思は、俺が受け継いでいく。

  この世界を、いつか再び彼が見る時に安心できるように。

  

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...