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三章 おとぎの夢
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しおりを挟む――ここは悪夢の最果て?
ユメナは棺のような真っ黒のベッドで眠っていた。体は眠っているが頭はぼんやりと働く。まるで金縛りにあっているような感覚だった。ここが現実なのか夢の中なのか判別ができない。
耳元でざわざわと木々が揺れるような不気味な音がし、ユメナは不安と恐怖で目をぎゅっとさらに固くつぶる。
助けを呼ぼうにも声が出ない。
引き寄せられるように手を伸ばした糸車には、鋭利な針のようなものが光っていた。それに触れた途端、体に電流のようなものが走り、あろうことかそのまま意識を手放してしまった……
――ああ、私はまた選択を間違っちゃったのかな。あの時、自分勝手な行動などせずにヨミとセナくんの後をしっかりついて行っていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
悔やんでも悔やみきれないことばかりが頭の中を埋めつくし、鼻の奥がツンと熱を帯びる。
「ユメナ」
頭上から突然聞こえた声にユメナの指先がぴくりと動く。その声に応えるように目を開きたい。けれど目はおろか、声すらものどを通らない。
(その声は、ヨミ……!?)
「こんなところにいたんだね。でも、もう大丈夫。ぼくが助けにきたから安心して」
悪夢のイバラを取り除いてくれるような優しい声に涙が出そうになる。ヨミはへその上で組まれているユメナの手をぎゅっと握りながら話を続けた。
「ユメナ、君は今千年の眠りにつく呪いをかけられている。夜が明ける前にその呪いを解かなければ君は永遠にそのままだ。……でもね、呪いを解く方法がひとつだけある」
ユメナは心の中で「どうすればいいの?」と必死に問う。しかし、心の声はヨミには届かない。
「……王子からのキスだよ」
ヨミはユメナにだけ聞こえるように言った。キス、という単語に頭が一瞬真っ白になる。
「ごめんね、本意じゃないかもしれないけど」
そう言うと、ヨミは早速ベッドの中に上半身を沈ませた。ぎしっという音がユメナの耳元で大きく響く。
(ま、待って! 待って待って……! 嘘でしょ!? 心の準備もまだ……!)
盛大にあわてるユメナを余所に、ヨミはどんどんユメナとの距離を縮めていく。
「ユメナ……」
ヨミの甘い声に頭の中がひりひりとしびれる。
そしてついにくちびるにヨミの熱い吐息がかかり、胸の奥が銃で撃ち抜かれたように大きく跳ねた。どきんどきんとうるさく音を立てる心臓が、ヨミにまで伝わっているかもしれない。
(うそ。ほんとにキス、しちゃうの……)
ユメナはもうどうにでもなれと言い聞かせながらつぶった目に力を込める。そしてくちびるが微かに触れた時、びくともしなかった体に突然力が入った。
「やっ、やっぱりだめぇぇ!!」
ユメナは目を見開いて飛び起き、目の前の体を勢いよく押し退けた。背中は緊張からか汗でしめっている。ぼやけた視界に目をほそめながら、ユメナは自身のくちびるにそっと指を当てた。
「い、一瞬だけふれた……」
「よかった! 目が覚めたんだね。お姫さま」
ようやく視界がクリアになり、瞳の中にヨミの顔が鮮明に映る。
ヨミはユメナの手を取ると、にこりと笑った。
「これで君の夢物語は完結だ」
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