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二章 夢のはじまり
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「いったああああああい!!!」
飛び起きたと同時に目の前のイケメンにまたもや頭突きをかましてしまう。
セナは額を押さえ、痛みで悶絶しながら目に涙を浮かべた。
「ま、またダメだった……あんなにイメージトレーニングしたのに……」
一部始終を見ていたヨミは声を出して笑うと、ユメナの頭をよしよしと撫でながらこそっと耳打ちをする。
「セナくんはね、顔はめちゃくちゃカッコいいけど夢を食べるのが破滅的に下手なんだ。そりゃあもうぼくたち同期……いや、ユメクイの中でトップレベルで」
「それを早く言ってよ!」
「え? 気付いてたんじゃないの?」
ヨミは涼しい顔で言う。言われてみれば先ほど現実に引き戻されたほどの激しい痛みに酷く似ていた。
「また一歩脳死に近づいた……」
「大丈夫大丈夫。下手すぎて脳には全然支障ないから」
けたけたと笑うヨミ。ベッドの脇で正座していたセナは「下手」を連呼され、あからさまにへこんでいた。
「焦る気持ちは分かるけどいきなりレベルが高い悪夢を食べてポイントを稼ぐのはどうかと思うよ、セナくん」
同期だと言うのに、まるでヨミの方が何年も先輩かのような口ぶり。どっかの誰かさんも勤務初日に人の頭にかじりついたというのに、だ。
セナは拳をぎゅっと強く握ると、消え入りそうな声で「分かったような口をきくな」と呟いた。
「お前には分からない、俺の気持ちなんて」
「全ッ然分かんないね~ ユメクイのサラブレッドであるセナくんの気持ちなんてぼくにはぜーんぜん分からない」
「ユメクイのサラブレッド?」
ユメナが質問すると、ヨミとセナの視線がユメナに向いた。
「ユメクイになる人っていうのはね、基本親族の誰かがユメクイであることが大前提なんだ。まさに血筋の世界だね。大抵の人が親族の誰か一人がユメクイだったりするんだけど、セナくんはなんとまあビックリ! 祖父母両親共にユメクイのまさに華麗なるユメクイ一族のご子息なんだよ!」
ユメクイという世界をそもそもよく理解していないユメナだが、とりあえずその場の流れで「ほう」と感心してみせる。しかしその誇張した言い方を嫌味ととらえたのか、セナは眉間にシワを寄せた。
「本来なら能力に恵まれてるはずなんだけどねぇ……」
哀れむように呟くヨミに、セナは顔を赤くしてヨミの胸ぐらを掴んだ。小柄なヨミに長身のセナ……体格の差は一目瞭然だが、ヨミはこの展開を予想していたかのように悠然な態度でセナを見上げている。そしてセナは胸ぐらを掴む手をぷるぷると震わせると、糸が切れたようにわっと泣きはじめた。
「俺はどうせ落ちこぼれだよおお!」
ぽろぽろと大粒の涙をこぼすセナ。
あまりの衝撃でユメナの頭の中にあった流星ハルトという完璧なアイドル像がガラガラと音を立てて崩れた。
「俺だって、完璧に振る舞える流星ハルトの姿でいたい。でも両親や親戚の期待に応えなきゃいけない毎日でもう心がパンク寸前なんだ。アイドルの仕事は頑張れば頑張るほど身につくのに、ユメクイの仕事だけはいつも空回りしてばっかりでプレッシャーだけがどんどん膨れ上がっていく……気付けばアイドルとしての自信よりも、ユメクイとしての劣等感の方が自分自身を塗りつぶしてる」
嗚咽混じりに心情を吐き出すセナを見て、さすがに可哀想だと思うユメナ。アイドルとユメクイ……二足のわらじでの生活自体大変そうだと言うのに背後にはいつも両親からの期待の目。底知れない重圧が彼を支配していると思うとさすがに同情してしまう。
「あの……」
おずおずと声を掛けると、ヨミが「ん?」と首を傾げた。
