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三章 おとぎの夢

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 メガネとサングラスを掛けたヨミとセナは悪夢の様子を注意深くうかがっていた。
 ユメナに照らされた能力の光は効力が切れるのを示すように、どんどん力を無くしていく。
「う……うう……」
「この能力も時期に効力が切れる。それまでにどうにかなってくれることを祈るしかない……」
「ユメナ、頑張れ……!」
 ヨミがユメナの手を握りしめたその時、真っ青だったユメナの顔色がほのかに色づいた。
「顔色が良くなった……!」
 セナはずれたサングラスをかけ直すと、大きな声を出した。
「見ろ。悪夢がどんどん小さくなっていく……!」
 はち切れそうなくらいに膨れ上がっていた悪夢が、突然空気が抜けたふうせんのようにしゅるしゅると力無くしぼんでいく。それはユメナの脳が物語の終末を判別した、ということをしっかり示していた。
「ギリギリのところでうまくいったみたいだね」
 あっという間にあめ玉サイズにまで小さくなると、ヨミがすばやく悪夢の塊を手に取った。ユメナの顔からは汗が引き、寝息はすやすやとやわらいでいる。その姿を見てセナは安堵の息を落とした。
「ま、間に合ってよかった」
「セナくん、君のおかげでユメナを助けることができた」
 ヨミが「ありがとう」と体を折り曲げると、セナは、ぽっと頬を染め満更でもなさそうな顔をした。
「別に、大したことじゃない」
 するとユメナが眉間にシワを寄せ、体をもぞもぞと動かした。
「んぅ……ここは……?」
 ユメナは目をこすりながらゆっくりと上半身を起こす。ぼんやりとした顔は状況を把握できていないようだった。頭上にいくつものはてなマークを浮かべながら、ぱちぱちと何度もまばたきをくり返す。
「おはようユメナ。良い夢見れた?」
「……ヨミ……」
 ユメナはヨミの顔を見るなり、勢いよく後ずさる。
 そして先ほどまとっていたドレスとは違う装いを見て困惑したような表情を浮かべた。
「ここ、まだ夢の中? 一体どういうこと? 私夢の中で眠ってたの?」
「ああ。まあ、色々あってその間に俺たちが悪夢を狩り取らせてもらった」
 キリッとした顔つきで言うセナに、ヨミは「くく」と小さく笑いながら続ける。
「うんうん。瀬戸際だったけど、今回はぼくじゃなくてセナくんのお手柄」
「セナくんが助けてくれたの……?」
「特殊能力だよ。セナくんは一時的に夢をすり替えることができる能力の保持者なんだ。だから少しだけユメナの嫌な夢を良い夢にすり変えてもらって、その隙にぼくが悪夢を回収した。まあ、麻酔治療的な?」
 上手くいったのか、ヨミとセナは「いぇーい」とグータッチをした。
「それよりどうだった? 理想の王子様との結末は」
 ヨミがにやにやと問いかけるとユメナは赤い顔でキッとにらみつけ、ヨミを指差しながら声を荒げた。
「なにが理想の王子様よ! また私の夢に勝手に入ってきて!」
 ヨミとセナはクエスチョンマークを浮かべながらまばたきをする。
「……へ?」
「しらばっくれないで!」
「え、いや、えっと」
 ユメナに詰められ、ヨミは赤面しながらたじろぐ。するとそばで見ていたセナが助け舟を出すように口を開いた。
「あ、あの……」
「セナくん! 何も言わないで!」
 ヨミがあわてて早口で制止すると、セナは両手で口を覆う。
「それよりそろそろ夜が明ける! 戻ろう!」
「ちょっと! 誤魔化さないでよ!」
 セナはユメナの肩をぽんと優しく叩き、それ以上は勘弁してあげた方が……とでも言うかのように首を振った。
「セナくんまで……」
「夜が明ける前に出ないと、それこそ取り返しがつかなくなる。急ごう」
 上手い具合にセナに言いくるめられたユメナは、不満げにうなずいた。そしてセナに人差し指で額をコツンと軽く突かれると、ユメナは意識を失うように倒れ込んだ。

「……ありがと、セナくん」
「別に」
 ヨミはセナの腕の中でぐっすりと眠るユメナを見て目を逸らす。ヨミは赤い顔を隠すように背を向けると、あめ玉サイズになった悪夢の塊をセナに放り投げた。
「それはセナくんにあげる。今回はセナくんの能力に助けられたから」
「いいのか?」
「それよりあの時、ぼくの名前……出してなかったよね?」
「あの時……」
 セナは能力を発動した時を思い出す。

『――あるじ蔓延はびこる悪夢に告げる。
 夢のあるじ、ユメナを物語の終末しゅうまついざなえ。
……えっと……内容は、理想の王子様のキスで目覚める感じで……』

「ああ。理想の王子様としか言ってない」
「もう~……なんなんだよぉ」
 ヨミは頭を抱えると自分の髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。前髪の隙間から見える熱を帯びた瞳に、セナはふっと小さく笑う。
「あの子にとっての理想の王子様がまさかお前だったとはな……」
「黙って」
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