「私の悪夢を食べれば、高ポイント?に繋がるの?」
「高ポイントというか、今月のノルマは容易に達するだろうね」
ユメクイはノルマの世界でもあるのか、とユメナは妙に冷静な頭で考える。そして気付いた時には言うはずのなかった言葉がのどを通り抜けていた。
「じゃあ、もう一回食べる? 私の悪夢」
「えっ……」
セナも予想だにしていなかったのか、顔を上げてユメナを見つめた。目にたまった涙が月の明かりで照らされ、まるでドラマのワンシーンを切り取ったようだった。
ヨミは呆れたように大きなため息をつく。
「ユメナのその優しさはいつか命取りになるよ。セナくんは気弱で優しいユメクイだから良かったけど、中には痛みでもがくユメナを押さえつけてでも悪夢を食い散らかす奴もいるんだから」
ヨミの低い声にゾッとする。
「そんなユメクイが来たら私どうすれば……」
「うん。だからぼくが護衛してあげる」
こてっと首をかしげてさらりと言いのけるヨミに、ユメナは目を丸くした。
「君は悪夢を生成し続ける特殊な人間だ。ぼくは長年ユメクイをしてるけどこんな悪夢体質を持つ人間は初めて見る。ユメクイとしても、もう少し君のことを調べたい」
「特殊な悪夢体質……? っていうか、長年って……新入社員なんじゃ……」
ヨミは意味深な笑みを浮かべるとユメナのくちびるに人差し指を当てた。その途端、ユメナは激しい眠気に襲われる。
「じゃあお言葉に甘えて、悪夢いただいちゃおうかな」
「待っ、て。話はまだ……」
あっという間にヨミの腕の中で体をだらんとさせるユメナを見て「容赦ないな」と引き地味につぶやくセナ。
ヨミはおかまいなしに胸ポケットから丸メガネを取り出すと、ユメナの悪夢の様子を確かめた。続けてセナも懐からサングラスを取り出す。
「相変わらず見た目だけはカッコいいね」
「……」
ヨミはユメナを抱きかかえてベッドに優しく寝かせると、セナににこりと笑いかけた。
「これ以上悪夢が膨れ上がったら大変だ。早速悪夢の中に行こうか、セナくん」
飛び起きたと同時に目の前のイケメンにまたもや頭突きをかましてしまう。
セナは額を押さえ、痛みで悶絶しながら目に涙を浮かべた。
「ま、またダメだった……あんなにイメージトレーニングしたのに……」
一部始終を見ていたヨミは声を出して笑うと、ユメナの頭をよしよしと撫でながらこそっと耳打ちをする。
「セナくんはね、顔はめちゃくちゃカッコいいけど夢を食べるのが破滅的に下手なんだ。そりゃあもうぼくたち同期……いや、ユメクイの中でトップレベルで」
「それを早く言ってよ!」
「え? 気付いてたんじゃないの?」
ヨミは涼しい顔で言う。言われてみれば先ほど現実に引き戻されたほどの激しい痛みに酷く似ていた。
「また一歩脳死に近づいた……」
「大丈夫大丈夫。下手すぎて脳には全然支障ないから」
けたけたと笑うヨミ。ベッドの脇で正座していたセナは「下手」を連呼され、あからさまにへこんでいた。
「焦る気持ちは分かるけどいきなりレベルが高い悪夢を食べてポイントを稼ぐのはどうかと思うよ、セナくん」
同期だと言うのに、まるでヨミの方が何年も先輩かのような口ぶり。どっかの誰かさんも勤務初日に人の頭にかじりついたというのに、だ。
セナは拳をぎゅっと強く握ると、消え入りそうな声で「分かったような口をきくな」と呟いた。
「お前には分からない、俺の気持ちなんて」
「全ッ然分かんないね~ ユメクイのサラブレッドであるセナくんの気持ちなんてぼくにはぜーんぜん分からない」
「ユメクイのサラブレッド?」
ユメナが質問すると、ヨミとセナの視線がユメナに向いた。
「ユメクイになる人っていうのはね、基本親族の誰かがユメクイであることが大前提なんだ。まさに血筋の世界だね。大抵の人が親族の誰か一人がユメクイだったりするんだけど、セナくんはなんとまあビックリ! 祖父母両親共にユメクイのまさに華麗なるユメクイ一族のご子息なんだよ!」
ユメクイという世界をそもそもよく理解していないユメナだが、とりあえずその場の流れで「ほう」と感心してみせる。しかしその誇張した言い方を嫌味ととらえたのか、セナは眉間にシワを寄せた。
「本来なら能力に恵まれてるはずなんだけどねぇ……」
哀れむように呟くヨミに、セナは顔を赤くしてヨミの胸ぐらを掴んだ。小柄なヨミに長身のセナ……体格の差は一目瞭然だが、ヨミはこの展開を予想していたかのように悠然な態度でセナを見上げている。そしてセナは胸ぐらを掴む手をぷるぷると震わせると、糸が切れたようにわっと泣きはじめた。
「俺はどうせ落ちこぼれだよおお!」
ぽろぽろと大粒の涙をこぼすセナ。
あまりの衝撃でユメナの頭の中にあった流星ハルトという完璧なアイドル像がガラガラと音を立てて崩れた。
「俺だって、完璧に振る舞える流星ハルトの姿でいたい。でも両親や親戚の期待に応えなきゃいけない毎日でもう心がパンク寸前なんだ。アイドルの仕事は頑張れば頑張るほど身につくのに、ユメクイの仕事だけはいつも空回りしてばっかりでプレッシャーだけがどんどん膨れ上がっていく……気付けばアイドルとしての自信よりも、ユメクイとしての劣等感の方が自分自身を塗りつぶしてる」
嗚咽混じりに心情を吐き出すセナを見て、さすがに可哀想だと思うユメナ。アイドルとユメクイ……二足のわらじでの生活自体大変そうだと言うのに背後にはいつも両親からの期待の目。底知れない重圧が彼を支配していると思うとさすがに同情してしまう。
「あの……」
おずおずと声を掛けると、ヨミが「ん?」と首を傾げた。
「私の悪夢を食べれば、高ポイント?に繋がるの?」
「高ポイントというか、今月のノルマは容易に達するだろうね」
ユメクイはノルマの世界でもあるのか、とユメナは妙に冷静な頭で考える。そして気付いた時には言うはずのなかった言葉がのどを通り抜けていた。
「じゃあ、もう一回食べる? 私の悪夢」
「えっ……」
セナも予想だにしていなかったのか、顔を上げてユメナを見つめた。目にたまった涙が月の明かりで照らされ、まるでドラマのワンシーンを切り取ったようだった。
ヨミは呆れたように大きなため息をつく。
「ユメナのその優しさはいつか命取りになるよ。セナくんは気弱で優しいユメクイだから良かったけど、中には痛みでもがくユメナを押さえつけてでも悪夢を食い散らかす奴もいるんだから」
ヨミの低い声にゾッとする。
「そんなユメクイが来たら私どうすれば……」
「うん。だからぼくが護衛してあげる」
こてっと首をかしげてさらりと言いのけるヨミに、ユメナは目を丸くした。
「君は悪夢を生成し続ける特殊な人間だ。ぼくは長年ユメクイをしてるけどこんな悪夢体質を持つ人間は初めて見る。ユメクイとしても、もう少し君のことを調べたい」
「特殊な悪夢体質……? っていうか、長年って……新入社員なんじゃ……」
ヨミは意味深な笑みを浮かべるとユメナのくちびるに人差し指を当てた。その途端、ユメナは激しい眠気に襲われる。
「じゃあお言葉に甘えて、悪夢いただいちゃおうかな」
「待っ、て。話はまだ……」
あっという間にヨミの腕の中で体をだらんとさせるユメナを見て「容赦ないな」と引き地味につぶやくセナ。
ヨミはおかまいなしに胸ポケットから丸メガネを取り出すと、ユメナの悪夢の様子を確かめた。続けてセナも懐からサングラスを取り出す。
「相変わらず見た目だけはカッコいいね」
「……」
ヨミはユメナを抱きかかえてベッドに優しく寝かせると、セナににこりと笑いかけた。
「これ以上悪夢が膨れ上がったら大変だ。早速悪夢の中に行こうか、セナくん」
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